7月31日、  。

十九時三十四分


「なあレイ、何で俺ここに居るんだよ」

「いきなりどうしたんだよ」


 繁華街のカラオケ店に友人と少年は居た。

 聞こえるのは防音の壁から漏れる音だ。


「いやお前、今日殺されるんだろ。昨日はあれだけ走り回ってたのにどうして今日はこんな呑気にしてるんだよ……」

「大丈夫だよ。ほら『ナゴヤ戦隊シャチホコファイブ』とか歌って気晴らししとこうぜ」


 友人はマイク片手に訝しげな表情を浮かべる。


「まあお前がそれなら良いけどさ………。ところで何で俺の十八番を知ってんの?」

「気にするな!」


 そうして友人が特撮ソングを歌い始める。

 その光景は何も知らなかった最初の時と同じようだった。


「……そろそろか」


 時刻は十九時四十分。運命の時間まで残り三分となった。


「肇、やるぞ」

「わかった。こうなったら最後まで付き合ってやる!」


 友人はコップを持ち立ち上がる。


「それじゃあ飲み物取りに行ってくるぞ」

「あぁ」


 そして友人は部屋を後にする。

 残った少年はスマホを開きゲームのアプリを起動した。

 画面には大きな時計を持った銀髪の女性が映っている。


『以前、事象は変化を嫌う、故に物事の事象を変えるのは至難の技と言ったな。だが一つだけ、変える術がある。

 それはな━━━事象を起こしながら結末を変えるんだ。事象が変化を嫌うならその通りにさせれば良い。だが結末はどうとでもなるものだ。

 …………マスターなら結末を変えるぐらい簡単だろ?』


「事象……ね」

『キャー!!』


 少年が呟いていると扉の先から女性の叫び声が響き渡り、それに続いて"警察を呼べ!"という騒がしい声が響いて来る。


「来たか」


 その直後、バンという音と共に少年のいる部屋の扉が勢いよく開かれた。

 少年はそれに反応して扉の方へ目を移し扉を開けた人物を見た。


「…………」


 その人物は身長が百八十センチ以上ある大柄な男だ。真っ黒のジャケットに真っ黒のズボンの真夏の日とは真逆の服装であり、獲物を見るその目はとても鋭いがどこか戸惑っているようでもあった。

 大きな火傷の痕がある右手には拳銃が握られており、その銃口は少年に向けられていた。


「…………」


 少年は静かにその男…………二橋亮二を見つめる。

 一方、二橋亮二の方は、


━━パンッ!


 唐突に地面に向けて発砲をした。

 少年は何もしない。ただただカラオケルームのソファに座り二橋亮二を見つめている。


「これで……良いのか?」

「えぇ」


 そう言いながら少年は立ち上がり二橋亮二に相対する。

 二橋亮二は少年をじっくりと見つめる。そして━━


━━━パァンッ!!


 乾いた音と共に弾丸が射出された。

 強い衝撃が響く。瞬間、少年の目の前に赤い色の液体が飛び散り、自身の身体はそのまま後ろの方へ倒れてしまった。


(………………)


 そして、倒れる途中、少年が見たのは手に持ったスマホが宙に浮いている光景。その画面には"七時四十三分"という表示がされていた。

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