第15話 オフィスコミュニケーション! 明るい職場

「も、もう……! こんなところで……!」

「いやか?」

「いやじゃ……ないけど……っ!」


 今日は全員魔獣課に集まる予定だ。だがしずくは生徒会長に呼ばれているので、少し遅れると連絡があり、かぐやもマネージャーとの打ち合わせが終わってから向かうと連絡があった。


 そしてあまねは寄るところがあり、そこの用が終わってから来るとメールが入った。


 結果めぐみだけ先に、オフィスの入っているマンションに来たのだ。そこで俺はこの間の続きをしていた。


 めぐみは学園指定の制服を着ており、今は絶賛ヤっているところだ。


「も、もし、みんなが来た、らぁ……!」

「見られちゃうなぁ。俺とめぐみがヤっているところ。しかも俺は2日前に、めぐみの中で呪いを出したばかりだから、本来ならまだこの行為は必要ない。つまり純粋に楽しんでいるだけってことだ」

「もう……! か、かずさんが、この間の続きをしたいって、言って、きたんじゃない……っ!」


 いやぁ、可愛いもんだなぁ……!


「どうする? こうしている間に、誰かが玄関から入ってきたら……」


「そんなの……い、いや……!」



◼️



 いやぁ、スッキリしたぁ……! 今はめぐみに下のお掃除をお願いしているところだ。


 くぅ……! めぐみは可愛いし、最高かよ……!


「……そろそろいい?」


「っ!?」


 不意に聞こえる3人目の声。いつの間にか俺たちのすぐそばにあるテーブルに、あまねが座っていた。


「あああああああ、ああ、あ、あままま、あまね!?」


「ああ、あああああ、あま、あまま、あまねちゃん!?」


 あまねはいつも通りの無表情で、テーブルに座っていた。俺たちは2人そろってまったく気づいていなかった。


 俺はいそいそとパンツをはきなおす。めぐみも服装を直し始めていた。


「い、いい、いつからそこに!?」


「んんと。めぐみの……こんな、本気の腰振りぃ……。 ほ、本当に、孕ませられちゃうぅ……。辺りから」


「んな……」


 つまり立ちバックでフィニッシュからお掃除の流れまで、全て見られていた事になる。


「もうすぐかぐやとしずくも来る。部屋の掃除の時間も考えると、そろそろやめた方がいい。全員の前でやるつもりなら、続けても構わないけど」


「い、いや。あ、ありがとう。も、もうやめとくよ……」


 なんてこった。めぐみとの行為に夢中で、あまねの存在にまったく気づかなかった……! まさかこんなに堂々とヤっている姿を目撃されるとは……! 


 俺は複雑な気分で、床にこぼれる自分の体液の始末をする。めぐみはティッシュで自分の股間回りを拭き、白いパンツをはいて服装を整えていた。


「あ、あまねちゃん。こ、この事は、みんなには黙ってて……!」


 めぐみのお願いに、あまねは黙って頷く。揺れるツインテールは今日も可愛いが、心臓に悪い……!


「いいけど。でも時間の問題」


「え?」


「めぐみの魔力。この間までとは段違い。しずくに続いて2人目だし。めぐみの魔力が何故急激に高まったのか、しずくとかぐやなら直ぐに思い当たる」


 まぁそうだな。俺もその辺はもう仕方ない、開き直るしかないと思っていた。元々しずくの魔力が上昇した時点で、他の3人にも気づかれていたのだから。


「隊長の呪いが浄化できて、めぐみも強い魔力を得られる。……よく考えたら、別にみんなの前でしていても良かったかも」


「ば、ばれるのは仕方ないけど……! みんなの前でするのとは、話がちがうでしょ!」


 ま、そりゃそうだ。俺もさすがにみんなの前で……うん? あれ、悪くないかも……?


「……かずしげさん。変なこと考えてない?」


「え、い、いやぁ。それよりあまね。お前も視えているんだな」


「魔力のこと? うん、隊長ほどじゃないと思うけど」


 術士の中には他人の魔力や、大気中の魔力の流れを肌で感じるだけではなく、直接見る眼を持つ者がいる。いわゆる魔眼や霊視の類だが、どちらかと言えば珍しい。


 それに性能も能力も千差万別。だがあまねはめぐみの魔力の高まりに気付いていた。

 

 戦闘時なら溢れる魔力から、相手のおおよその魔力量を測れる。だが日常の場面でそこに気付いたという事は、あまねも視える眼を持っていることになる。


「いや、俺のは魔眼ではないよ。自前で組んだ術によるものさ」


 それで話は終わりだと流そうとしたが、あまねは反応を示した。


「自分の眼を媒介にした術式ということ?」


 おや。興味を持たせてしまったか。この辺の話は、肉体関係を持っためぐみとしずくにはいつかしようと考えていたのだが、あまり言いふらしたくはない。だが興味を持ったのはめぐみも同様だった。


