第17話 続・あまねの疑念! 変化しためぐみの魔力

 真咲あまね。彼女は術というものにとても強い興味と関心を寄せる少女だ。自分の扱う術にも、常に何か改良が加えれらないかと研究を続けているし、何より術の事を考えている時間がとても楽しい。


 多くの術士が義務感や責任感から己の力を高めていくのに対し、あまねは術に対しては、子どもが夢中になって遊ぶが如く接していた。


 彼女の父はそんな娘を見て、天賦の才を感じていた。実際同年代ではもちろん、高等部の生徒を含めても、あまねの才は光っているだろう。


 それにあまね自身、すでにいくつかオリジナルの術を構築している。これもそう容易い話ではない。だからこそ。


「みつばちゃん。この間の話だけど……」


 昂劫和重という男が成した偉業について、信じられなかった。いや、そもそも初めて魔族と相対した時から、その異質さは感じていたのだ。


 何せ彼は、迫りくる魔力エネルギーの軌道を文字通り逸らして見せたのだから。やろうと思えばあまねもできる。だがそのためには、事前準備が複数必要になってくる。当の昂劫は、何か緻密な術を起動させた様子もなかった。


「……で、昂劫様は見事に私を助けてくれたのです!」


 みつばはその日の出来事を嬉しそうに話す。あまねも何度聞いたか分からない。


 だがみつばは自分と昂劫の運命的な出会いを話したいのに対し、あまねは昂劫の見せた術の正体が気になっていた。


「……どうして隊長は、みつばちゃんの術式……地樹命吹術を使えたんだろう」


「愛! ですわ! 昂劫さまの私を想う愛が、奇跡を起こしたのです! わたくし、殿方からあの様に求められたのは初めてで……! 今思い出してもドキドキしちゃう……!」


 その昂劫は呪いの処理のため、日々2人の部下とセックスしているのだが、あまねは何も言わない。


「みつばちゃん、確認なんだけれど。隊長はいきなりその場に現れたんだよね?」


「ええ。文字通り、空から降ってきましたわ」


「そう……」


 みつばはさらわれた時、山奥まで連れ去られていた。そんな環境でどうやったら、空から人が降ってくるというのか。


(隊長には私たちとは違う、何か異能力がある。魔力量は並かそれ以下。なのに実戦経験も豊富。でも歴代の昂劫家の者に、そんな力があったなんて話は聞かない……)


 もし昂劫が何らかの手段で、対象の保有する術式を使えるのだとすれば。それは最強の術士と言っても過言ではない。


 何せ代々その家が改良を加えてきた術式を、横からかっさらえるのだ。複数の術式を集めれば、あらゆる術に精通した者……術士を超えた存在へと上り詰めるだろう。


「あまねが羨ましい……。昂劫さまにお会いできるんだもの」


「みつばちゃんも魔獣課に入れれば良いんだけど……」


「……なるほど。その手がありましたね」


「みつばちゃん……?」


「でも根回しは必要だし、できたとしても数ヶ月先ですわね……」


 みつばは残念そうな表情を見せる。あまねはそれを見て、せめて普段の隊長の様子を聞かせてあげるかと思った。





「すげぇ……」


「伊智倉まで水晶板を黒色に……」


 修練場では魔力テストが行われていた。めぐみの放った術は轟音を伴って水晶板に命中し、黒く輝かせる。


「さすが皇国四大術士家系……」


「間違いなくあの2人が学園最強ね……」


 そのめぐみはテストが終わると、さっさと集団から少し距離を取る。そこにやってきたのはしずくだった。


「めぐみちゃん。やっぱり、隊長さんと……?」


「しずく……。うん、まぁ。この間、いろいろあって……」


 井出句の事は昂劫と口裏を合わせているので、しずくにも詳細は話せない。そこはぼかしながら、何らかの事件に巻き込まれた際に、成り行きでそういう関係になったのだと説明した。


