第22話 不可解な魔獣との遭遇! 少女の声

 あまねはゆっくりとビルへ近づいていた。だがやはり何かがおかしい。術発動の気配は感じなくなっているが、あまねの眼はビルに何か曇ったものを映しているのだ。


(魔力の淀み……ではない。魔獣災害は発生していない。それじゃ、これはなに……?)


 こんな事は初めてだった。あまねはどうするか一瞬考える。だが結論は直ぐにでた。


(魔獣災害発生のアラームは鳴っていない。つまり周辺で、魔獣発生に伴う魔力の淀みは観測されていない。これは別件。魔獣課の仕事ではない。だから。あくまでボクのわがまま)


 ビルの調査は魔獣課の仕事の範囲外。なのであくまで単独で調べる。そう決意し、あまねはビル内へと足を踏み入れた。


「……上だね」


 階段を上っていく。そして3階へとたどり着いた。


 3階は使われておらず、ワンフロア丸々空いている。壁もなく、柱が等間隔で並んでいるのみ。そんなフロアに、あまねは足を踏み入れる。その瞬間。


「っ!?」


 あまねは咄嗟に真横に跳んだ。視線を移すと、さっきまで自分が立っていた場所には、いくつもの触手が蠢いていた。


「……!! 魔獣!? どこに!?」


 本体は見えない。だが魔獣なのは間違いない。


 魔力の淀みが観測されていないのにも関わらず、姿を見せた魔獣。考えられるとすれば、過去に魔獣課が取り逃がした魔獣が、ずっとここに隠れていたのだろうか。


「本体は……!?」


 あまねの判断は早かった。即座に制服を脱ぎ捨て、戦闘スーツで床を駆ける。そして迫る触手の発生源を視線で追い、それを見つけることができた。


「…………っ!? ア、アムニルス……っ!」


 ソレは天井にぶら下がっていた。既に馬を超える大きさにまで成長しており、無数の触手を伸ばしている。


 アムニルスは海外にのみ確認されている魔獣だが、あまねはその厄介さと名前を知識として知っていた。


「く……!」


 見つけたらとにもかくにも素早く仕留める事が求められる魔獣だ。あまねは支援術式を重ね掛けで発動させ、自分の身体能力を向上させる。


 全方位から触手が迫るが、それらを風斬りの術式を展開し、切り裂いていく。そしてあまね自身は本体に目掛けて駆けだした。


(まだ成長途中……! 今ならいける……! ここで確実に仕留める……!)


 アムニルスがどうしてここにいるのか。そういう事を考えるのは後だ。今はとにかく迅速に、アムニルスが成長する前にその息の根を止める。


 あまねは床を滑る様な動きで駆け回り、いくつもの触手を切断しながらとうとう本体を間合いに入れた。


(いける……!)


 あとは一つの術を発動すれば、それで決着がつく。そしてその攻撃術を発動させようとしたところで。その手が止まった。


「…………!!」


 本体の肉塊には、一人の男性の顔が半分埋まっていた。あまねはその狂気で濁った目と、視線があってしまう。


 既に死んでいる。それが分かっていても、目の前で男性の顔が肉に埋まっているのだ。その不気味さや非現実的な光景を目にし、脳が状況を理解しようと働く。働いてしまう。


 そして。その隙は、ここまでアムニルスの本体に近づいたあまねにとって、致命的なものだった。


「ぐっ!?」


 手を止めてしまった一瞬で、いくつもの触手が両手両足に絡まる。あまねはそれらを振り切ろうとして、風の術を発動させる。だが何も起こらなかった。


「……っ! も、もう……吸魔の力がここまで……!」


 アムニルスは術士の体液を摂取する事で、成長を速める。そして成長したアムニルスは、いくつかの能力を身に付けていく。


 その一つが吸魔。触手で捕えた獲物が持つ魔力を、直接吸い取ってしまうというものだ。


「この……!」

 

 必死に身をよじって抵抗する。だが身体能力の強化効率も下がった一人の少女の力では、とても振りほどけなかった。そればかりか。


(……! まずい……!)


 段々頭がぼんやりとしだす。そしてほのかに身体が熱を持ち始める。これがアムニルスが成長すると、厄介だと言われている所以。


 アムニルスはある程度成長すると、触手で魔力を吸うばかりか、特殊な分泌液を出せる様になる。その分泌液は、人……特に女性に強力な催淫効果を誘発する。


 これがあるため、一度成長させてしまうと、女性術士による討伐難易度が上がるのだ。


 だが強力な術士はほとんど女性である。こうした厄介さから、発生したら即討滅が優先される魔獣だった。


「く……」


 身体に心地いい痺れが襲う。四肢に力は入らない。あまねは段々抵抗も弱々しくなっていった。


 そんな獲物の様子を確認し、アムニルスは改めてあまねの両手両足を拘束する。そして両腕は背中に回させ、肘を曲げさせて後ろ手をしっかり組ませて拘束した。


(だめ……身体が……動かない……!)


 続いて両足にも、さらに触手を這わせていく。ぐいっと持ち上げ、そのままつま先を天井へと向けさせた。だがこれに終わらず、ゆっくりと両足を開けさせていく。


「…………っ!!」


 アムニルスの前で、あまねは大きく股を開いていた。足を拘束している触手は、太ももを這いながら股間を目指している。


 また新たに出てきた触手は、あまねの成長途中の胸を舐る様に這いずり回る。


(……っ! こ、このままじゃ……! でも、まだ……!)


