第2話 初顔合わせ! 昂劫隊のお嬢様たち
そうして新たな魔獣課の部隊が結成されたその日。俺は4人と顔合わせを行った。
「九条院しずくです。普段は由良坂学園の高等部に通っています。昂劫隊長、よろしくお願いしますね」
「おう! よろしくな!」
俺は事前に目を通していたデータを思い出す。
九条院しずく。あの九条院家のお嬢様だけあり、得意な術は炎を使ったものが中心。中でもしずくは接近戦を得意としているらしい。
見た目は黒髪ロングストレート前髪ぱっつんの、どこからどう見てもおしとやかなお嬢様だ。そして制服の上からでも分かる、豊満な胸に清潔感のある長い黒髪。絶世の美女というやつだろう。
くぅ、たまらん! 同級生がうらやましい! あの胸を思いっきり揉みてぇ! きっと高等部では、男子生徒たちのオカズになっている事だろう。
「ふん……いやらしい眼で見ないでくれる?」
続いて声を出したのは、伊智倉めぐみ。伊智倉家も四大術士家系の1つであり、結界術の完成度では皇国随一と言われている。
めぐみもしずくと同じ高等部に通っているが、こちらはいろいろしずくと対照的だ。
まず胸。無い訳ではないが、割とつつましい。それに髪。こちらもセンター分けのショートカットだ。
だが顔は綺麗で整っており、紺色の髪色とよく似合っている。ショートカットながら活発というよりは、モデルという印象だ。
「そんなつもりはないんだが……」
「ふん、どうだか。だいたい何で、昂劫家なんて過去の栄光にしがみついている様な家の者が、私たちの隊長なのよ」
うぅん。こっちは仲良くなるのに時間がかかりそうな気配だな……。くそ。その生意気な口を無茶苦茶にしてやりてぇ……!
「九条院かぐやでーす! よろしくね、お兄ちゃん!」
「おお……! いやぁ、まさか本物の……あのかぐやちゃんが見られるとは思わなかったよ」
「えー、本当ですかぁ? 後でサイン書いてあげますね!」
九条院かぐや。しずくの異母妹で、遠距離攻撃術式が得意な中等部に通う才女だ。
彼女は肩で揃えた黒髪を揺らしながら、俺に上目遣いでほほ笑んだ。く……。か、かわいい……!!
九条院かぐやは、四大術士家系である意味一番の有名人だ。というのも芸能活動も行っており、これまでもいくつか雑誌のインタビューやドラマにも出演している。
俺も見た事があるが、演技もとてもうまい。偶に見せる妖艶な表情に、ドキッとしてしまった事もある。
「でも芸能活動もあるのに、大丈夫なのか?」
「うーん、それなんですけどぉ。魔獣課っていつも忙しいって訳じゃないじゃないですかぁ」
魔獣課は基本的に事態が起こった時に初めて忙しくなる部署だ。語弊はあるが、消防隊員と似た位置付けになる。
いざ魔獣が発生すれば忙しくなるが、何もない時は鍛錬や巡回に時間をあてる。
「私もまだ中等部に通う学園生だしぃ。しばらくは芸能活動をしつつ、スケジュールが空いたらこっちに参加させてもらう……という方向で考えているんですけどぉ」
かぐやちゃんは首を傾けながら、可愛く目線を合わせてくる。くぅ……本物は違うな!
「分かった。よろしく頼むよ」
「はぁーい!」
まぁ問題があるなら、九条院家なり上層部なりが何か言ってくるだろ。しずくも何も言わないし、かぐやちゃんについてはこれで良いだろう。そして最後の1人は。
「……真咲あまねです。よろしく」
「おう! こちらこそだ!」
無表情で自己紹介したのは真咲あまね。年齢はかぐやの一つ下だが、同じ由良坂学園中等部に通う女の子だ。
幼い顔立ちに金髪ツインテールの髪型が良く似合っている。母方に海外の魔術師の血が入っているんだったかな。
真咲家のことを俺は知らなかったが、調べてみると中々凄い家だった。ざっくり言うと、皇族が抱えている護衛に特化した術士家系だ。
皇族専任護衛術士の家系と言ってもいい。そして皇族に仕える家系だから、術士としても有能に決まっている。
(あまねちゃんの成績も凄いな……。攻撃術式、支援術式、妨害術式、そして格闘戦。そのほとんどで高いレベルを修めている。まだ中等部なのに……)
中でも得意術式は支援系統。こうしてみると、中々バランスの良い部隊かもしれない。
接近戦が得意なしずく、遠距離が得意なかぐや。そして結界術が得意なめぐみに、支援を中心に何でもござれのあまね。
欠点はみんな学校通いで、いつも全員がそろうという訳ではないという点か。
(だが全員美少女だし、こんな可愛い良家のお嬢様に囲まれて仕事ができるんだ……! その上、年俸も上がっている……! 魔獣課なんて魔獣が発生しなけりゃ基本的に暇だし、俺にとっての天国がここにあるんじゃないか……!?)
