第23話 あまねの予感! 触手魔獣 対 昂劫

「たい……ちょ……」


 あまねの助けを求める声を聞いた俺は、近くにいた事も幸いして、こうして直接跳躍する事ができた。


 魔獣災害発生のアラームは鳴っていない状況で、あまねからのエマージェンシー。何事かと思ったが、なるほど。これは予想外だ……!


 跳躍した俺の目の前では、あまねがアムニルスの触手に捕まっていた。症状から見て、既に催淫効果のある分泌液の影響を受けてしまっている。どうにか触手を切断し、あまねを取り返したが、これは……。


「退く余裕はないな……!」


 アムニルスは放置すると、災害に繋がりかねない。下手すれば一つの街に影響がでる。現在までその成長の限界地点が確認されていないからだ。


 つまり一度見つけたなら、何も考えず即座に処理しなくてはならない。だが。


(やれるか、俺に……!? 耀陵閣仙は出せない、コントロール中は俺自身が無防備になる……! 相手は人間でない以上、俺の格闘スキルも通じにくい……!)


 左右から触手が迫る。俺は仙術を併用した歩行術で、あまねを抱いたまま一気に距離を取る。


 アムニルスは一瞬で遠く離れた俺を見て、警戒する様にゆっくりと触手を伸ばしてくる。


(どうする……!? 切り札はあるが、使えば俺もただでは済まない……! 俺におそらく催淫効果は効かないとは思うが……! ずっとこの空間にいては、あまねにも影響が出る……! 時間はない……!)


 取るべき選択肢に悩んでいると、俺の腕の中であまねが身をよじった。


「た、隊長……」


「あまね。大丈夫か」


「大丈夫じゃ、ないかも……。か、身体が、せつなくてぇ……。ぼ、ぼく。どうしたらいいか……」


 完全にやられているな。アムニルスの分泌液自体は、催淫効果以外に毒性はない。そして催淫効果を解く方法も、既に立証されている。


 つまり一度捕まっても、救い出せれば術士としての生命はまだ続けられるのだ。


 あまねもこれで術士としての才が潰えた訳ではない。だがそんなあまねは今、股間を盛大に濡らし、太ももにだらだらと愛液を伝わらせながら、俺にしがみついてきた。


「隊長ぉ……。ぼく、身体が、変だよぉ……。たす、けてぇ……」

「……っ!!」


 正直、俺もこんな状況なのにも関わらず、性衝動が湧いてきていた。原因はあまねの姿と、その股間に濡らす体液の匂いだ。


 若々しい香りに、俺の股間が反応してしまっている。種付けできるメスを敏感に嗅ぎ取ったのだろう。


 そしてあまねは催淫効果の影響もあり、俺に身体をこすりつけてきていた。


「……あまね。今はあいつを倒すのが先だ」

「…………」


 あまねは切なそうな上目遣いで俺を見てくる。か……かわ、いい……! 


 ……っ! 仕方ない……! そう、これは仕方ないんだ……! どうせあまねの催淫効果を解くのに、必要になるんだし……! 


 そう心の中で言い訳し、俺はあまねにささやくように告げる。


「あまね。俺に術式複写の許可をくれ」


「え……」


「いいから。大丈夫だ、複写といっても効果は一瞬だ。別に俺のものになるって訳じゃない。今はあまねの同意が必要なんだ」


「ん……わかった……。いい、よぉ……」


「よし……!」


 あまねの同意を確認すると、俺はその幼い唇を貪り始めた。


「~~~~っ!?」


 あまねはびっくりした様に手をビクっと動かすが、抵抗はしない。むしろ自分から口を開き、積極的に俺の舌に小さな舌を絡ませてくる。


 そしてたっぷりと唾液の交換を楽しんだところで。とうとう俺たちに触手が迫ってきた。だが。


 触手は1本たりとも俺たちに近づけず、一定の間合いに入ったものから切断されていく。そして俺はゆっくりと、あまねの口から自分の舌を抜いた。


 あまねはなおも名残惜しそうに吸い付いてくるが、誘惑を振り切って強引に引き抜く。今はまだ戦闘中だ。


「あふ……たいちょぉ……」


「……続きはこいつを片付けてからだ」


 あまねから複写した術式を確認する。


 ……いけるな。さすが真咲の術式。いや、おそらくあまねが独自に組んだ術式も混じっているな。というかあまね。一体どれだけ多くの術式を刻み込んでいるんだ……。


「あまねはそこで休んでろ!」


 あまねの保有する術式を用いて、身体能力を向上させる。おそらく一般的な術よりも、強化効率は上だろう。そして。刀を手に全速で駆け出す!


