第19話 不穏な気配! 復讐者の生まれた日

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 しずくとしたおかげで、次に呪いが危険域まで溜まるのに時間的な余裕ができた。


 俺の呪いの事を知っているのは4人の隊員と、鏑木を合わせた5人だけだ。無暗に広めるつもりもないため、呪いが完全に消失するその日まで、どうにかこのままでいきたい。


(しかし……。最初は美人お嬢様と中出しセックスできてラッキー……て感じだったんだが。まぁあれだけ身体を重ねたら……なぁ……)


 そう。何度も2人を抱く内に、俺にも情が出てきたのだ。今ではあの2人が他の男に抱かれるなんて事、考えるだけで鳥肌が立つ。


 俺は改めて、これからは将来2人とも娶るつもりで接しようと決めた。そのためにも。


「金がいるなぁ……」


 昂劫家も別に特別裕福な家という訳じゃない。貧乏……という訳でもないんだが。しかし妻を多く娶ろうと思うと、稼ぎがなくてはそもそも不可能だ。それに。


「仮にも九条院と伊智倉だ。昂劫だからというだけで、嫁にくれるかはかなり怪しいからな……」


 術士家系は結婚相手に慎重なケースが多い。というのも、魔力の素養は遺伝するというのが通説だからだ。そのため、家格の高い家は、同等かそれ以上の術士家系の者と結婚させようとする。


 そして現在の昂劫家はそこまで家格が高い訳でも、俺自身が有能な術士という訳でもないのだ。普通に考えれば、四大術士家系が娘を嫁に出そうとは考えない家だろう。


「ま、そこは2人が学園を卒業するまでに何かしらするとして。金はやっぱりいるよな……」


 俺も2人の嫁に金で苦労はかけさせたくない。特にしずくはあの九条院の育ちだ。仮に結婚すれば、生活レベルは間違いなく今より落ちる事になる。


「……まさかこんな事で悩む日がくるなんてな」


 少し前まで結婚なんてまったく考えていなかったのに。いろいろあったが、新たな縁を育んでくれたこの呪いには、少し感謝してもいいかもしれない。


「さて……。隣のエリアを受け持つのも今日が最後だし。俺も少しは顔を出すかね」


 隣のエリアをカバーして今日で7日目だ。いよいよ今日が最終日となる。


 この7日間で1回だけ、魔獣災害が発生した。だがめぐみは俺とのセックスで強力な魔力を得ており、これを容易く撃破。


 まぁこれがめぐみとしずくを、それぞれ別エリアに配置させた理由でもあるのだが。2人を分けていれば、どちらのエリアに魔獣が発生しても、ほぼ問題なく対処できるからな。


「陽介。少し隣のエリアをカバーしてくる」

「分かりました。こちらはお任せください」


 そう言うと俺は支給品の刀を手に取り、オフィスを出た。





 八嘉良助。少し前まで八嘉貿易の社長を務めていた男だ。


 八嘉良助は魔力を持たない平凡な男だった。だが商才には恵まれていた。


 彼は海外と取引を通じ、やがてその利益を大きく膨らませていく。そうして会社を立ち上げ、一代でそこそこの大きさまで育てあげた。


 しかしある日、彼は部下の裏切りに合う。取締役会で根回しされていた彼は、身に覚えのない取引で窮地に立たされる。


 彼の預かり知らぬところで、赤字取引が相次いでいたのだ。さすがにおかしいと訴えたが、部下の葛本郭太くずもとかくたはとある術士を帯同し、脅しをかけてきた。


「社長。責任を取って、退任してもらいましょか」


「ふざけるな……! 葛本ぉ! お前、初めから……!」


「智世ちゃん。昨日学園の帰り道、変態に襲われたらしいですねぇ?」


「……っ!?」


 その日の前日。八嘉良助の娘、八嘉智世は不審者に捕まり、車で誘拐された。


 そして車内で複数の男たちからレイプされ、全身がおびただしい量の体液でドロドロの状態という、悲惨な状態で見つかったのだ。


 犯行に使われた車も犯人も特定できずにいる。だがこの事はまだ、社内の誰も知らないはずだった。


「どうしてお前がそれを……!?」


 そして葛本の隣にいた男が、一歩前へと出てくる。男はスマホを取り出すと、動画を再生し始めた。


『い、いや! や、た、助けて……っ! 助けて、お父さん! いや、いやああああ!』


「…………っ!! と……!!」


 そこに映っている少女は、間違いなく娘の智世だった。どうして葛本がこの事を知っているのか。どうして葛本の隣にいるこの男は、こんな映像を持っているのか。答えは一つしかなかった。


