第28話 昂劫とみつば! 3年前のファーストコンタクト

「すっげぇ気持ちよかった……」


「良かった」


 俺は部屋であまねと行為に及んでいた。こうして呪いを受け止めてくれることには感謝しかない。


 あまねの身体を綺麗にし、俺たちは服を拾い上げて着替え始めた。あまねも全裸だったが、ショーツから履いていく。


「そう言えば。この間、みつばちゃんに話したんだ。ボクと隊長のこと」


「おお、そういや話すかもって言ってたな」


 かつて人界に帰った直後に俺が助けた、皇族少女みつばちゃんだな。あまねのお友達だという。


 いい歳した大人が、あまねの様な学園生に手を出したんだ。軽蔑されたかな。


「そしたら。将来ボクと同じ夫を持てるのが嬉しいって言ってた」


「……ん?」


 ……あれ? なんか予想と違う回答の様な……。というか、俺。別に皇族に婚約者なんていないけど。


「みつばちゃんもいろいろ動いているみたい。近々、みつばちゃんのお父さんと、隊長の間で話があるかもって」


「……はい?」


 え、なんでそうなるんです?


 あまねは改めて、みつばという少女が置かれた環境について教えてくれた。


「へぇ。皇族家にも、格付けみたいなのがあったのか」


「うん。皇族だからと、全ての家に式神が継承されている訳じゃない。生良宮は本家に何かあった時、式神を移すための予備。血のスペア」


 いろいろ事情があるんだろうなぁ。まぁ五大大国の王族は、どこも似た様なものだろうけど。


「で、魔族に触れられたっていうのは、皇族にとってそこまでイメージを落とすものなのか」


「そう。どちらにせよ、みつばちゃんはこのままだと、まともな結婚先がない。でも隊長はかつて、みつばちゃんをお嫁さんにもらってあげると約束した」


「…………。ああ、そ、そうだな……」


 あの時の少女がみつばだと知り、俺は当時の記憶をいくらか思い出していた。


 確かにあまねの言う通りだ。あの時、俺は魔族を撃退した後、みつばを担いで山を下りた。その途中で言われたのだ。


『殿方に唇を奪われたのは初めてです……。責任、取ってくださいますか……?』


 当時の俺は22歳。大学四年生。そして周期的に、お姉さん属性よりもロリ属性が強く働いている時だった。


 何が言いたいのかというと、その時からみつばは既にめちゃくちゃ可愛かったのだ。どこか品の良さを感じさせる、銀髪美少女だった印象は今も覚えている。で、結果。言った言葉が。


『おお、いいぜ! 嫁の貰い手がなけりゃ、いつでもきな! 君なら大歓迎だぜ!』


 ……とまぁ、よく考えもせずに承諾したのだ。いや、だって。皇族とは思わなかったし。可愛かったし。


 名を名乗った記憶はないが、そこは皇族。あのタイミングで、間叡山地方で目撃情報のある男術士なんて、直ぐに特定できたのだろう。


 あの時の俺は髪もめちゃくちゃに伸びていたし、外見の特徴も掴みやすかったはずだ。


 しかしあまねの話を聞くに、あれは本人的にも気にしている問題だったんだろうな。その後、こう言われたのだ。


『ほ……本当、ですか? その。私の身体、魔族が触れたのに……』


 当時は何でそんなことを気にするんだと思っていたが。皇族にとっては、重い意味があったのだろう。


 そもそも皇族は結婚するまで、親族以外の異性に触れられない様にしているって話だしな。皇族たるもの、嫁入りまで純潔でいなくてはならないのだろう。ちなみに俺はその後、こう答えた。


『そんなの何か関係あんのか? 男に二言はねぇよ! それに俺も君に触れたが、どこも汚れてなかったぜ』


 …………。げ……そうだ。よく考えたら俺、みつばに初めて触れた男ってことになるんじゃ……。もしこの事を、みつばが父親に話していたら……。


「隊長?」


 あまねの声に、意識が戻る。まぁなるようにしかならんか。最悪、クビになったら何か職は見つけられる様に、今から知り合いを増やしておこう……。


「ああ、なんでもないよ。色々忘れていたけど、あまねのおかげであの時のことを思い出せたよ」


「そう。いずれにせよ、ボクもみつばちゃんと一緒にいられたら嬉しい。みつばちゃんは今も、隊長のことを想っている。多分、ボクたちの中で一番長く、隊長への想いを温めている」


「……。そうだな。これも……俺が男として、責任を取らなきゃいけないことなんだろうな……」


 たとえ軽い気持ちだったとしても、あの時交わした言葉をみつばは今も覚えている。そして3年も俺を想ってくれていた。


 1人の男としては素直に嬉しい。それに。軽い気で言い放った言葉であっても、その時の気持ちに嘘はない。


「……こうなりゃ3人が4人になっても同じか」

「? 隊長?」


「ああ、いや。とりあえずみつばの話は分かったよ。親父さんに呼び出されたら……首を洗って応じるとするよ」


「うん。挨拶しないといけない親がいっぱいだね」


「…………ソウダネ」


 だがみつばの事情はおおよそ理解できた。


 彼女からすれば、魔族にさらわれたと思ったら謎の男が登場し。キスしたら自分の術式を使い、魔族たちを撃退した。


 そしてその身に触れて下山し、責任を取る、結婚すると話したのだ。魔族にさらわれた少女からすれば、自分の運命の相手に思えただろう。そしてその運命の相手を、ずっと想い続けていた。


(何だかほとんど忘れかけていたのが、とても申し訳なくなってきた……。もし話す機会があったら。そこは素直に謝ろう……)





