第5話 二百四十五日目

 深夜三時、僕はあの公園に向かう。公園に着くと、あの人は眠そうな顔をしている。

 そして、僕に気付くと、近寄ってきて嬉しそうに「おはよう。こんばんは……かな」と首を傾げて可愛らしく言うのだ。今日は僕の誕生日だからだろうか。いつもより着飾ってくれている気がする。髪は自然な感じに巻かれていて、服もいつも以上に可愛らしい。

 多分、僕は彼女に大分惚れているのだと思う。最初から彼女に惚れていたのだと今になって気付く。

 出会った頃は嫌な人だと思っていたが、一緒に居る時間が増える度、好きなところが増えていく。出会って最初の頃は深夜に会うことが多かったが、連絡を取り始めてからは土日に昼間会うことも増えていった。彼女との時間一秒一秒に幸せを感じ、嬉しく感じる。彼女に出会ったことで僕も僕の家族も変われたのだと思う。


 「なんで、こんな時間?」


 僕にとってこの時間は意味のある時間だ。それは彼女にとってあまり記憶に残っていないらしい。酔っていた彼女にとっては、時間など気にせず飲んでいた方が楽しかったからかもしれない。


 「なんででしょう」

 「……誰も居ないから?」

 「それもある」






 「いつまでも、自分は可哀想みたいな雰囲気を出すな!」


 僕は酒を飲んでいる父に向かってそう言う。

 僕は彼女に感化され、なんでも言ってみなきゃ分からないと試してみた。

 その方法は大成功だった。父はバイトから始めてみると言い出した。母はぽかんとした顔をしたが、それが本当だと気付くと嬉しそうに涙を流していた。

 






 「いつか、私が孝宏に慰められたことがあったよね」

 「いつのことですか?」

 「ありすぎてわからんな」


 と彼女は笑って言う。こんな日常が毎日続いていけばいいのに。


 「孝宏が私のこと好きって言った日。あの日は本当にありがとね」

 「僕の誕生日だから、今日は優しいんですか?」

 「お姉さんはいつも優しいだろ!」


 と彼女は少し怒り気味で言うが、すぐに笑って「なんか、君と出会ってから世界が変わったみたいに色づいて見えるの。ありがとう」と嬉しそうに言う。

 最初は酔わなければ見れなかった彼女の笑顔も今となってはこうやって何もしていなくても見れている。


 煙草は僕の肺に障るからとやめたらしい。彼女の気遣いが嬉しくて本人の前ではその言葉を言えないけど、いつもいつもありがとうと思っている。


 そうだ。今日は僕の誕生日なんだ。あの言葉を。あの言葉を今日なら言える。

 恥ずかしくて、あれからずっと言えなかった言葉。今日までずっと、ずっと会う前に家で練習したのだ。

 

 飛波さん。飛波さん……飛波さん。


 「飛波さん、好きです。付き合ってもらえませんか」


 そして、彼女は嬉しそうな顔をして、僕の手を掴み、「はい」と涙を流して嬉しそうにそう言う。

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深夜3時、君に会いに行く。 森前りお @Sirozakura

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