【全年齢版】翠桜皇国の仙術使い 〜Eランク術士の俺が受け持つ事になった部隊の隊員は、みんなエリートお嬢様でした〜

ネコミコズッキーニ

第1話 新部隊発足! 隊長、昂劫和重

 俺は黒髪の美しい女の子……九条院しずくと

2人でトイレの個室から出ると、何食わぬ顔で廊下を歩き始めた。


 彼女は翠桜皇国四大術士家系の一つ、九条院家のお嬢さまだ。


 前髪ぱっつんに肉付きの良い身体。見た目もとても清楚な顔立ちであり、彼女の通う学園の高等部でも、一番の美人として注目を集めているらしい。


 その憧れの美人お嬢さまは今、顔を赤くしながら俺の後ろを付いてきていた。


(いやぁ……良かったなぁ……!)


 改めてしずくに視線を向ける。服越しでも分かる豊満な胸に、大きな目。そして清潔感のある長い黒髪。


 しかも今は、ハイレグ調のピッチリした戦闘スーツを装着している。肌の露出も多いし、行為の後だけあって俺の目はその下半身に向きがちだった。


 少し前まで普通の公務員だった俺が、どうして彼女とこういう関係になったのか。二人で廊下を歩きながら、ゆっくりと事の経緯を思い出していく。





 昂劫和重コウゴウ カズシゲ。それが俺の名だ。昂劫家は少し名の知れた術士家系の家となる。


 俺は家の方針もあり、大学を出た後は翠桜皇国の国家1種術士試験を受け、これに合格する事ができた。


 昔は魔力に対する親和性さえあれば、誰でも術士を名乗れていたのだが、国家資格となったのには理由がある。それは今から400年前、五大国家が共同で行ったある実験に由来していた。


 魔力。異界よりこの世界に流れ込むこの神秘のエネルギーを用いて、人は豊かな生活を送っていた。


 その魔力と親和性の高い者は、自らの肉体にも魔力を宿し、訓練する事で自由自在に扱える様になる。


 ちなみに一般的には、男性より女性の方が魔力と親和性が高いと言われている。実際、各国のトップに君臨する術士はだいたい女性だ。


 そして400年前。世界に流れ込む魔力量をより増やそうと、大掛かりな実験が行われた。


 その実験は成功し、今や世界は昔よりもさらに多くの魔力で溢れている。そうして人は、これまで以上に豊かな暮らしを手に入れた。


 だが弊害もあった。これまで異界から流れこんでいたのは魔力だけだったのだが、実験を期に魔獣や魔族という異界の生物まで現れる様になったのだ。


 魔族の内の何人かはこの世界に興味を持ち、今では人から土地を奪い、独自の領地を持つ者……魔王と呼ばれる者が存在する。魔族は魔獣も自由に操るし、魔力の操作も人間以上に得意としていた。


 そして今も魔獣は全世界に突発的に発生する。その対処に追われた各国は、改めて術士という位を資格制にし、一般人の前で公にその力を振るう事を許可した。


 細かく分けると多くなるのだが、国家が抱える術士戦力は2つに大別できる。


 1つが魔王領との境界に配置される者たちで、対魔族を想定したもの。そしてもう1つが、突発的に現れる魔獣に対し、即応できる戦力。魔獣災害対応課……通称魔獣課だ。


 これまで内勤業務で働いていた俺に新たな辞令が降りたのは、今から2週間前のことだった。


「え……異動!?」


「そうなんだよ。今度、魔獣課で新しい隊がいくつか新設される事になってねぇ。昂劫くん、君にはその1つを任せたいんだよ」


 ハゲちらかした上司から辞令の内容を確認する。俺の担当する魔獣課は、どちらかと言えば魔獣課(仮)という感じだった。


 聞けば所属する術士の隊員は全部で4人だが、全員高等部もしくは中等部通いの学生らしい。そのせいもあって、担当するエリアも小さい。


「学生を魔獣課の正規隊員に……?」


「うん。今の内から現場での経験を積ませて、将来術士資格を取得したら即戦力として活躍できる人材を育成する……そんな感じなんだよ」


「はぁ……。国家1種術士試験に受かる保証もないのに……?」


「その点は心配ないんだよ。ほら。これが君の隊に所属される予定の子たちのリストだよ」


 上司から渡された資料に目を通す。そこには驚きのメンバーが記載されていた。


「こ、皇国四大術士家系の……! 九条院家に伊智倉家ぇ!? しかも九条院家は高等部に通う姉と、中等部に通う妹の2人ぃ!?」


「あと1人の真咲家だけど。ここの術士も代々皇族の守護術士を輩出している家でねぇ。ま、つまりは。我が翠桜皇国の術士家系のエリートを集めた部隊という訳だね」


「…………!!」


 開いた口がふさがらない。こんな超がつくお嬢様たちを……新設の部隊に所属させるなんて……!?


「彼女たちは授業が終わったらそのまま出勤してもらう。もう分かっているだろうけどね。なかなか注目を集める部隊になるよ。そんな訳でよろしく頼んだよ」


「……なるほど。俺が隊長に選ばれたのは、昂劫だからですね」


 昂劫家は皇国四大術士家系とか、そんな大層な家ではない。


 だが術士が資格制になるよりさらに大昔には、この界隈で幅を利かせていたらしい。何でも皇国最初の術士を輩出したのが昂劫家だとか。


 しかし長い年月で他に優秀な術士家系が増え、今ではかつての名残でばかでかい家が残っているのみだ。要するに落ちぶれたという感じだな。


 それでもこの界隈は歴史と伝統を重んじるところがあるため、お嬢様方を迎えるにあたって、昂劫家の者を上に付ける形にしたのだろう。


 これがもし他家なら、余計な軋轢を生みかねない。その点、昂劫家は名前だけは知れ渡っているが、術士界隈にも政治界隈にも大した影響力はないからな。


 自分で言っていて悲しいが、面倒な役割を押し付けるにあたって、最適な人選だったのだろう。


「はぁ……気乗りしねぇ……」


「そうそう。これにより昂劫くんの術士ランクの昇格と、新たに役職もつくからね。給料も上がるよ。具体的に言うと、年俸で850万圓だ」


「昂劫和重! 新設される部隊の隊長職、謹んでお受けさせていただきます!!」


 今は年俸450万圓だからな。倍近く上がるじゃねぇか……! 


 ただでさえばかでかい屋敷と土地のせいで、年間の税金が高いんだ! これで晩御飯に一品追加する事ができる……!!

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