第3話 第1題目「料理」 異世界人ver
魔術とは魔力を使い、物理法則を幻想で書き換える奇跡の名である。
現実に投影した幻想の力は、魔術を起こす者の魔力、そしてその者が抱く幻想の強さによって決まる。
レイス・オーディシア。かの世界において、彼女の横に並ぶ魔術師はそういない。
そんな彼女が今日_____魔力なきこの世界で猛威を振るう!
「あれ、レイス昨日の夜いなかったよな。なんで?」
「敵情視察のため、サラの作った料理を少々味見させてもらっていたのだが、それから記憶が飛んでいてな。気づけば朝になっていた」
「盗み食いして気絶してただけじゃねーか」
「あらまぁ、気絶していたの? それじゃあ、この勝負はもう私の勝ちってことでいいんじゃない?」
「ゴホン、馬鹿を言え。私の力はこんなものではないわ。まぁ、こちらに来れば分かることだ。サラも共に来るが良い」
盗み食いしておいてなぜここまで堂々としているのか全く理解できないが、マグロを背負ってきてまで食材を探しにいっていたので、料理についても準備はできているのだろう。そしてサラの食事を食べても尚、レイスは諦める姿勢を見せていない。
(……どうしよう。これ、勝敗って俺が決めるんだよな? なんか気まずくなってきたぞ……)
この二人、性格的には「頑固」「意地っ張り」「傲慢」という、付き合いたくない人間の条件を見事なまでに満たしているのだが、果たして平和な事態解決の道はあるのだろうか?
「さて……それでは、席に着くがよい」
「これは……!」
そんな不安は、レイスが用意した空間に入った途端、全て吹き飛んだ。
異世界人であるレイスの料理と聞いて、最初に思い浮かんだのは食べきれないだけの肉の塊、あるいは見たこともない調味料を使った虹色の魚などである。どうやら魔術というものがあるファンタジーな世界とのことなので、きっと奇想天外なモンスター料理があるのだろうと考えていた。
だが_____蓋を開けてみれば、そこには完璧なまでにこの世界へのリスペクトが込められた空間があった。
「木のカウンターデスクに……冷凍された魚? 確かこれって……寿司、だっけ?」
「そうだ。どうやらこの国では寿司という料理が特に好まれていると聞いてな。私なりに、寿司屋とやらを再現してみたのだ。どうだ、勇也よ?」
「いや……なんていうか……すげぇな」
それは何もピカピカに磨かれた床や机の清潔さだけの話ではない。冷凍庫に入れられた魚は見るからに鮮度が高く、保存状態が完璧であることを示している。いつの間にか改装された店内は柔らかな照明も相まって木材の暖色がより深まって見えるようになっており、飾られたインテリアも非常にマッチしている。
そして、レイスの姿も正に寿司屋の店長としての風格ある姿に変わっている。白い制服は日本人離れしたレイスの容姿とも妙に相性が取れており、違和感がない。
異世界人が作り上げた、完璧なまでの寿司屋。このようなクオリティの店に来るのは、俺にとっても久しぶりのことだ。
「なんか昔行ったことがあるちょっと値段の高い寿司屋に似てる気もするな。お前、いつの間にこんなことを勉強したんだ?」
「なーに、簡単だ。実際に市場を回り、寿司を食わせてもらったのだ。あの時の店主、人間として中々にできていたな。実に良い腕前だった」
「え、金とかどうしたんだよ? バイトでもしてたわけでもあるまいし……」
「マグロを一匹プレゼントしたら、喜んで握ってくれていたぞ。魚一匹でここまで美味い食事をくれるとは、この世界の料理人は人情深いのだな」
(マグロ一匹はそりゃ喜ぶだろうよ。ぼったくりもいいところだ)
