第4話 昂劫和重の秘術! 身体を蝕む呪い
俺はトレーラーを出ると、急いで幼稚園の中へと向かっていた。
魔族にはいろんなタイプが確認されているが、厄介なのは認知できる魔力量に振れ幅があり過ぎるタイプだ。
だいたいこちらが感じる程度の魔力と、実際に保有している魔力はそう大して変わらないのだが、たまにその常識が通じない奴がいる。
そしてそういうタイプは、最初は大人しめな魔力を感じる時が多い。
「くそ……!」
モニター越しに確認した魔族を見て、こいつもその厄介なタイプだと分かった。
俺は足に天仙力を集中させると、一瞬で4人の前まで移動する。そして迫りくる魔力波動に対し、右手を突き出した。
「あらよっとぉ!」
まともに受ければ俺もただでは済まない。幸いこの攻撃は、単純に魔力を放射してきているだけのものだ。術として昇華されていない。
俺は右手に込めた力を起点に仙術を発動させ、魔力波動を上方向へと捻じ曲げる。目論見通り、敵の攻撃はその軌道を変え、直撃を避ける事に成功した。
「ふぅ……。久しぶりだったが、上手くいって良かった……」
「あ……」
「た、隊長!?」
「おう。お前ら、命令違反のお仕置きは覚悟しとけよ。ったく……」
陽介には本部に緊急コールを送らせてある。直にBランク以上の術士様がやってくるだろう。
「そ、そんな……。あの攻撃を、捻じ曲げた……!?」
「あんな一瞬で……どうやって……!?」
めぐみたちも驚いた声を出している。魔族も突然現れた俺に対し、警戒している様に見えた。
「対魔族戦も久しぶりなんだが……。仕方ねぇな」
こいつは想像以上にやばい相手だ。負傷した4人を連れて後退するのは難しいだろう。あんまりやりたくはないが、対魔族術士が来るまでの間、俺が時間を稼ぐしかない。
そう考え、呼吸を整え始めた時だった。魔族は手で大きく空を斬る。その瞬間、魔族の隣に新たな魔獣が現れた。
「な……」
こいつ……! やっぱりある程度自由に、向こうと行き来できるタイプか……!
その魔獣は先ほど現れたものよりも巨大な体躯をしていた。例えるならミノタウロスにオークを足した感じだ。しかも。
「うへぇ……。あいつ、お前たちを見て欲情してやがるぜ……」
「え……」
その魔獣は股間から超立派なモノをそびえ立たせていた。目もしずくたちを見ている。そしてその特徴から、俺はその魔獣の正体についてあたりを付けていた。
(こいつが牛剛鬼か……。魔獣としてのクラスは5。過去にはこいつに犯された女も多い。狙いはしずくたちだろうな……)
こいつは人の女に欲情し、しかもその性欲もすさまじい。過去には巣に連れ去られた女もいる。
連れ去られた女は救出されるまで……あるいは死ぬまでずっと、あの巨大なモノで悲惨な目にあう。
「ウモオオオオオオオ!!」
牛剛鬼は猛スピードでこちらに迫ってきた。俺は自分の血に住まう仙獣の力を顕現させる。
「来たれ、耀陵閣仙!」
俺の目の前には、顔の見えない鎧武者の様な獣が現れた。
こいつは耀陵閣仙。昔、仙術の修行を積んでいたころ、縁あって俺の血の中で眠ることになった仙獣だ。
耀陵閣仙は牛剛鬼と正面からぶつかり合う。そしてしっかりとその動きを抑え込んでいた。
「そんな……!? 式神は、皇族の血筋にしか扱えない神秘の術式のはず……!?」
「す、すごい……!」
厳密に言えばこいつは式神ではない。式神と違って、俺が直接コントロールしなければならないのだ。要するにめちゃくちゃ集中力がいる。
コントロール中、俺はただここで突っ立っていることしかできないのだ。
「ぐぅ……!」
きついな……! だがいける……! 耀陵閣仙の方が牛剛鬼よりも強い! このまま押し切ってやらぁ……!
そう思っていた時だった。俺の後方から牛剛鬼に向けて攻撃術が飛ぶ。
「!?」
見るとめぐみが攻撃術を放ったところだった。めぐみの放った術は牛剛鬼に命中する。
「見たか……!」
「ば、ばかやろう! 余計な刺激を与えるんじゃない……!」
牛剛鬼は苛ついた目をめぐみに向ける。耀陵閣仙で抑えこんでいるが、抵抗が一気に激しくなった。そしてそのタイミングで、魔族が再び姿を現す。
「っ!!」
魔族は4人に向けて巨大な魔力球を放出した。
俺は耀陵閣仙のコントロールを放棄し、4人と魔力球の間に身を挟む。そして先ほど同様、迫る魔力球を上へと逸らす。
「くぅ……!」
だが。その俺の側を何かが通り過ぎる。後方を振りむくと、牛剛鬼がめぐみに迫っているところだった。
「な……!」
くそ! 耀陵閣仙を振り切りやがったか……!