 スマホに映る少女の幼い股間に、グロテスクな肉棒が近づいていく。そこで男はスマホの動画を止め、ポケットへとしまい込んだ。


「き……! さ、まぁ……!」


「なんです? そんな怖い顔して。いやぁ、しかし困ったなぁ。社長がその椅子をどいてくれなかったら、マニア受けしそうなエロ動画が、ネットの海に放逐されるかもしれんなぁ」


「……っ! こんな、こと……! 私が訴えれば、終わるのはお前たちの方だぞ……!」


 鬼の形相で2人を睨みつける。だが2人ともそんなものどこ吹く風だった。葛本の隣に立つ男が口を開く。


「ふん、商売人如きが。お前がどこに何を訴えようと、俺に捜査の手が回ることはない。我が島崎家は代々続く術士家系。そもそも。訴えるというが、何を以て訴えるのだ? 証拠は? お前は術士家系を敵に回せるだけのパイプを、財界や政界にでも持っているのか?」


「…………っ!!」


 男……島崎波江しまざきはこうの言う事にも一理あった。術士が資格制になってからというもの、昔よりも有能な者が増えた。


 昔は少し魔力を操作できれば術士を名乗れていたが、今ではその程度の者を術士とは呼ばない。その分、数も少ない……という訳ではないが、決して人材豊富というわけでもないのだ。


 そのため正規の術士資格を保有している者には、ある種の特権階級意識が芽生えていく。中には政治家議員に転身する者もいるくらいだ。


 そして。そうした元術士政治家たちと関係の深い現役術士もいる。


 分かりやすい形での権力の乱用。そうした事態を防ぐためにも、バランスを取る上で対抗措置として、執行官特権が認められているのだが。


 島崎は八嘉に対し、暗に訴えても無駄だと告げる。それに。2人はレイプ事件に対し、何も言及していない。証拠は何もないのだ。


 八嘉は唇を強く噛む。口端からは血が滲み出ていた。


「社長。この皇国で術士を敵に回すという事が、どういう事か分かってますでしょ? 僕だって本当は、こんな強引な手はしたくなかったんです。僕も社長と同じ。脅されたクチって訳なんですよ」


「ふ……よく言う。しかし八嘉。これでお前があの時、俺に献金しなかったのが間違いだったと気づけただろう?」 


「…………!? まさか……その仕返しに……!? そ、そんな、事のために……!?」


 島崎は以前、八嘉に術士家系に対する資金援助を求めていた。こうした術士家系に対する企業献金はめずらしくない。


 皇国民は術士がこの国の治安を守る要だと知っているし、中には個人的な付き合いから資金援助をしているケースもある。


 もっとも、大企業や高名な術士家系は様々な理由もあり、互いにそれほど強い結びつきはないのだが。


 しかし以前に八嘉は、島崎から資金を援助して欲しいと言われた。企業献金が珍しくないとはいえ、術士から申し出てくる事は珍しい。


 そしてそのあまりの希望金額に、八嘉は社長として判断を下した。すなわち、出資はしないと。


「お前と違い、葛本は従順だよ。そしてこいつは社長になれば、俺に金を寄越すと言ってきた」


「あららら。そんなネタばれしなくても。ま、そういう事ですけどね。利害の一致ってやつですよ」


 そうして2人は手を組み、八嘉を陥れる準備を進めていった。


「おのれ……!」


「で、どうします? 今ここで決めてもらいましょか。椅子から降りて、退職金を手に娘さんと静かに暮らしていくのか。そのまま座り続けて、一生消えないデジタルタトゥーを少女に刻ませるのか」


「……………………っ。…………条件が、ある……っ! 映像データは……全て、消せぇ……っ!」


「条件が出せる立場とでも? でもまぁ、ここまで会社をでかくしたのは、社長の功績だって事は認めてます。それに敬意を表する……とだけ答えておきましょ」


 そして。その日、八嘉は社長を退任した。

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