深夜3時、君に会いに行く。

森前りお

第1話 一日目

 深夜3時の公園は誰も居ない。そう思っていた。



 ライターを持って煙草を吸いながら、酒を飲む成人女性。それが、僕の彼女への印象だった。


 「少年、隣に座れよ」

 

 命令っぽく彼女はそう言う。僕は言われるがままベンチに座っている彼女の隣に座る。

 (なんだか居心地が悪い)

 酒の匂いも煙草の匂いも臭い。この人は母と父を合わせたような人だ。

 僕の母は煙草を吸う。酒癖も悪い。酒を飲んだら、今日は五十代のおっさんにセクハラをされたんだとか、そんな悪口を零す。そして、その後は僕のお説教タイムが始まる。何も悪いことしていないのに、お前はもっとちゃんとしろとか絶対思っていないだろと思う事ばっかり言ってくる。父は嫌な酔っぱらい方をする酒飲みだ。暴言とか暴力はされたくないので、父が酒を飲んだら部屋に避難する。

 せっかく、母と父から逃げられる穴場を見つけたと思ったのに、先客が居たなんて……最悪だ。

 

 「少年は、寝ないの?子供は寝る時間でしょ」

 「そういうあなたこそ。明日は仕事じゃないんですか?」

 

 今日は水曜日だ。

 スーツを着ているこの人はこの服のまま、また明日、いや今日か。昨日と同じ服を着て仕事に行くのだろうか。


 「疲れちゃってさー。上司のいびりとか、上司のいびりとか。あとセクハラ」

 「噂広めちゃえばいいじゃないですか。その上司の嫌なところ」

 「その前に会社での私の居場所がって言っても君には分からないか」


 そんな決めつけるようなことを言うのなら最初から僕に言わなければいいのにと思う。大人というものは分からない。なんだか、この人が僕に馴れ馴れしく感じるのは、彼女が酔っぱらっているからだろうか。

 そして、彼女はまたごくっと一口酒を飲む。酒を飲んだ後、ふうっと副流煙をこぼす。

 (だから、大人って嫌いだ)


 「君さあ、早く寝た方がいいよ」

 「親が……邪魔で」

 「なになに、せっ」

 「違いますって!何想像しているんですか!?」


 酔っ払いは嫌いだ。酔っぱらったらなんで下ネタばっかり言いたがるのか理解できない。思春期の俺でもそんな下ネタなんて言わないのに。

 大人になって酒を飲んだら自分も彼らのようになるのではないと少し怖い。


 「酒と煙草で寝られないんですって。あと、テレビの音。母はバーで働いてて、父はニートなんで」

 「うわあ、君のお父さん、ダメ男じゃん」

 「母は煙草と酒飲みます。酒癖が悪いです」

 「やばいねえ」

 

 あなたにも当てはまるんじゃないのかと思う。やばいという言葉をそのまま返したいぐらいだ。

 

 「はあ……」

 「どうしたの?」


 またぐいっと彼女は酒を飲んで「あーあ、無くなっちゃった」と名残惜しそうに空の酒を見る。それで、終わりかと思ったら、もう一本酒が出てこなそうなおしゃれなバッグから出てくる。

(災難だ)


 「帰ります」

 「そう、じゃあ、またね」

 「あ、はい。さよなら」

 「またじゃないのかよ!」


 午前三時から五月蠅いなあと思いながら、俺はその公園を去る。

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