「またいやらしい眼をしてる……。言っておくけど、私はあなたを隊長とは認めていないんだからね」
めぐみが何か言っていたが、俺は自分のこれからの職場環境に胸を弾ませ、まったく耳に入っていなかった。
■
俺の魔獣課が発足されて一週間後。この日は珍しく全員そろっていた。みんな学園帰りであり、制服姿のままだ。
美少女の制服がこれほど良いとは……。なんで学園に通っていた頃の俺は、この良さに気づいていなかったんだ……!
「お疲れ様です、隊長」
「お兄ちゃん、お疲れ様~!」
「おう。今日もよろしくな!」
「ふん。どうせ今日も見回りして終わりでしょ」
魔獣課はそれぞれ担当地区が決まっている。各々その地区内で巡回だったり事務所での鍛錬を行っており、いざ魔獣が出た時には、現場へすぐ駆け付けられる体制を整えている。
巡回のやり方も自由だ。この1週間ではそれぞれ自由に担当エリアを回ってもらったり、魔獣課が所有するミニバンに乗って各地を巡回したりしていた。
ちなみに運転手は俺。助手席にはいつもしずくが座ってくれる。めぐみは……ありゃ何があっても俺の隣はいや、って感じだったな……。
だが今日の予定はもう決めてある。
「今日は鍛錬の時間にあてようと思う。いい機会だし、みんなの実力が見たいんだ。ほら、俺はデータでしかお前たちの事を知らないから」
優秀な術士の卵というのは分かっている。おそらく現時点でも、並の現役術士程度では足元にも及ばないだろう。
だからこそ仮とはいえ、魔獣課に配属されている訳だが。
「なによそれ。あんたが私たちの相手をするってこと?」
「いや、さすがにそれは考えてないよ。あくまでお前たち同士での模擬戦を見たい。しずくとめぐみ、かぐやとあまねで模擬戦を行ってもらう」
俺の提案にあまねを除く3人は、少し驚いた表情を見せる。何か変なことでも言ったか……?
「うん? 学園でも模擬戦くらいやっているだろ?」
俺の疑問に答えたのは、今日も可愛いかぐやちゃんだった。
「お兄ちゃん。同級生に四大術士家系関係の人はいなかった?」
「え……ああ、いなかったが……」
「道理で……。あのねお兄ちゃん。私たちは普段、学園生同士で模擬戦はしていないの」
「え、そうなの!?」
聞けばある程度の家格がある学園生は、指導役との模擬戦はあっても、学園生同士の模擬戦はやらないらしい。
それには過去に起こった、ややこしい事件の数々が関係しているとの事だった。
「ほら、良くも悪くも四大術士家系は派閥も大きいでしょ? 指導役の人も大体いずれかの派閥に属しているの」
それで評価に色を付けた事例は、過去に数えられないくらいにあったらしい。
さらにたまに家格に劣る者に負けたりすると、それをきっかけに派閥抗争が激しくなったり、仕返しが起こったりと、収集のつかない事態まで展開した事もあったそうだ。
「うへぇ……。術士家系はめんどいなぁ……」
「あんたも術士家系でしょ……」
で、派閥抗争に発展させないためにも、特定の学園生は同級生同士で模擬戦を組まない様にされているらしい。
「ま、事情は分かったがよ。ここは学園ではないし、お前たちは術士資格を取ったら、もしかしたら魔獣課で働く可能性もある。ここでの出来事は俺が責任を持つから、とりあえず模擬戦はやるぞ」
データだけではない、今の実力を把握しておきたいのは確かだ。学園ではどうか知らないが、ここにそんなルールを持ち込まなくてもいいだろう。
「……分かりました。地下の鍛錬場に行きますね」
「おう。あ、それと。4人の戦闘スーツが届いたから、それに着替えるようにな」
■
(これは……!! た、たまらん……!!)