 身体に力は入らない。だがまだ意識はとんでいない。どうにか反撃の糸口を見つけなければ。


 そう考えていた時だった。一本の触手が、あまねの口腔内へと入り込んでくる。


「んぼっ!?」


 その触手はしばらく不気味に口腔内で蠢いていたが、やがてそこで分泌液を吐き出し始めた。強力な催淫効果のある分泌液を。


「~~~~~~~~っ!?」


 あまねは抵抗できず、強制的に分泌液を飲まされる。


 あまねは性交経験がない。知識はもちろんあるが、自分の身近なものとしての実感がない。それがどの様なものなのか、気持ちいいのか痛いのか。そういったものも何も知らない。だが。


「~~~、~~っ、~~~~!」


 今やあまねの小さな胸は、触れられただけで感じる様になっていた。


 誰にも触られた事がないし、自分でいじった事もない。まだ大きさも感覚も未発達な胸。


 だというのに、触手が胸を這いずり回る度に、これまで経験した事のない快感が襲い掛かってくる。身体はビクビクと反応してしまう。


「~~~~っ!! ~~っ~~~~!! ……ぶはっ!」


 やっと口が触手から解放される。だが既に触手はその役目を終えていた。あまねはトロンとした目をして触手を見ている。


「だ……め……触れ……な……い、で……」


 意識はまだ魔獣に逆らえている。だが身体は完全に屈し始めていた。


 触手は数を増やし、あまねの胸を、尻を舐り回していく。そのたびにあまねはビクビクと身体を震わせた。


「ひ……あ、ふっ……!」


 初めて感じる快感。触れられるだけで気持ちいい。こんなグロテスクな肉だというのに、心は嫌悪感を感じているのに。身体は触れられただけで反応してしまう。


 それがアムニルスの能力だと分かっていても、身体が逆らえない。


「い……や……」


 すでにその幼い股間も濡れていた。股間部分からは、抑えきれない量の体液が滴っている。そして触手は、それらを積極的に吸っていく。


「ひん……あ……っ」


 成長したアムニルスは、女性術士を殺さない。こうして快感を与え続け、溢れる愛液を吸い続けるのだ。そしてより成長していく。


 あまねはこの後、自分がどうなるのかも、知識として知っていた。


(アム、ニ、ルスは……。じぶ、んの巣に……。女性を……飼う……)


 最終的には口腔内と膣内に常に触手が入り込み、永遠に体液を吸い取られ続けるのだ。股間に群がる無数の触手も、ゆっくりと幼い秘裂へと向かっている。


「あひっ!?」


 戦闘スーツの隙間から細い触手が入り込み、尻を直接刺激し始める。まだ肉付きの薄いあまねの尻は、触手の感触を敏感に感じ取っていた。しかも。


(明、らかに……! こ、肛門を……めざ、して、るぅ……!)


 口、膣、そして肛門。あらゆる箇所から触手に犯される未来が近づいてくる。


 だが抵抗できない。良い様になぶられ、今もこうして強制的に快感を与えてきているのだ。


(い……や……)


 脳裏に浮かぶのは、仲の良いみつばの顔。そしてみつばとの会話を思い出す。最近のみつばは、いつも昂劫の話ばかりしていた。


「た……い、ちょ……」


 謎の多い男。最初は身に宿す魔力も少なく、たいした事のない男だと思っていた。もはや昂劫家に見るべき術式もなく、興味も持たなかった。


 だがどういう訳か、並の術士以上のことを平然としてのけ、みつば救出の際には術士の常識を超える技能を発揮した。


 今は最初の印象とは違い、とても気になっている。興味が尽きない。もっと側で観察したい。そう感じている男性。


「あ……」


 触手が口元と肛門付近まで伸びる。


 だがこのまま魔獣の与える快楽に、身を任せるのは嫌だった。


 あまねは性交経験がないし、これまで興味も示してこなかった。そんなあまねが、最初に意識するきっかけになったのはしずくである。


 彼女が強力な魔力を得た時だ。状況から昂劫と関係を持ったのだと分かった。


 そして二度目はこの間。自分の目の前で行われていた、昂劫とめぐみの行為。生まれて初めて男女のまぐわいを見た瞬間だった。


 それはこれまで何も知らなかった少女が、初めてセックスというものを見た影響で抱いた、性への目覚め……興味だった。


(どう、せ……気持ち、良いのな、ら……。た……たい、ちょ……)


 こんな化け物ではなく。そして今、具体的に快感を経験してしまった事で、余計に強い興味を抱く様になった。


 昂劫とめぐみの行為を思い出す。少なくともこんな触手に、無理やり感じさせられるのは嫌だ。しかし今も身体は触手に嬲られ、与えられる刺激にビクビクと震えている。


 こんな時に何故か、昴劫の顔が頭に思い浮かぶ。最近何かと気になる男性。どうせやるのであれば……。そんなぼうっとする頭で、あまねはボソッと言葉を発する。


「たす、け、て……たい、ちょう……」


 思えば誰かに助けを求めるのは、生まれて初めての事だった。


 そして。その助けに応じた者がいた。


「…………!」


 突然襲う浮遊感。ゆっくりと目を開くと、自分に絡まっていた触手は全て切断されていた。


 地におちるあまねを優しく受け止めたのは、刀を抜いた昂劫だった。


「おいおい。あいつは……アムニルスか!? なんだってこんなところに!?」


 昂劫は。少女が生まれて初めて発する助けに応じ、その場に姿を現した。

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