第18話 事件の気配! 

「担当エリアは頭に入れたな?」


「はい」


「では各自持ち場につく様に。単独行動は初めてになる。何かあれば直ぐに知らせろよ」


 隣のエリアも受け持つ事になったので、今日は4人にそれぞれ単独で巡回してもらう。だがこれでも他の課に比べると、まだ担当エリアは小さい方だ。


 隣のエリアも、その全てを俺たちの課が受け持つ……という訳ではないからな。


 元々俺たちが受け持っていたエリアは、めぐみとかぐやが。そして新たに受け持つエリアをしずくとあまねが担当する。基本的にはこれで1週間を回すつもりだ。


 ……それにしても。


「どうしたんだ、2人とも。なんかめっちゃ俺のこと見てないか?」


「え!?」


「そ、そう!?」


 オフィスに来てからというもの、しずくとめぐみの2人からすごい視線を感じる……。まぁ学園で俺とめぐみの関係について、情報の共有でもしたのかね。


「まぁいい。あぁ、それから。こっちのエリアは陽介に、俺の代理として入ってもらう。基本的に俺が対応できる時は俺がやるが、もし隣のエリアで魔獣災害が起こった場合。俺はそっちの指揮を執る。その間にこっちで何かあれば、陽介の指示に従ってくれ」


「了解です」


「はーい」


 段取りも簡単に済ませ、4人は事務所を出て行く。


 ……しまった。これじゃしずくともめぐみともヤれないじゃないか。


「く……」


「先輩? どうしました?」


「……なんでもねぇよ」


 さすがに1週間も呪いを体内に留めるのは勘弁したい。それとなく、かついやらしくなく、自然体にヤれる雰囲気に持ち込めないかな……。





「……これがそうなのか?」


「ああ。だが伝えていた通り、欲しけりゃ1000万用意してもらう」


「……高いな。効果も怪しい呪具に、そこまでの価値があると?」


「嫌なら話はここまでだ。こっちは別にお前でなくとも、他に欲しいという奴はいくらでもいるんだ。それこそ倍の値段を出す様な奴もな。それにこれを取り扱っているのは、国内では俺たちだけだ。こっちもこれまでの付き合いからサービスしている……てところを汲んでもらいたいもんだが」


 倉庫では複数人の男たちが呪具の取引を行っていた。片方は蒼月会である。


「デモンストレーションはこの間、やってやっただろう?」


「……ネットニュースでも話題になっていたな。良かろう」


 そう言うと男は、後ろに控える男に合図を出す。すると男はバッグを運んできた。


「受け取れ。中身は今、確認してもらって構わん」


 蒼月会の1人がバッグを受け取る。そして中身を確認し始めた。


「……丁度1000万あります」


「まいど。それじゃこいつはあんたのもんだ。……ああ、そうそう。これはあくまで、もしコレクションではなく、実際に使うとしたらの話なんだが。……聞きたいか?」


 男はもったいぶった口調で問う。それを受けて男性は難しい表情を作った。


「……おい」


 そして再び合図を出す。今度はバッグではなく、紙袋が手渡される。その中身を確認し、男は口笛を吹いた。


「ヒュウ、300万かよ」


「それはお前個人にやる」


「ありがとさん。そうそう、話の続きだったな。そいつは一度出すと、餌を与えないと数日で死ぬ」


「……なんだと」


「で、餌だが。魔力と親和性のある人間……つまり術士の体液だ。具体的には……」


 男は一通りの説明を終えると、部下たちを率いて倉庫を出て行った。男性は改めて、買い取った呪具に視線を移す。だが側にいた男性は、怪訝な表情を浮かべていた。


「良助様。信用できるのですか? 相手は蒼月会。それにその蒼月会が、その様な技術を持っているはずがありません」


「……何が言いたい?」


「良助様を使って、その実験データを取ろうとしているのでは? もしソレが確立された技術であるならば、これは革命といってもいい出来事です。ですがその様なモノ、今まで聞いた事もない……」


 男はふぅっと長めに息を吐く。指摘自体はもっともだと思ったのだ。しかし。


「もう遅い。私はやると決めた」


「良助様……」


 八嘉良助やつかりょうすけ。数年前まで、とある会社の社長を務めていた男だった。彼は強い恨みを込めた視線で、呪具を睨みつける。


「葛本……! そして島崎……! 見ておれ……! 必ず後悔させてやるぞ……!」





 昨日は新エリアを持って1日目だったが、何も問題なく巡回を終えられた。俺は今、オフィスで朝食を取りながらネットニュースを確認しているところだ。


 今もたまに魔獣災害は起こるが、短期間でそう何度も続けて起こる事は稀だからな。このまま何もなければそれでいいんだが。


「お、メールか」


 スマホに通知が届く。確認すると、学園にいるしずくからメッセージが届いていた。


『お疲れ様です。隊長、呪いの方は大丈夫ですか? 今のローテーションでいくと、1週間ほど呪いが蓄積するのでは……と心配になったのですが』


 しずくは良い子だなぁ! 俺の体調を気遣ってくれている。思えば一番最初に俺の呪いを受け止めてくれたのだ。ここまで気遣いができるのも、性格的なものだろう。


 やはり育ちが良いんだなぁ……。悪い男にひっかかりそうで心配になるけど。俺はささっと返信を返す。


『昨日はお疲れ! 呪いだけど、実は少し困っていたところなんだ。多分明日辺りには黒く変色し始めると思う……』


 これまでの経験上、1週間誰ともヤらなければ、俺のモノはあり得ないサイズまで肥大化する。


 自分でヌいて進行を遅らせるか、さっさとしずくかめぐみと致すのが一番手っ取り早い。


 どこかで無理やりでもヤれる時間を作らないと……と考えていると、しずくからの返信が来た。早いな。


『やっぱりそうですよね……。事務所で2人きりになれる時間もないですし……』


 そうなんだよ。しずくも気遣ってくれるのは嬉しいが、これに関しては互いに仕事や学業があるから、タイミングを合わせるのも難しい。


 どうしようか……と思っていたら、しずくから続けてメッセージが来た。


『お昼休憩中、誰の目にもつかずに、由良坂学園に入ってくることってできますか?』


 …………。つまりこれってそういう事だよな。俺が学園に潜入すれば、ヤらせてくれるっていう。


 ……なるほど。なるほどね。よく分かったよ。


 俺は下半身に血液が集中し始めるのを感じながら、返信を打つ。


『もちろんできる』


 簡潔に一文のみ。そしてしずくからは、地図画像付きのメッセージが送られてきた。


『今日のお昼、ここでお待ちしていますね』


 指定された場所は、使われていない旧校舎裏にある物置倉庫だった。


 しかしいつもは俺から誘うのだが。こんな積極的なしずくは初めてだ。何か心境の変化でもあったのかね。


 俺は陽介に昼の留守を頼むと、早速着替え始めた。

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