第29話 完成したセックスドラッグ! 華矢の笑み

 その男は完成したドラッグを片手に、数日前の事を思い出していた。


 華矢京月はなやきょうげつ。22才。蒼月会メンバーの1人である。彼は蒼月会としての活動を行いつつ、プライベートも充実させていた。そのプライベートとは。


「りきあちゃん、のきあちゃん! 2人とも可愛いなぁ~!」


 アイドルの応援である。特に彼は、現役中等部学園生アイドルに精通していた。


 この世代のアイドルと言えば、世間からは九条院かぐやが覇権を握っていると言われている。だが華矢京月は、そういった大衆が注目するアイドルよりも、その陰で頑張る子が好き……応援したくなる性格だった。


「ついんずっ☆ も結成1年かぁ~。早いもんだなぁ。是非頂点に立ってほしいが……」


 蒼月会のメンバーの中には、華矢京月の趣味について呆れている者もいた。


 普通のアイドルオタクなら良かっただろう。応援するアイドルは、現役中等部学園生限定というのも、まぁまだ頷ける。人の趣味はそれぞれだし、自分たちに迷惑をかけていなければ気にする事でもない。だが。


「きみもそう思うだろ? えーっと、なぎさちゃん?」


 華矢京月の隣には全裸の少女が倒れていた。小さな胸には強く噛まれた痕があり、その幼い割れ目からは生臭い匂い……華矢京月の体液が溢れている。


 そう。華矢京月はアイドルの動画を見ながら、同じ年ごろの少女を犯す事を趣味にしていた。


 蒼月会のメンバーの中には、レイプ犯も多い。華矢京月もその1人だ。しばらくスマホで動画を眺めていたが、メッセージの通知が届く。


「うん……? 竹取隊の限定コミュニティからか」


 竹取隊。九条院かぐやの非公式ファンクラブ。そしてこの界隈では、親衛隊気取りの厄介オタク集団としても知られている。


 九条院かぐやがデビューした当初、華矢京月は直ぐにこの発足されたファンクラブに入った。だが九条院かぐやはあっという間に売れたため、華矢京月は途中で興味を無くしたのだ。


 だが竹取隊は、初期メンバー限定のグループメッセージが作られていた。華矢京月は無視しようと思っていたのだが、その中に1人、気になるメンバーがいたのだ。その男は現役の警察機構職員だった。


 警察機構と蒼月会は敵対関係にある。だが竹取隊を通じて関係を維持していれば、内部の情報も聞けるのではないか。そんな「当たればいいな~」くらいの気持ちで、交流を続けていた。


「へへ……しかしこうも上手くいくとはなぁ。これも俺の、アイドル応援活動の賜物だな!」


 華矢京月は身分を隠して交流を続けていた。何度かオフ会に参加した事もある。警察機構の職員とも直接話し、距離を詰めていた。


 そして先日発表された、九条院かぐやの引退宣言。竹取隊のグループメッセージは荒れに荒れた。


 中でも竹取隊を作った男はいろいろヤバかった。彼は初期メンバー限定グループに、思いのたけをぶちまける。その内容は華矢京月からしても「はは、こいつやっばw」と思わせるものだった。


「九条院かぐやが売れたのは、本人のスペックの高さと家柄という話題性があってのことだ。こいつ、自分のおかげで九条院かぐやが売れたと思い込んでやがるからなぁ」


 今回の九条院かぐやの突然の引退。これは最初期から支えてきた、自分たち竹取隊への裏切りだと憤慨していた。


 かぐやに興味を失った華矢京月からすれば理解できない。だが竹取隊の初期メンバーは、全員斜め上の方向にこじらせていた。


「まさかこいつら全員、創始者に賛同しやがるとは。だめだねぇ。俺みたいにアイドルは応援しつつ、同じ年ごろの少女を犯すってくらいじゃないと。そりゃ俺もついんずっ☆の2人を犯れるのなら犯りたいけどさぁ」


 竹取隊初期メンバーのグループメッセージは、かぐやに対する怨嗟の声で溢れていた。


 勝手に応援し、本人と碌に話した事もないくせに、勝手に裏切られた気になっている。華矢京月はこうはなるまい、と思いながら適当にメッセージを送る。しかしある時。とあるメンバーの書き込みで目を止めた。