勝手に感動してくれているので、深くは突っ込まないでおこう。マグロをどうやって釣ったのかにも興味があったが、それは触れてはダメな気がした。
「その店長がマグロ以外の魚をプレゼントしてくれてな。いやぁ、良い食材だ。私の世界でなら、貴族や竜の食事に使われるほどだぞ」
(竜が高級魚食うのは全然イメージできねぇな)
「さて_____それでは早速、寿司を作っていくとするぞ! 出でよ、我が精霊たち!」
レイスがノリノリでそう言い放つとどこからかレイスの杖が現れ、その先から光輝く小さな生物が大量に現れた。
「わぁ……か、可愛い……かなぁ?」
「なんか……思ってたのと違うな……」
精霊と聞いて最初に思い浮かんだのは、羽の生えた小人や、よく分からない言葉を話す
「ウギャー! やっと出てこれたぜ! ここが
「フォイフォイ……うーん、いい匂い……へっくしゅん!」
「ほわわわ~! あたちったら、今日も綺麗!」
「ようよう、人間が少ないじゃねぇかよぅ!」
ライオンの顔をした小太りの小人、四本足に単眼の小さな虫、丸い体をした中年女性の……球体? そして、金属の棒に座る角の生えた悪魔。そして、その他にも数十体の謎の小さな生命体がぷかぷかと空中に浮遊している。
精霊というより、どちらかというと『妖怪』だが。
「…………」
「…………」
「聞けい、我が精霊たちよ! これより私は、無界の人間共に最強の料理を振る舞い、我らが世界に来たいと言わせてやろうと思う。そのためには、我々にしかできぬ最上の料理が必要だ!」
「おー! 楽しそう!」
「作りたーい!」
「Woooooo!」
「フィララララ! フィウー!」
「お腹空いた、ぺこぺこ!」
「すーし! すーし!」
「では行くぞ。この者たちに_____我らオーディシア精霊団の、幻想の力を見せてやれ!」
杖からさらに強力な魔力が放たれ_____
目の前で、精霊たちの愉快な料理劇が始まった。
* * * * *
ナレーター:目が三つのトンタ
『むかしむかしの、ずーっととおいくにのおはなしです。
そのくににはうみがなく、おうさまも、すんでいるこくみんも、だれもうみがどんなものかしりませんでした。きれいなはまべ、うつくしいさんごしょう、たくさんのかわいいさかなたち、そしてどこまでもひろがるあおいうみ。どれも、そのくにのひとたちにとってはあこがれだったのです。
あるとき、おうさまはこくみんのみんなにこういいました。
「おまえたち、やくそくしよう。いつかかならず、おまえたちをうみにつれていってやるぞ」
こくみんのみんなにとってうみはあこがれでしたから、おうさまのことばにみんなおおよろこび。こうして、くにのみんながおうさまといっしょに、うみをめざしてたびをはじめたのでした』
~間奏~
♪みんなでたびだ うーみをめざせ♪
♪どこまでいつまであそこまで♪
♪かわをくだれ さかなといっしょ♪
♪うみまであとどれくらい?♪
ナレーター:怠け者のブンブン
『おうさまはかわのながれにそって、みんなでたのしくぴくにっくをしながらたびをはじめました。かわにはおさかながいっぱい! みんなでたのしく、かわできゃんぷをしながらおおもりあがり! たびのさいしょは、とってもたのしいものになりました』
~間奏~
♪おーっさかーなー おーっさかなー♪
♪つってはたべて まーたつってー♪
♪おーんなーじ ばしょはだめ♪
♪おさかなにげたら ぺっこぺっこよー♪
おうさま役:お尻の大きなペルコ
『わーはっはっは、さかなはおいしいなぁ。でも、みんなもっとたのしみにしているんだぞ。うみにはさかなが、かわよりもずーっとおおいんだからな!