「おおおお!!」


 迫りくる触手を刀と風の術で切り裂き、本体までの道を作っていく。


 アムニルスが厄介なのは、成長した場合に女性術士の手に負えづらくなる点だ。だが本体自身が特別戦闘能力が高いとか、そういう訳ではない。触手にさえ気を付ければ、どうにかできる。


 ま、そんな余裕があるのも、あまねの術式があっての事なんだが。何より。俺は魔力をいくら吸い取られたところで、関係ないからな……!


「っらぁ! 死んどけやあぁぁ!!」





 あまねは昂劫とのキスで、僅かに性衝動が落ち着く。まだ身体はせつなくて辛い。股間から溢れる愛液も止まらない。


 だがそれは決して催淫効果だけではない。あまねにはその確信があった。


「すごい……というか、あれ。ボクの術式……!?」


 眼前でアムニルスと戦う昂劫は、明らかにあまねの術式を用いていた。


 身体能力の強化、風の攻撃術、そして時折雷の槍まで生み出す。どれもあまねが使う術式だ。あまねはさっきの出来事を思い出す。


(隊長は……ボクに術式を複写する許可をくれと言った。そして許可してキスしたら、本当にボクの術が使える様になっていた。……そうか。これでみつばちゃんの……生良宮家に伝わる術式、地樹命吹術を使ったんだ……)


 状況からおおよその仕組みを把握する。おそらく昂劫は、相手の同意を得た上でキスすると、対象の術式をコピーできるのだ。


 以前かぐやが話した仮説……キスした相手の術が使える様になるというのは、正しかった。


「本当に……そんな術が……? ううん、もしできたとして。それは術なんて呼べるものじゃない……」


 以前に父が話していたことを思い出す。父は確かにこう言った。「アレを認めては……俺の術士としての矜持に傷が付く」と。


 先祖代々伝わる術式をよりよく改良し、次代に繋げて魔力の向上に務める。そんな正統派の術士からすれば、昂劫の能力は反則もいいところだろう。


 しかしこうも言っていた。「だがそれはあくまで俺の価値観での話。俺から何か言う事はないが、お前が奴の力をどう捉え、いかに受け止めるのかは自由だ」と。


 そして。改めて昂劫の力を見たあまねは。


「かっこ……いい……」


 その在り方を、純粋にかっこいいと感じた。常人とは別ベクトルの術……いや。特殊な能力を身に付け、それを己の力として昇華している。


 術士界で発表すれば一躍時の人だろう。しかし本人は魔獣課の隊長職に収まっている。特にその力をひけらかす事もしない。


 術が好きなあまねだからこそ、昂劫の力にはより強い興味を抱いた。そしてそれを使いこなす昂劫を、単純に1人の男性としてかっこいいとも思う。


 何せ昂劫は。自分が生まれて初めて発した助けに応じ、こうして駆けつけてきてくれたのだから。


 股間がキュンと疼く。間違いなくこれは、催淫効果の影響だけではない。


 そして脳裏に浮かぶのは、昂劫とめぐみが行為していた場面だ。おそらくこの後、昂劫は自分の症状を治すために、行為に及ぶだろう。それしか対処方法はないのだから。


「これで……! 終わりだぁ!」


 あまねの目の前では昂劫があまねの術式を用い、アムニルスの本体をバラバラに切り裂いていた。


 あまねは数分後には始まっているであろう行為を予感しながら、太ももに体液を伝わらせ、それを見ていた。

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