「そう……。めぐみちゃん、大変だったんだね……」


「う……ま、まぁ……。でも。しずくの言う通りだった」


「え……?」


「あ、あれよ。た、体内で、呪いを魔力に変換した時に、その。き、気持ちいいってやつ……」


 2人ともその時の事を思い出す。冷静になって思い出すととても恥ずかしい事ではあるが、あの快感は強いクセになる。


「ねぇしずく。私、かずしげさんの事が好き」


「……え」


「たとえ呪いがなくても……ね。しずくはどうなの? 魔力を高めるためとはいえ、もしいやいやしているのだったら……」


 これからは私が変わってあげる。そう言われると確信したしずくは思わず口を開く。


「い、いやいやじゃ、ないよ……!」


「……そう?」


「う、うん。最初は隊長さんがあんな身体になった事に対して、責任みたいなものを感じていたけど……。隊長さん、優しいし。私、配属された魔獣課の上司が隊長さんで良かったと思っているし。それに……」


「……それに?」


 一度深呼吸をする。しずくでも恥ずかしい事は恥ずかしい。


「そ、それ、に。あ、あんな姿を見せる男性なんて、生涯に1人で十分です……!」


「……うん。それはそうね……」


 既に昂劫には自分の痴態を多く見られている。


 生涯に複数人もの男性に、自分の尻の穴まで覗き込まれたいとは思わない。自分の恥ずかしい姿を知る男性はこの世で1人だけが良い。まだ若い2人は強くそう感じていた。


「でもそうなると。かずしげさんには責任を取ってもらわないとね」


「責任……?」


「2人相手にあれだけ好き勝手したのよ? それくらいの甲斐性は見せてもらいましょ」


「……ふふ。そうですね」


 翠桜皇国を始め、他国でも術士は一夫多妻が多い。それだけ家に伝わる術式を確実に伝えようとするし、術士界隈において血の繋がりは、重要視される風潮もあるからだ。


 国によっては妻の数に制限もあるが、翠桜皇国では特にそういったものはない。術士かつ資産家だった井出句馬句郎も、現当主でないにも関わらず既に9人も妻がいた。


 もしかしたら将来、同じ夫を持つかも知れない。2人は互いにそう感じ、これまであまり話した事がなかったのに、どこか親近感を感じ始めていた。





「また蒼月会絡みの事件か……。最近は皇都も物騒だねぇ」


「ああ、昨日のニュースですか。犯人は捕まったっていう話ですけど……」


 昼。この時間はしずくたちもまだ学園の授業があるため、事務所に隊員は誰もいない。


 だが後輩である補助術士の刈谷陽介と俺は、インスタントラーメンを食べながらリビングで話をしていた。俺はラーメンをすすりながら、スマホでネットニュースをチェックしている。


「今や世界三大犯罪術士組織に数えられているみたいですからね」


「その1つが翠桜皇国を拠点にしているんだ。世界からの視線は冷たそうだなぁ」


 だが有名なのは、元々世界二大犯罪術士組織と呼ばれていた2つだ。あっちは歴史と伝統もある海外マフィアだからな。蒼月会とは規模が違うだろう。


「でも昨日の事件。今日から先輩が受け持つエリアで起こってますよ。心配はいらないかと思いますが、気を付けてくださいね」


「おう」


 そう。隣の魔獣課が1週間休むため、今日から俺たちの課が一部カバーする。そして昨日起こった事件は、まさにその隣のエリアで起こったことだった。


 ま、しずくたちも既に、資格を持つ並の術士以上の力を持つ。犯罪術士如きがどうにかできる手合いじゃないだろう。


 そう考えていた時だった。スマホに魔獣災害発生を知らせるアラームが鳴る。


「お……と。陽介」


「はい、確認しました。近いですね……対象はクラス1が1体です」


「分かった。その程度なら俺が行くから、応援は不要と伝えておいてくれ」


「了解」


 この時間は隊員がいないため、普段であれば魔獣災害が発生した時、他の課から応援が来る。だがいつも応援に来てもらっていても申し訳ないし、都合がつけばなるべく俺が出る様にしていた。


 もちろんしずくたちには内緒だ。学業があるのに、余計な責任感を感じてほしくないからな。


(今日あたりしずくとヤりてぇなぁ……)


 俺は相変わらず何の緊張感も持たず、支度を整えて支給品の刀を手にすると、そのまま外へと出た。

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