さぁ、まっていろ、うみよ! きれいなものをめざして、まだまだたびをつづけるぞ!』
ナレーター:目が三つのトンタ
『あれやこれやとたびがつづき、こくみんのみんなはちょっとだけつかれてしまいました。こまったおうさまは、もりのようせいさんたちに、たすけをもとめます』
おうさま役:お尻の大きなペルコ
『おーい、ようせいよ! たすけてくれないか? こくみんたちが、おなかをすかせてしまったのだ!』
妖精役:虹羽のピリンお姉ちゃん
『まぁ、おうさまは、とてもたいへんなたびをしているのですね。かわいそうに。でも、もりにもたべものがなくて……このままではみなさんをたすけることができませんわ』
おうさま役:お尻の大きなペルコ
『むぅ、こまったものだな。このままでは、うみにつくまえにみんながたおれてしまうぞ! ようせいよ、せめてこくみんたちをここでやすませてはくれないか?』
妖精役:虹羽のピリンお姉ちゃん
『まぁ、たくさんのおきゃくさんがきてくれて、とてもうれしいですわ。ただ……ざんねんなことに、もりにはとてもわるいまものがいるのです……。まものはひとをたべてしまうこともあるので、とってもきけんですのよ』
おうさま役:お尻の大きなペルコ
『そうか、ならばまかせてくれ! おうであるわたしが、そのまものとやらをたいじしてやろう! そうすれば、ようせいたちもあんしんするだろう!』
ナレーター:怠け者のブンブン
『こうして、おうさまはこくみんたちをやすませ、ようせいたちのもりをとりもどすため、こくみんたちにだまって、ひとりでまものとたたかいにいってしまいました。はたして、おうさまはまものにかてるのでしょうか?!』
~第一幕 終了~
* * * * *
「_____はっ、な、なんだ? 何か夢を見ていたような……」
「わ、私も……なんか、ものすごくシュールな絵面で劇が披露されていたような……」
「はははは! どうだ、楽しかったであろう」
気づけば俺は、レイスが目の前で寿司を握っている様子を見ながら、木製の椅子でお茶をいただいていた。机の上には、食材が消えた皿が重ねられている。
「……レイス、なんかしたのか? ていうか……あれ、いつのまにか寿司食ってる?」
「お前たちに食べさせたのは海藻の前菜、焼いた川魚、木の実を使って味をつけた茶碗蒸しだ。それぞれ、劇で披露された物語と関連性のある食べ物にしている」
「え、あー……うん?」
理解が及ばないが、感覚だけ理解できる。口の中に残る僅かな塩気と甘味、そして舌の奥で感じる旨味。そして、ただの幻覚とは思えぬほどにはっきりとした記憶に残っている、シュールだがやたらとしっかりとした演劇。
「ふっふっふ、ようやく理解ができてきたか? 私がやろうとしている、極上の料理劇についてだ!」
「料理劇……まさか、食事をしながら劇を楽しませるつもりなの?!」
「左様だ」
レイスが自慢げに話すと、妖怪の如き精霊たちもまた、勝ち誇ったかのようにレイスの周囲に集合した。
「我が魔術により編み出した精霊たちは、現実と幻想を行き来することができる存在だ。この者たちがお前たちの幻想へと入り込み、そして現実では私が精霊たちと共に精魂込めて作った料理を食す。こうしてお前たちは幻想世界での物語に心を躍らせつつ、現実世界では舌鼓を打って食事を楽しむことが可能となるのだ!」
「なんだそりゃ……魔術ならそんなのもアリなのか……」
「食事とは単に栄養を体に取り込むだけの作業ではない。全身を使ってこの世を謳歌する、最高のエンターテインメントツールでもあるのだ!」
腕を高々と掲げ、精霊たちの歓声に包まれながらポーズを取るレイス。異世界人だからか、やはりどこか『ズレた』感じがある。
だとしても_____俺は素直に感動していた。レイスの行動に突っ込もうにも、あまりのクオリティの高さには黙るしかない。
店のインテリアから始まり、食品のメニューも本物の寿司屋を再現している。初手からマグロ握りならぬマグロの丸焼きでも出てくることを覚悟していたが、しっかりと栄養バランスや味覚のバランスを考慮したコースとなっており、食べる側の胃袋のことをしっかりと考えられている。
そして、単に味がいいだけではない。同時に見せられるよく分からない演劇も、気づけば観客の一人としてかなり楽しめていたのだ。精霊たちの見た目はふざけているが、その演劇はプロと言っても差し支えないレベルであり、大真面目に楽しませようとしてくれている。
そんなこともあってか_____まだ3品を食べ終えただけだというのに、まるで丸一日ピクニックに行って帰ってきたかのような充実感が体に満ちている。サラの暴力的なまでの美味とは方向性の異なる、新たな料理の可能性であった。
「ぐぎぎぎ……卑怯よ! 料理対決だっていうのに、食事の味以外で仕掛けてくるなんて!」
美味しさという意味で言えば、サラの方に軍配が上がるだろう。だが、料理の味以外については、パフォーマンスの高さも踏まえてレイスに軍配が上がる。意外と勝敗は分からなくなってきたものだ。
