7月29日、お話。
十時十分
「それで、俺に聞きたい事ってのは何だ?」
二橋亮二は鋭い目を三人に向ける。
「まず……自分のことを知ってるか?」
「いや、全く知らないな」
その答えに少年は疑問を持った。何故二橋亮二は全く知らない自分の事を殺したのか。
「じゃあ……俺を殺す理由に心当たりはあるか?」
「あるぜ」
「やはり無いよな…………え?」
少年を殺す理由に心当たりがある。二橋亮二の言葉に三人は思わず目を見開いた。
「そ、それって……」
「その前に、俺の質問を一つ答えてもらおうか」
「質問?」
二橋亮二は首を鳴らしながら少年を見た。
「簡単だ。お前を殺そうとした時の俺はどんな様子だった」
「殺そうとした時の様子……?」
目を閉じてその時の光景を思い出す。カラオケ店、家の玄関、思い出したく無い記憶にある光景を。
「とても静かで……目が据わってて……」
今、目の前に居る人物と明らかにかけ離れていた。
「なるほどね、そんな感じだったのか」
「これで良いのか?」
「あぁ、お前を殺そうとした時の俺の考えはなんとなく理解できた」
二橋亮二はどこか納得した表情をしていた。
「さて、それじゃあ心当たりについてなんだが、
「鐘村陸?」
唐突に告げられた名前、それは日歳連合が起こした事件の被害者の名前だった。
『鐘村ビル襲撃事件』、その事件で凄惨に殺されたビルのオーナーだ。
「詳細は伏せるが俺はコイツの関係者を追っててな。さっきまでソイツの手掛かりを探してたんだ」
「待て待て! その鐘村陸の関係者を探すというのが何故時田クンを殺害することになるんだ!」
飛躍した内容に少女が口を挟む。しかし二橋亮二は呆気からんと言い返す。
「そんなの知らねぇよ。それぐらいしか俺がお前を殺す理由が思い浮かばないな」
言ってしまえば、少年を殺害する動機としては弱すぎるだろう。
少年は鐘村ビル襲撃事件について知らなかったし、その被害者との関係は全く無い。
だが関係が無くとも少年は殺害された。これは揺るぎない事実だった。
「それで、質問はこれで終わりか?」
「まだある。なんでここに近づいたんだ」
「……どういう意味だ?」
「
黒那神社、その言葉を聞いた二橋亮二はニヤリと笑った。
「ほぉ、それを知ってたのか」
「立山コーキングであの二つの本を見たからな」
「それなら話が早い。あの神社に俺の探しているヤツが現れる可能性が高かったんだよ」
探しているヤツ、鐘村陸の関係者のことだろう。
二橋亮二はそのまま話を続ける。
「ソイツはとある神様を信仰してたらしくてな。調べた結果その黒那神社に祀られている神様だという事が判明したんだよ」
「それで、ここに張り込んでいたということか?」
「そういうこと、だが未だに姿を見せてない。もしかしたら勘付かれたのかもな」
聞きたいことはある程度聞いただろう、しかし何故少年を殺害したのか、その理由は未だわからない。
「ところでお前が持ってるそれは何だよ」
二橋亮二が唐突に友人を指差した。
それはズボンのポケットからはみ出した封筒だった。
「あ、これか。さっきキッチンの冷蔵庫に入ってたんだよ」
「…………中身を見せろ」
「なんでお前なんかに見せなきゃ━━」
「見せろ」
圧、死ぬ直前だった時に感じた息苦しい圧がこの狭いスタッフルームを包んだ。
友人は困惑しながらもその封筒を二橋亮二に渡した。
封筒を受け取った二橋亮二はそこに入っていた一枚の紙を見て、鼻で笑った。
「何が書いてあったんだよ」
「…………」
友人の問いに二橋亮二は無言で封筒に入っていた紙を雑に放った。
拾って見てみるとそこには無機質な文字列が並んでいた。
『7月30日の二十四時に指定の場所に来い。来なければ仲間の身に危険が迫ると思え』
呼び出しの手紙だが明らかに脅迫を含んだ内容だった。
「最近こんな手紙が届くようになってな、忌々しいったらありゃしねぇ」
不機嫌そうに椅子にもたれ悪態を吐く二橋亮二の眼からは明確な怒りの感情が伺えた。
「手紙の差出人に心当たりは?」
「詳細はわからねぇが、おそらく鐘村の関係者だろうな」
確かに今の状況を考えるとその人物が当てはまるだろう。
しかし内容から見て罠の可能性が高すぎる。
「……この呼び出しに応じるのか?」
「内容からして応じないと俺の仲間が危ない目に遭うんだ。応じるしかねぇだろ」
この二橋亮二という男、荒々しい態度とは裏腹に仲間思いの人物のようだ。
その時、少年の中にとある考えが思い浮かぶ。
(まてよ、目の前のコイツは元々俺を殺す気は無かった。それなら━━)
"誰かから少年を殺害するよう脅された"というのはどうだろう。
(なら脅している人は誰だろう……?)
身を隠している二橋亮二の居場所を警察よりも早く察知することができ、未だに正体を掴めない人物。
(なんか違和感がある……)
指名手配中の二橋亮二を脅迫して少年の殺害をする。言ってしまえば少年を殺害するためだけにここまで回りくどいことをしているのだ。
(この違和感はなんだ……?)
しかし少年にはそれとは違う違和感が頭を包み込んでいた。
何かが足りない。そう思った時、外から大きな機械音が鳴り響いた。
『子供が健やかに、親が安心して暮らせるように、星山みつるに清き一票を!!』
「うるせぇ! もう少し音量落とせや!」
「市長選投票日まであと二日だからな、どの候補者も必死なのだろう、だが確かに喧しい」
瞬間、少年はハッとする。
違和感の正体、そして自身を殺害しようとしている人物が浮かび上がった。
「チッ、もうここもダメそうだな……」
二橋亮二は椅子から立ち上がりスタッフルームを去ろうとした時━━
「待て」
静かな声が呼び止めた。
「あん、なんだよ」
「ちょっとお願いがあるんだ」
呼び止めた少年の手には一枚の写真が握られたいた。
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