鍛錬場にはハイレグ調の戦闘スーツに着替えた4人が並んでいた。全員色は違うが、ボディラインがくっきりと分かるぴっちりスーツに、ニーソックスの出で立ちだ。正直かなりエロい。
術士の戦闘スーツは、その手の界隈ではかなり人気のコスチュームだ。AVでも人気のコスプレ衣装として、常にトップにランクインしている。
「な、なんだか恥ずかしいですね……」
「ちょっと……! あんた、こっち見ないでよ……!」
「撮影で着る水着みたーい」
「……ぴっちり」
特にしずくは胸の破壊力もでかい。めぐみのスーツはおへそ辺りが透けている。
術士の戦闘スーツがこんなに露出が激しいのも理由がある。それは魔力だ。
魔力は自身が持つものの他にも、大気中に流れているものもある。術士……特に女性はそういった魔力を感じ取れる感覚に優れている。
これは魔獣の早期発見や、自らの術の効率を上昇させる技能にも通じる。そのため、特殊繊維で編まれた戦闘スーツに肌の露出面積を増やす事により、そういった周囲の魔力を感知しやすい様にしているのだ。
(しずくは赤、めぐみは青。そしてかぐやは黒であまねが白か……。いい、良いぞ……!)
戦闘スーツも色もみんな良く似合っている。あとでどうにか口実を作って、写真を取らせてもらおう。
そんな事を考えていたためか、俺の目はついついしずくのたわわなおっぱいに集中してしまう。
「あ、あの……隊長……」
「ん……お、おお! よぉし、模擬戦を始めようか!」
無理やり取り繕う。だが俺がしずくの胸をガン見していたのは丸わかりだった。めぐみは不機嫌な様子を隠さない。
「あなたねぇ……! どうしてあなたみたいな人が、私たちの隊長なのよ……!」
「いや、俺も上からの辞令を受けただけだし……」
「軽く調べたけど、あなた術士としてほとんど実戦経験がないじゃない! 私たちに術で劣るばかりか、経験までない人に、上に立たれたくないわ……!」
めぐみの言う通り、公式には俺の戦闘記録はほとんどない。プライドの高いめぐみお嬢様からすれば、俺みたいな男の指揮下に入るのは嫌なのだろう。
しかし俺も仕事だ。困ったな……。
「どうすれば俺を隊長と認められる?」
「……私と模擬戦を行いなさい。それで多少でも実力を見せたのなら、認めてあげなくもないわ」
「うぇ……」
彼女も四大術士家系に連なる身だ。俺の術士としてのデータ……職位でEランクに上がっただけの術士である事も確認したのだろう。
その上で自分の方が格上であると判断しているのだ。
「俺は術を使っての戦いがあんまり得意な方ではないんだが……」
「そんな人がどうして魔獣課の隊長をしているのよ」
「そりゃ隊長職は後方で指示を出すのが仕事だからな!」
現場はみんなの領域、俺とは仕事のステージが違う。そう言い張る俺に、めぐみは失望の溜息を吐いた。
「はぁ……。少しは術士としてのプライドを持ちなさいよ……」
「ま、それはそれとしてだ。仕方ねぇなぁ。期待には応えてやれねぇが、少しなら模擬戦に付き合ってやるよ」
「あら。随分気弱じゃないの。仮にも私たちを従える隊長なのに」
「これでめぐみが少しでも納得してくれるなら、やらなきゃしょうがないだろ……」
気乗りはしないが。まぁしょうがないな。少し戦えばめぐみも納得してくれるだろ。そう考えていた時だった。スマホにアラームが鳴り響く。
「え!?」
俺は直ぐにスマホを取り出し、コールに出た。
『昂劫隊長! 魔獣災害が発生しました! 直ぐに対処に向かってください!』
「!!」
スマホの音声は全員に聞こえており、4人とも驚いた表情を見せている。
「……残念ながら模擬戦はお預けだ。実戦でお前たちの力を見せてもらうぞ!」
丁度戦闘スーツに着替えてもらっていたし、タイミングが良かった。
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