「私だって、頑張ればこれくらいはできるわよ。要はナノマシン直接脳にぶち込んで
「できるのは分かったけど、言葉からして不穏だから俺にはやるなよ。反則負けにするからな」
「ぐぎぎ……ぎぎぎぎ……」
「ふむ、この世界において、食事とはそこまで大事にされていないのだな。生きるのに必要な行為なのだから、もう少し楽しめばよかろうに」
「……と、言いますと?」
レイスは、単純にこの世界についても疑問があるらしい。
俺はいつも食べ物を大事にしているし、極力食品を捨てたりしないようには気をつけているが、レイスの目から見るとそれでも食事に対する思いが足りていないように見えるらしい。
「私の世界……魔力が満ちた世界では、食事とは貴重な嗜好の一つなのだ。何せ、食事を必要とせず、空気に満ちた魔力を吸うだけで生きている種族もいるくらいだからな。魔物の中には、味覚を持っていない種族もいる」
「食べなくても生きていけるって……すごいな」
「普通の人間の食事も、魔力によって生成されたポーションを飲めばすぐに腹が満たされ、一日中動き回ることだってできるようになる。食事という概念は、ごく稀に流れついた異世界の者が始めた余興に過ぎない」
味覚がない生活。腹が満たされても、味わうことがない生活。
どれも想像すらできないが、それが当たり前なのがレイスの世界なのだ。ポーション飲んだだけで済むということに羨ましさを感じる一方で_____どこか虚しい、と思う。
「私が料理技能を持っているのも、貴族の友人が教えてくれたからよ。味付けがなされ、舌を使って楽しむことのできる料理という概念は、これ以上ないほどの贅沢なのだよ。だから、一度一度の食事にこれでもかと力を入れ、食す者を徹底的に楽しませるというのが_____私の世界、そして私のやり方だ」
「……そうか」
世界が違う以上、料理に対する価値観に正解・不正解はない。
だが、俺はレイスのような考え方も、すごくいいと思った。
幼い頃の俺は、親が作ってくれる料理が何なのかで毎日心を弾ませていた。だが大人になり、食事をすることが簡単なことではないと分かってからは手を抜き……食事を楽しむということを、いつの間にか忘れていた気がする。
次にどんなメニューが出てくるのか、どんな味なのか、どんな食感なのか……こんなことに胸を弾ませるのは、本当に何年ぶりだろうか。
異世界人との出会いは、俺に人間としての尊厳を取り戻させてくれたようだ。
「さて、まだまだコースは続くぞ! それでは劇も次の幕に入っていくぞ。精霊たちよ、準備を進めろ!」
「……王様はどうやって魔物を倒すんだろう……」
サラも、しっかりと精霊たちの劇にハマっている。
* * * * *
おうさま役:お尻の大きなペルコ
『はーはっはっは! まものよ、かんにんするがいい! わたしには、たくさんのこくみんたちのおうえんがついているのだ。おまえにかちめはない!』
魔物役:筋肉自慢のロードン
『うう、おぼえていろ!』
ナレーター:怠け者のブンブン
『こうして、おうさまはまものをたおし、ようせいたちのもりをすくったのでした。ようせいたちはおおよろこびで、たくさんのたべものをくれたので、こくみんのみんなもおおよろこび! そのひはよるがあけるまで、みんなでぱーてぃをしたのでした』
ナレーター:目が三つのトンタ
『さて、ようせいたちのもりをぬけ、かわもどんどんとおおきくなってきました。あとすこしで、うみにとうちゃくできそうです。
しかし_____どういうことでしょう? おうさまはきゅうに、すすむのがこわくなってしまいました』
おうさま役:お尻の大きなペルコ
『わたしは……とてもこわいのだ。もしうみがきれいじゃなくて、おそろしいかいぶつがすんでいるばしょだったら? もし、そこにあるのがうみではなくてただのみずうみだったら? わたしは、きゅうにふあんになってきたぞ……』
国民A役:三角帽子のビルベー
『ねぇねぇおうさま、まだいかないの? ぼくたち、はやくうみがみたいよ』
国民B役:杖を肩に背負ったライケル
『おれ、もうあるくのつかれちゃった。うみって、そんなにとおいの?』
国民C役:花束が大好きなメイリー
『はやく、きれいなかいがらがみたいわ。だれかにとられちゃったら、どうしましょう?』
ナレーター役:目が三つのトンタ
『おうさまはみんなのきたいとふあんのあいだにはさまれて、とてもとてもなやみました。そこで、おうさまはあることをかんがえつきます』
おうさま役:お尻の大きなペルコ
『そうだ、わたしだけがさきにいって、うみがどんなばしょかたしかめてみよう! そうすれば、みんなのきたいをうらぎらずにすむぞ。さて、みんながねむっているあいだに、いそいででよう!』
~間奏~
♪さぁ いーそげいーそーげー みんなのためーにー♪
♪おーつきさーまーてらすなかー ひっしにはーしーるー♪