『かぐや殿に海外で使われている、魔獣由来のセックスドラッグを使用させて、己のやった行いを反省させたいものでありますな』


 翠桜皇国で、魔獣を材料にしたセックスドラッグの存在を知っている者は限られている。


 そのメッセージを書き込んでいたのは、警察機構に務める職員だった。グループメッセージは「セックスドラッグ」という単語で盛り上がりを見せる。


『知らないでござるか? とある魔獣を材料に作られる、海外で流行っているドラッグでござるよ』


『聞いたことある気がしないでもない』


『うわ。今魔獣、セックスドラッグ、女で検索してみたけど、やばすぎw』


『アムニルス? って出てきた』


『画像検索やべぇ……』


『ガチじゃんw』


 華矢京月はその時、近くにいたリーダー、堂馬に声をかける。


「おいリーダー。こいつ見てくれ」


「……京月。ズボンはけよ」


 堂馬は華矢京月の指し示すメッセージに目を通していく。そして、何故自分にこれを見せたのかを理解した。


「……八嘉に売ったアムニルス。本来なら街中ででかく育ったところを、触手の何本かを奪うつもりだった。貴重な材料だったからね」


「ああ。だがアムニルスは特に騒ぎになる事もなく、いつの間にか仕留められていた。……どう思う?」


「…………」


 堂馬は考える様に目を細める。元々アムニルスの触手を使い、セックスドラッグを作る予定だったが、その計画は頓挫していた。


 しかし。まだ計画は続けられるかもしれない。何せこの会話の流れを作った男は、警察機構の職員である。


 警察機構にはアムニルスの死体が収容されている。きっとこの話題を出したのは、偶然ではないはずだ。


「……俺が打ってもいいかい?」


「お好きに」


 堂馬は華矢京月からスマホを受け取ると、メッセージを書き込む。内容はセックスドラッグの具体的な効果についてだ。


 使われた女性がどうなるのか、海外ではどの様に使われているのかを詳細に書き込んでいく。


『ちょw まじ?w』


『そんなすげぇのかよ!?』


『うわ、まじだわw 今海外サイト見たけど、小等部の子がアヘ顔でイってる画像見つけたw』


『くれ』


『まじでどんな女でも発情させられるのかよ!!』


 グループメッセージは、たちまちセックスドラッグの効果について盛り上がりを見せる。それを見て華矢京月は笑みを浮かべた。


「えぐいねぇ、リーダー。絶対こいつら、今頭の中で九条院かぐやにセックスドラッグを使った場面を想像しているぜ」


「それが狙いさ。今のこいつらは、九条院かぐやに対する愛が裏返り、その倍近い憎悪に憑りつかれている。憎悪は時として人に、普段以上の行動力を与え、そして思考を停止させる」


 堂馬の狙い通り、グループメッセージは段々かぐやに対する猥談に展開していく。


『俺を裏切ったかぐやちゃんに、正義棒を突っ込みたい!』


『それがしは尻穴をいただこう』


『俺のまじでデカいからよ。かぐやちゃん貫いちゃうよぉ』


『セックスドラッグでイキ狂うかぐやちゃん、見たいよぉ』


『やべ。想像したらヌけたわ』


『九条院だからってお高くとまりやがって……! お前は所詮、男根で狂う女なんだって教えこみてぇ!』


 場は十分温まったな。そう考えた堂馬は、メッセージとそこに集う男たちの意識の間隙を縫う様に、新たなメッセージを投稿する。


『ここだけの話にしておいて欲しいんだけどさ』


『俺、セックスドラッグを作れるって人を知っているんだ』


 グループチャットに参加している者たちは、堂馬のメッセージに反応を示した。彼らは狙い通り、もし現実的に入手できるのであれば、是非とも欲しいと言ってくる。


『でも材料が特別でさ。ある魔獣の触手なんだけれど、翠桜皇国では手に入らないんだよ』


 さて……と、メッセージを投稿した堂馬はそこで指を止めた。これでターゲットの男が食らいついてくれば良し。もし食らいついてこなければ、これ以上メッセージは打たないつもりだ。


 だがこれほどまでグループチャットは盛り上がりを見せ、さらに「ある魔獣の触手」「翠桜皇国では入手不可能」という、自分は知っている側の人間であるという情報を与えた。勝算は高い。そして。


「どうしたよ、リーダー。ニヤついてよ」


「いや……。上手くいくもんだなと思ってさ。失ったと思っていた材料。手に入るかもな」


「まじで?」


 堂馬はスマホに視線を移す。そこには警察機構の職員からのメッセージがあった。


『材料があれば、作れるのでござるか?』


 きた。かかった。後はこの男が、どこまでやれるかだ。


『そこは約束するよ。あと君たちさ。これを使って、ヤりたい事もあるんだろ? 良かったら知り合いに、その手の相談に乗ってくれる人がいるんだ。新しくグループ作るから、興味ある人だけ手をあげて。個別に招待コード送るよ』


「ふ……」


「なんだよ。また新しい悪だくみか?」


「ああ。例のアムニルス。死体はまだ処分されていないはずだ。何せ海外の魔獣がどうやって街中まで入ってきたのか、他の魔獣とどう違うのか。貴重なサンプルだ、詳しく調べたいだろうからね」


「それで?」


「京月。例の職員に協力してあげてくれ。おそらくアムニルスの死体と何らかの形で関わり、セックスドラッグの事を知ったのだろう。彼はきっと、アムニルスの触手を盗みだしてくれるよ」


 材料さえあれば、ドラッグへの精製方法は分かっているのだ。それに精製した後は、それが本当に機能するのか。どの程度の有用性を示すのか、何度かテストもしておきたい。


 本格的に値段を付けて売るのは、それからで良いだろう。ここにはテストに協力してくれる者たちが、こんなにもそろっているのだから。


「作れるのか?」


「ああ。テストも行いたい。上手く彼らをコントロールしてあげてくれ」


 華矢はその一言で察する。要するに、九条院かぐやをセックスドラッグのテストに使えと言っているのだ。


「おいおい。相手は将来の術士様……それにあの九条院だぜ?」


「まだ中等部学園生の……な。お前ならいけるさ」





 そして今。華矢京月の手には、完成したセックスドラッグがあった。既に計画は進んでおり、方々に手も回し終えている。


「九条院かぐやの引退に合わせて出たオリジナルソング。まさかそのバックコーラスに、ついんずっ☆ のりきあちゃんと、のきあちゃんが参加しているなんてなぁ。巻き添えになっちまうが……これは仕方ねぇよな?」


 華矢京月はこれから始まるパーティに対する期待で、十分すぎるほど股間に熱が集っていた。

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