俺は足に天仙の力を込めると、即座にめぐみの前へと移動する。短距離であれば、瞬き一回の速度で移動可能な仙術だ。
なんとか間に合ったが、俺の目の前には牛剛鬼が大口を開けて迫っていた。
「ぐうぅぅ……!!」
左肩にかぶりつかれる。い、痛ぇ……! だが何とかめぐみは無事だ。
「あ、あんた……」
「ぐおおおおおおお!!」
耀陵閣仙のコントロールに意識を集中する。
耀陵閣仙は牛剛鬼の後ろから襲い掛かり、その背に手刀を突き刺す。その瞬間、俺の左肩から口が外れた。
「このまま……!」
左肩から血が溢れるのも気にせず、牛剛鬼を抑えにかかる。
くそ……! 動きは封じたが、あと一撃が足りない……!
そう思っていた時だった。しずくが薙刀の先端に魔力を集中し始める。その矛先はたちまち赤く光り始めた。
「やあああああ!」
動けない牛剛鬼に対し、鋭く斬りかかる。その一撃が決め手になり、牛剛鬼は絶命した。
■
「う……」
「あ!」
「気付いた……!」
どうやら気絶していたらしい。ベッドで寝ている俺の側には4人の可愛らしい部下と、もう1人見知った顔の女が立っていた。
「鏑木……。それじゃ、ここは……医務室か?」
「魔獣課のオフィスよ。事情を聞いて、私が飛んで来たの」
鏑木涼子。俺の同級生になる。
こいつの職業は、魔力傷害を専門に診ている医者だ。ちなみに魔力は扱えないが、天才医師として名を馳せている。
どうやらあの後、俺は事務所に連れ帰られ、そこで鏑木が治療に来てくれたらしい。陽介が呼んでくれたのかな。
「そうか……派手に肩を食われたもんなぁ……って、えぇ!?」
上体を起こすが、そこである事に気付く。俺の下半身に鎮座するモノが黒く変色し、普段より一回り大きくなっているのだ。
というか、何で俺は下半身裸なんだよ!?
「きゃ……」
あまねは無表情だったが、3人は恥ずかし気な反応を見せつつ、俺のをしっかりと見ている。なんだ、この状況。
「おい鏑木。こりゃどうなってんだ? それに魔族は……」
「これでも大分ましになったのよ。さっきまでこれの倍くらいは大きかったんだから」
「え……」
鏑木が言うには、ここに来た時の俺はかなりサイズをアップさせた状態だったらしい。それも明らかに人間サイズを超えていたとのことだ。
そして診断を進めるうちに、ある事が分かった。
「呪いぃ!?」
「ええ。牛剛鬼の呪いね。おそらく死んだ時に、その肩の傷を起点にして発動したのでしょう。で、呪いの特性も調べたんだけど」
そこで鏑木は一泊置く。なんだ、気になる。
「性欲、性衝動の上昇といったところね」
「…………」
ばからしい……とも言えない。鏑木の言う通りだ。実は目覚めてからずっとムラっ気を感じている。
「く……なんて恥ずかしい呪いだ……。まぁいい、自家発電でどうにかするさ……」
「それができれば良いんだけど。おそらく自分ですると、効率が悪いわ」
「効率?」
鏑木はさらに呪いについて教えてくれた。
牛剛鬼の呪いは強力で、俺の身体で無尽蔵に溢れかえるものらしい。そして俺の身体が耐えられる許容量を超えると。
「魔獣化するだと!?」
「あるいは魔族化かしら。どちらにせよ人ではなくなるわ」
「まじかよ!? そんな怖い呪いなのかよ!」
だがスッキリさせさえすれば、俺の呪いも体外へ放出されるらしい。
俺が目覚めるまでの間、鏑木は俺のをひたすら手でしごき、ずっと体外に出させていたそうだ。4人のお嬢様の目の前で。
「え……寝ている間にそんな羞恥プレイさせられていたの、俺」
「それで何とかそのサイズになったのよ。手が疲れちゃった」
つまり俺が魔族化しないためには、呪いが広がる前にスッキリし続けなければならないという事だ。
だがそれだけでは問題があるとの事だった。
「自分でやると、結局一時しのぎにしかならないわ。呪いが広まる速度の方が上だもの」
「え、それ詰んでない?」
「でも。魔力が豊富な身体に出せば、その時に相当量の呪いを放出する事ができるわ」
「……。それってつまり……」
「術士の女を抱けば良いって事よ。で、その子の中に出すの。あなたは次に呪いが溜まるまでの猶予を得られるし、女術士は呪いを体内で高濃度の魔力に変換できるから。一時的に相当な力が得られるでしょうね」
俺が魔族化や性衝動を抑えるためには術士の女を抱く必要があり、女性の方も魔力を得られる。
なるほど、ウィンウィンだな!
「……ってそんな都合の良い女なんて見つけられないぞ」
鏑木も術士ではないしな。
「まぁこの呪いがどの程度強力なのかは、これから経過観察も必要だろうし。案外自家発電している間に呪いも薄まるかもしれないわ。何も保証はないけど」
「……とりあえず俺の身体については分かったよ」
こりゃ面倒になってきたな……。
ちなみに魔族についてはあの後行方をくらませたらしいが、駆けつけた術士が倒したとの事だ。
担当地区の魔獣災害警報も解除されているとのことだった。
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