♪もーりをこえてーたにこえてー せーのでうみまでひとっとびー♪
♪まってろうみよ すぐいくぞー おーさまーがーはーしーるー♪
ナレーター役:怠け者のブンブン
『こうしてよるがあけるまえに、おうさまはうみにたどりつくことができました。しっかり、あたりはまっくらでなにもみえません。しかもきこえてくるのは、とってもこわいおとばかり。おうさまは、びくびくとふるえながら、ひとりさみしくよるがあけるのをまちました』
おうさま役:お尻の大きなペルコ
『わたしは……ほんとうは、こくみんのみんなともっとなかよくなりかっただけなんだ。おうさまになったせいで、だいすきなあそびもできなかったし、ともだちもいなかった。だから……うみにいっしょにいって、みんなとともだちになりたかっただけだ。だが……もうみんなつかれている。これいじょう、みんなにたいへんなおもいをさせるわけにはいかないな』
ナレーター役:怠け者のブンブン
『みんながおきてしまうまえに、おうさまはいそいでもどらないといけません。うみをみることはできませんでしたが、おうさまはしぶしぶかえることにしました。こうしておうさまはまたもりをこえたにをこえ、やっとのことでみんなのところまでかえってきますが……おや、どうやらこくみんのみんなのようすがへんです?』
おうさま役:お尻の大きなペルコ
『……む、どうしたんだ? こんなよるのおそいじかんだというのに、あかりがついているじゃないか。みんなまさか、こんなよるおそくまであそんでいたわけではないだろうな?』
ナレーター役:目が三つのトンタ
『おうさまはみんなのことをしかるつもりで、はしってもどってきました。すると、おうさまのことをみつけたこくみんのみんなは、おおいそぎでおうさまのもとにあつまってきたのです』
おうさま役:お尻の大きなペルコ
『これは……おまえたち、これはいったいどういうことなんだ?!』
国民A役:三角帽子のビルベー
『よかった、おうさまがいなくなっちゃったのかとおもったよ! ぼくたち、まだまだおうさまとたびがしたいよ!』
国民B役:杖を肩に背負ったライケル
『おれ、もんくいってごめんよ! でも、おれもうみにいってみたいんだ。まものをやっつけてくれるかかこいいおうさまもいっしょに、みんなでうみにいきたいんだ!』
国民C役:花束が大好きなメイリー
『きれいなかいがらもほしいけど、やっぱりみんなでいっしょがいちばんよ! おうさまだけいなくなったりしないでほしいわ!』
ナレーター役:怠け者のブンブン
『なんと、こくみんのみんなはおうさまをさがしていたのでした。みんなとはきょりをおいていたおうさまは、とてもおどろきました』
おうさま役:お尻の大きなペルコ
『おまえたち……ありがとう。わたしは、ちゃんとここにいるぞ!
さぁ、もうすぐよるがあけるぞ。またいっしょに_____うみをめざそう!』
ナレーター役:目が三つのトンタ
『こうして、おうさまとこくみんのみんなはかたをくんで、またいっしょにうみをめざしてたびをつづけたのでした。そしてさいごはちゃんとみんなでうみにたどりつくのですが_____そこでみんながなにをみつけられたのかは、またべつのおはなし』
♪みんなで はじーめーたー たびーのなーかーでー♪
♪うみを さがし はるか さきへ ともに あゆーんーだー♪
♪もりを ぬけて たにを こえて かわを くだり すすみー♪
♪たまに やすんで たまには おまつり たのしい ぼうけんだー♪
♪うみが なくとも みちは おなじ ひとりで いかーないでー♪
♪みんなで むかおーうー たびはーつづーくーよー♪
~閉幕~
* * * * *
「……さて、精霊団の諸君、最後までよくやってくれたな。褒美にお前たちにも寿司を食わせてやろう」
「えぇ、いいの~?!」
「オデ、タベル!」
「それは僕のだブゥ!」
「ボウボーウ!」
「ふふっ。さて、それでは客席の反応を見たいところだが……」
お世話になった寿司職人の技法を魔眼の力でコピーして作った寿司なので、味には自身があるのだが_____それ以上に、今の二人の状態がとても反応を聞ける状況にない。
「うぐぅ……シュールな絵面なのに……なんか普通に感動しちゃって……えぐっ……」
「なんか……この年になると一周回ってああいうのが刺さるようになるな……う、目の前が霞んで……なんだ、涙か……」
反応は良いが、食事体験としてサラとどちらが勝っているかはまだ分からない。
実のところ、味では負けていると考えていたので、勝敗は勇也が何を重視するかで大きく変わるのだ。
(さて……どうなる? 勇也が何を重視するかによって勝敗が分かれるな。場合によってはこの場でサラとの勝敗がきまる可能性もあるか……)
そうなった場合_____レイスとしては最後の手段を使うしかなくなる。それはなんというか、人として避けたい行為ではある。
(さぁ勇也よ_____どんな判断を下すのだ!)
