7月28日、探索。

十一時四分


 コンビニから少し歩いた一角に立山コーキングはあった。鉄筋コンクリートで作られた二階建ての一軒家で、とても頑丈に作られた建物は三十年ほど経過した今でもその形を保っていた。


 しかし長年放置された影響か、至る所に塗装の剥がれが見受けられ、周りにある柵は倒れ、一本の柱に括り付けられている『(株)立山コーキング』と書かれ看板はその文字が掠れよく見えず、今にも落ちて来そうなほどボロボロになってになっている。

 周りを見渡しても人の気配は窺えず、この場所だけが街の景色から明らかに浮いていた。


「……完全に廃墟だね」

「少し調べたけど、この会社十年前に潰れていたらしいな」

「取り壊そうにも金が掛かるからそのまま放置するしかないということだな。指名手配犯が身を隠すにはうってつけという訳だ」


 三人は会社の玄関のドアの前に立っていた。


「それじゃあ行こうか」


 そう言って少年はドアに手をかける。ドアに鍵は掛かっておらずすんなりと開く。


「警戒しとけ、もしかしたら二橋のヤツがいるかもしれない」


 警戒しながら入る。


 が、異変は何も起きない。ただ暗い玄関がそこにあるだけだった


「大丈夫そうだね」

「一応警戒は緩めずに行こう」


 友人は竹刀袋から竹刀を取り出した。

 玄関の先を見渡し目に入ったのは、二坪ほどの広間だった。奥にはもう一つの部屋があり、そこから二階への階段が見えた。


「とりあえずこの部屋にはいなさそうだね」

「みたいだな。まずはこの部屋を見てみよう」


 そうして広間へ移動する。

 広間は長らく放置された影響で埃が飛び回り、部屋の角には大きな蜘蛛の巣ができていた。そして周りを見渡すと、『木製の本棚』、『事務机』が少年の目に映った。


「それじゃあ探索しよう」


 そうして三人はそれぞれ広間の探索を始めた。


「俺は事務机の方を調べてみる」

「私は本棚を」


 友人と少女は各々の場所を調べ始めた。一方の少年、この広間全体を改めて見回してみる。


「あそこは……?」


 少年の視線の先には人間二人分しかない狭い廊下があった。

 廊下に入るとそこにはもう一つのドアがそこにあった。


「ここは裏口だったのか」


 ドアを開けてみようとするが、ドアノブは鍵がかかっており開くことができなかった。

 少年は諦めて広間の方へ戻ろうとする。


「あれ?」


 振り返ろうした時、廊下の壁にある小さな押し入れが目に入った。この押し入れの持ち手に埃は無く、最近使用されたであろうことがわかった。

 少年は押し入れを開けて中を見てみた。


「あっ……」


 その中に入っている物に少年は驚愕の表情を浮かべる。そして慌てたように、


「ふ、二人とも! ち、ちょっと来てくれ!」


 大きな声で友人と少女を呼んだ。


――――――――――――――――――――

十一時二十六分


「どうした!?」


 少年の声を聞き、友人と少女が慌てたように少年のいる場所に来た。少年は押し入れに入っていた物を手に取り二人に見せた。


「こ、これ……これを見てくれ……」


 それは少年にとって一番思い出したくない光景を想起させる物。真っ黒の目出し帽だった。


「目出し帽……」

「お、俺がこ、こ……殺された時に見たやつだ」


 その言葉を聞いた二人の表情は強張る。少年は思い出したくない物を見てしまい額から冷や汗がダラダラと流し呼吸もかなり乱れていた。


「はぁ……ふぅ……」

「大丈夫だ。落ち着け。軽く深呼吸をしてみろ」


 友人が少年を落ち着かせようとしているところ、少女は少年の手に持った目出し帽を見ながら考え事をしていた。


「この目出し帽があるということは、間違いなくここは二橋亮二の隠れ家だったんだろう。つまり今はこの近辺で活動をしている……?」


 そうしている間に少年はある程度落ち着きを取り戻した。


「はぁ……悪かった。ところで二人は何か見つけたか?」

「そうだな……ちょっと来てくれ」


 三人は事務机の方へ移動した。事務机の上には一冊のノートと数本の鉛筆が置いてあった。


「引き出しの中にこのノートが入ってた」


 ノートは普通の大学ノートで最近にも使い込まれている形跡があった。


「このノート、もしかしたら二橋亮二が書いている物かもしれないな」

「とりあえず読んでみよう」


 そして少年はノートを手に取り表紙を捲る。


『二橋亮二、自身の活動の報告と、もしも時のためにこれを記す』


 一番最初の文章と共に書かれていたのは二橋亮二の最近の動向だった。


『七月二十三日。警察の動きが早い。拠点を移す必要あり』

『七月二十四日。拠点を繁華街の路地へ移動。警察は依然変わりないが警戒する必要がある』

『七月二十五日。午前中に俺宛の手紙が路地にあった。差出人は不明』


「手紙……?」


 事務机を見渡すが手紙らしいものは特に無かった。少々気になったが少年は再びノートへ目を移した。


『七月二十六日。街の噂で夏の怪異という物を耳にした。特徴からどうやら俺のことらしい。誰にも見られてないはずだがどうしてだ?』

 

『七月二十七日。繁華街で俺のことを捜索している高校生三人組を発見。まずいと考え一星たちの拠点に手紙を送り。自身の拠点も移動させた』


「あ、これって……」

「間違いなく私たちのことだろうな」


 ノートにはこれ以降の記述は特に無く白紙のページだけが続いていた。


「こんな所……か」


 少年は読み終ったノートを事務机に置き、少女の方を向いた。


「八代は何を━━」


 見つけたのか。そう続けようとした言葉は何かが崩れる音によって遮られた。


「奥の部屋だ! 二人とも伏せろ!」


 友人はそう叫びながら竹刀を構えた。少年と少女は身体を伏せながら音のした奥の部屋の方を確認する。


 そこには━━━━ナイフを持った一人の男が悠然とした様子で少年たちを睨んでいたのだった。

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