 その後も魔獣課としては順調な日々が続いていた。しばらくかぐやが出勤していなかったが、段々3人は暗黙の了解でローテーションを組み、日替わりで事務所に待機する様になる。


 そして俺は代わる代わる3人を抱く日々が続いた。もっとも、俺はアルバイトもあるので、毎日ではなかったが。それでも時間がある時は、なるべくオフィスに顔を出す様にしていた。


 お互いに若いという事もあるだろう。俺たちは行為に夢中だった。


 かぐやが戻ったら、この肉欲にまみれた生活も終わり。これはそれまでの期間限定、だから今は楽しもう……。そう言い訳をして。


「……おや」


「どうしたの?」


「かぐやからメッセージだ」


 今日もこの後は、執行官のアルバイトで外に出る。だが少しなら時間がある。なのでオフィスに残っていためぐみと、激しく行為をしていた。


 今はベッドで、俺の隣で寝転んでいる。かわいい。


「そういえば。そろそろかぐやの引退も近いわね」


「ああ。この1ヶ月、忙しかったみたいだが……」


 かぐやからのメッセージには、ツインテール姿の自撮り写真も添えられていた。くぅ……かわいい。


「どうやら明日のイベントで最後らしい。明後日からはこっちに合流するってさ」


「そう……。それじゃこの生活ともお別れね」


「ま、元に戻るってだけだが」


 でもかぐやも俺たちの関係は知っているんだし。俺の魔族化を防ぐため……という大義名分の元、堂々としても良いかもしれない。


「ねぇかずしげさん」


「うん?」


「わたし、魔獣課に配属されて。毎日幸せで。いいのかなって思っちゃう」


「良いんじゃないか? 俺も幸せだし。誰も不幸になってないだろ?」


「うん……そうね」


 ま、人は満たされると、また新たに何かで心の隙間を埋めたくなるものだからな。せいぜい3人に飽きられない様に、俺も頑張らないと。


 ……やっぱり毎日、肉欲に耽っている場合じゃないな! これじゃ稼ぎもない極潰し、良家のお嬢様方を嫁にもらうに相応しくない男になっちまう……!


「どうしたの? 何か決意を固めた目をして」


「いや……確かに最近、俺もたるんでいたと思ってな。ありがとう、めぐみ。俺も気合を入れなおしたよ」


「そう……?」


「ああ。めぐみたちを何が何でも幸せにしてみせる。そのために、今できる事をしてくるよ」


「かずしげさん……」


 そう言うと俺はベッドから出て着替え始める。


「よし。それじゃ行ってくるよ」


「うん。行ってらっしゃい」


 めぐみの声を背に、俺は外へと出た。しばらくは執行官のアルバイトに集中しよう。


 これだけセックスしたんだ。数日ヤらなくても、呪いの影響は受けないだろ。


「しっかしアムニルスの死体……その一部が盗まれた、ねぇ……。それ絶対、警察機構内部に犯人がいるだろ……。まぁだから俺に回ってきたんだろうけど……」


 現在俺にはいくつか仕事が回されている。だがいずれも強制ではない。手が空いてるなら手伝って欲しいという程度のものだ。


 報酬も悪くないしな。少しは稼がないと。


「アムニルスは俺が仕留めたやつだよな……。それをわざわざ盗むっていうのは……」


 スマホには参考情報もいくつか添付されていた。中には目を見開く情報もある。


「海外ではアムニルスの触手が出す分泌液から、セックスドラッグなんて作っているのか……」


 すげぇな海外。魔獣を薬の材料にしているのかよ。中には有用な研究に繋がる可能性もあるし、その全てを否定するつもりはないが……。


「アムニルスの分泌液がもたらす催淫効果は、あくまで限定的だ。男とまぐわれば治るし、後遺症もない。しかし……こいつは……」


 セックスドラッグの情報を確認する。こいつはなかなかヤバかった。アムニルスのもたらす催淫効果の倍はキツいらしい。


 しかも服薬量を誤ると、依存症も強く出てくる。それが分かっていながら、あまりの性的刺激の強さについつい量が増えていくのだとか。


「だが極少量だと後遺症もなく、それでいて催淫効果は超強力っと。海外では既に闇市場で出回っており、手を出す者は後を絶たない……と。おっかねぇ薬だなぁ……」


 催淫効果がヤバいのは、俺自身分かっている。あまねを見ているからな。


 あまねは未成熟な身体で、かつ性交経験が無いのにも関わらず、強烈に乱れた。しかも身体の感度もある程度開発されている。


 あれだけでもすごかったのに、ドラッグはそれ以上の効果だという。しかも。


「海外では事件も起こっている……ね」


 犯罪魔術師集団がどこかの令嬢をさらい、ドラッグを使って輪姦まわす。その映像を資産家の親に送り、金をゆする。


 あるいはクラブで相手の飲み物に混ぜ、強制的に発情させる。そんな事件も起こっているらしい。


 だが末端価格でも相当な金額であり、買える者も少ない事から、事件数自体は多くないとの事だ。


「ま、そもそも魔獣の繁殖なんてできないし。アムニルスが運よく出現して、なおかつその死体を手に入れる必要があるからな。需要に追いつけるくらい、市場に出回ることはない……か。おかげで値崩れもおこさない、と」


 それで事件が頻繁に起こらないのが、せめてもの救いか。だがこの情報が本当なら、少しややこしい話になる。


(何故翠桜皇国内で、アムニルスの死体が盗まれた……? そもそも触手をドラッグにするという活用法は、精製方法も含めて海外にしか情報がない。皇国人でセックスドラッグなり、その作り方を知る者はいないはずだ)


 そう言えば才葉はこの間、外国人の犯罪魔術師が皇国に入り込んでいる……そんな噂があると言っていた。今回の件と何か関係があるのか……?

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