* * * * *
「さて_____二人とも、ごちそうを用意してくれてありがとう。まずは_____ごちそうさまと言わせてくれ」
「お、そういえばその挨拶気になってたんだよね。食べる前に『いただきます』、食べた後に『ごちそうさま』だっけ」
「しっかりと手を合わせることも重要だな。食事への感謝を欠かさないのは素晴らしいことだ」
「礼儀を学んでくれたのは助かる。さて、それで_____審判の件だが」
((きた!))
サラとレイスの口と拳が握りしめられる。これはお互いそうなのだが、例え負けても潔く負けを認めるつもりはなかった。ここで勝敗がはっきりと決まればその場で再び未来人 vs 異世界人の実力行使が再び始まるのだが、それを知らぬは勇也だけである。
注目を集める最初の勝負の行方。その答えは_____
「勝敗を決める前に_____まずはこれを飲め」
「……? これは……」
「あぁ、寿司屋で見たことがあるぞ。確か……」
「味噌汁だ。俺の手作りだ」
茶碗に注がれた二杯の味噌汁。小さな豆腐とわかめ、刻んだねぎをいれた、オーソドックスな俺流味噌汁である。
「二日間連続でいいものをくったせいで、しょうじき胃がもたない。まずはこれを飲んで気持ちを落ち着かせてみてくれ」
「そういうことなら……いただこうかな」
「濁っただけの汁にしか見えんが……まぁよい。いただきます」
二人とも渋々と丁寧な仕草で味噌汁の口をつけた。
そして温かい汁が二人の口に吸われ、その味覚に触れて_____二人はそれから十秒ほど、何も言わずに固まった。
「…………」
「…………」
どうやら_____俺の狙いは当たったようだ。
「……どうだ?」
「_____なにこれ、おかしいわ。最適化もされていないし、栄養管理だってちゃんとやってないはず」
「ただの塩水にしか感じないはずだ。感じない……はず……なのに……」
「「なんで……こんなに胸があたたみゃるんだぁぁぁあ……」」
ふたりがへなへなと、机の上に突っ伏せた。
「隠し味に、おふくろ直伝の昆布出汁をしこんでいるんだ。コクがあって美味いだろう」
「お母さん直伝の……出汁? 何よそのズルいワードは……!」
「しょっぱくて海藻の出汁が入っているなど、もはやただの海水ではないか。いや……そうか。おうさまが探しに出かけた海とはこれのことだったのか……」
二人とも何やら変な結論に至っているが、俺が言いたいことは別にある。
「いいか。二人にはめちゃくちゃ美味しい料理を作ってもらって感謝してる。でも……それで未来と異世界、どっちが上かを決めるのは間違ってると思うんだ」
「「…………!」」
「俺の普段の食事と比べても、サラの料理の方が圧倒的に美味しいし、レイスの料理の方が圧倒的に楽しい。でも_____それだけじゃない」
たかが味噌汁。短い手間で作ることができる、簡単な料理でしかない。俺が自分の匙加減で作っていることもあり、味は保障できない。
だが_____高級料理を毎日のように振舞われるより、たまにこういったものを口にできることも幸せだと、俺は思うのだ。
「こんかいの勝負も……俺はどっちかを選べない。そして、二人にはもっとこの世界を知ってほしい。料理以外にも、色んなことを」
「……はぁ。こりゃ……完敗ね」
「そうだな。私も……完敗だ」
「ああ。というわけで_____」
二人の料理は抜群に美味かった。できれば、また次も食べさせて欲しい。
だが_____現代のものを捨ててまで欲しいかというと、そうではない。
現代人代表として、せめて二人の前でだけは、俺は誇り高くありたいと思った結果が、これだ。
「第一回、料理対決は_____両者敗北だ」
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