第2話 二日目

 「なんでいるんだよ」


 小さい声で僕は言う。まだ一時半なのに、彼女は居た。そして、昨日と同じように酒を飲みながら煙草を吸っている。

 

 「よっ!少年!」


 彼女は手を高々に挙げて手を振る。酔い始めたばっかなのだろうか。昨日より呂律が回っている気がする。

 そんなことを思っていると、彼女がベンチをぱんぱんと叩く。

 僕はため息をつきながら、今、帰るのも失礼かと思い、彼女の隣に座る。


 「まさか、今日も会えるとはね」

 「僕は会いたくなかったです。てか、昨日一時から三時までずっと飲んでたんですか?」


 彼女は昨日の記憶を探る。酒を飲んでいて記憶が曖昧なのだろうか。彼女は指を折って数えている。


 「四時くらいにやめて……家に帰った……はず」


 これだから、酒飲みは……。


 「家……どこなんですか?」

 「あそこ」


 彼女は公園から見える目の前のアパートを指す。

 なんで、この人、家で飲まないんだろ。と思っているとすぐに返事がきた。


 「家より、公園で飲んだほうが酔いやすいんだよ」

 「人に見られている感じがして、興奮すると……」

 

 父にこんな生意気なこと言ったら殴られる気しかしないが、この人は言っても怒らない気がした。


 「君、なかなか面白い事言うね」


 と褒められた。なんなんだ。この人は。もっと違う反応するかと思った。「何いってんだよ。ませガキが」とか。

 しばらく、虫の音と煙草と吸う音だけがあたりに響いた。光の強い電灯が、僕たちを照らし、彼女の髪は茶色く見えた。

 彼女の顔をあまりよく見たことはなかったが、綺麗な顔をしていると思った。だけど、性格は最悪と言っても良い。煙草と酒を両方一緒に飲むやつにいい人は居ないと知っている。


 「君はさ、逃げたいの?」

 「え……」

 「昨日さ、親がダメダメなヤツって話したじゃんか。こんな、公園に深夜来るってことはそういうことかなって」

 

 僕はしばらく考えた末、自分が何をしたいのかわからなかった。


 「わかりません。ただ、あそこが息苦しくて、家に居ると上手く息ができていないっていうか、でも、息はできているんでけど……なんていうか」

 「自分の居場所がない?」


 その通りだと思った。自分の部屋があるのに、そこは休めない場所で、でもこの人と居ると三時間でも八時間寝た時のようにぐっすり眠れるのだ。


 「確かに……そうかもしれない」

 「そっか。で、今は?」

 「今は息苦しくないです」

 「それはよかった」


 彼女はごくっと酒を飲んだ。

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