「そんな術式、聞いたことないけど……。疑似的な魔眼……霊視の能力を作り上げられるということ?」


「いや、うーん。なんと言ったもんかな……」


 めぐみだけなら聞かせても良かったのだが。しかしよほど興味があったのか、普段口数の少ないあまねはなおも突っ込んできた。


「隊長が実戦経験豊富な戦士だという事は分かる。でも公式の記録には、ほとんど交戦記録が残っていない」


「そういえばそうね……。私も最初は実戦経験のない、頼りない人っていう印象だったし……」


「うん。でも確かに対人、対魔族戦闘に精通している。動きを見ればそれが分かるし、実際にその場面を見たという人からも話を聞いた」


「え……」


 あまねが何やら不穏な発言をする。そして嫌な予感が的中した。


「みつばちゃ……みつば様から聞いた。昔、魔族にさらわれたみつば様を、単身で駆けつけて助けてくれた男性がいたって」


 ……? だれだ、みつばって。疑問に思っていたが、どうやらめぐみは知っている人物の様だった。


「え……! みつば様って魔族にさらわれた事があるの!? そんな話、聞いたことがないけど……!」


「皇女が魔族にさらわれたなんて知られたら、大変なことになるから。この事は皇国の上層部のみが知るとっぷしーくれっとになっている。だからめぐみも内緒。もし言いふらしたら、処分される」


「いや、物騒な秘密共有を強制的にするなよ……」


 しかしそうか。みつばというのは皇女か。俺は皇族は数人しか名前を知らないからな。数も多いし。


 だがめぐみは伊智倉の娘だし、公式行事なんかで会ったり話したりする機会もあったんだろう。


「まさか……その時、みつば様をお救いしたのが……?」


「そう。隊長その人」


「うん……?」


 やべ。まったく記憶にない話だぞ。


「いやいや、それは人違いだろ。自慢じゃないが、俺は皇族と話したことも会ったことも一度もないぞ」


「3年前。隊長が大学に通っていた時。間叡山で……」


「……ああ! あの時か! え、あの娘、皇女だったの!?」


 思い出した。仙界に拉致されていて、どうにか人界に帰ってきた直後の話だ。


 あの時はたまたま魔族にさらわれている少女を見つけたんだ。で、修行の成果もあって、何とか魔族から女の子を助け出した。


「……。まさかみつば様を知らなかったとは思わなかった」


「いや、だってよぉ。俺、あの娘の名前聞いてなかったし」


「テレビでたまに映る」


「俺テレビはドラマと音楽番組、それと車関連のものしか見ないんだよ」


 あまねは普段以上に無表情になっていたが、緩く首を振る。


「……この間、みつば様から聞いた。その時、隊長がどんな風に戦っていたか。いかにあの双剣魔公のウィーロンから、みつば様を取り返したのか」


「えええぇ!? そ、双剣魔公のウィーロン!? 魔族の中でもかなりの有名どころじゃない……!」


 やべぇ。そっちも知らねぇ。というか、俺の人生プランで魔王領近辺で働く予定はなかったため、魔族関連の知識は最低限しか抑えていないのだ。


「……有名人なの?」


「し、知らないの!?」


「……皇国と隣接する魔王領。そこの魔王に仕える将軍格の1人……と言えば分かる?」


「な……なるほど……?」


 あれか。四天王的な奴か。多分4人の中では最弱なんだろうが。


 魔族の脅威度もピンキリだ。だがこの世界に数人いる魔王は間違いなく最大の脅威度を誇っている。次にやばいのが、その魔王に仕える人語を介するタイプだ。


 単純にキレるし、中途半端に会話が通じる分、厄介な場面が多い。多分ウィーロンとやらは、そのタイプなんだろう。


「か、かずしげさん、とんでもない経歴の持ち主なのね……。いや、何となくは気づいていたんだけど、これは予想外過ぎるわ……」


「私もおそらく、10年修行してもウィーロンには敵わない。そもそもあのクラスの魔族は、1対1で戦う相手じゃない」


 そう。魔族は単体としての能力は人を超えるが、弱点もある。それは数が少ないということだ。


 どういう訳か、こっちの世界に来られる魔族には条件があるらしい。そして対魔族戦の基本は、あまねの言う通り1対多数だ。


「でも隊長はウィーロンの他、6人も魔族がいたのに、彼らを撃退してみつば様をお救いしてみせた……」


「あー、そうだったかな。もう3年も前だし、あんまり覚えていないんだが……」


「え、その程度の記憶しか残らない相手だったっていうこと……?」


 いや、あの時はてこずったのは覚えている。だが相手が何人いてどういう風に戦って……という記憶はあまり残っていない。


 何せ俺としても、かなり久しぶりに帰ってきた人界だったのだ。魔族に対しては、ただ手こずった印象が強いというだけになっている。確かあの時は……。


「うげ……」


「? どうしたの?」


「あ、いや……。ちょっとその時の記憶を思い返していてな……」


 そうだ……あの時、俺は。少女が特別な術式を宿している事を視て。そしてそれを使って、魔族たちと戦ったんだ。


 つまり、俺は。皇女の……それも当時はまだ小さかった女の子に対して。


「みつば様は言っていた。昂劫様が私の唇を奪い、奇跡を起こしたと。2人の愛の力が、邪悪を討滅したのだと」


「…………え?」


「ちょ、ちょっと、あまねさん!?」


 あまねは変わらず無表情だが、めぐみは半眼で俺を睨んでいる。


「みつば様ってあまねちゃんと同い年よね。そして3年前という事は……。あ、あなた、まさか……!」


「いやいや待て待て。めぐみ、お前は誤解している……!」


「まさかおっぱい大きくても小さくても好きっていうのは……! 女であれば、大人でも子供でも好きっていうこと!? 単なる節操無しじゃない!」


「違うって! いや、微妙に違わないんだが、そうじゃない! あの時はそうするしかなかったんだよ!」


 めぐみは分かりやすく、嫉妬と非難の視線を向けてくる。だがこのタイミングで九条院姉妹もオフィスへと入ってきた。


「お疲れ様ですー」


「みんな、お疲れ様~! ……どうしたの?」


 さて……この2人の登場が吉とでるか、凶と出るのか……。

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