7月28日、犯人。

九時二十六分


「まずはこれを見てくれ」


 そう言って見せたスマホには二橋亮二の来歴が記してあった。


「二橋亮二、現在二十六歳。幼少期のことはわからなかったが、大学に通っていたのは判明したぜ」

「大学ではどんなことをしてたんだ?」

「民間信仰学。その土地その土地に根付いた宗教形態の研究を専攻していたらしいな。大学では結構評判は良かったらしいぞ」


 民間信仰……、有名なのは中部地方に伝わる『ミシャクジ様』や穀物の神様で有名な『お稲荷様』、東北地方の『なまはげ』もそう言った信仰の名残だったりする。

 二橋亮二はそう言った研究をしていたらしい。


「二十四歳で大学を卒業した後、A県の企業に就職し。その二年後の六月、先月だな。大和公園放火事件に加担したとされている」

 

 二橋亮二の大まかな来歴を聞き少年はミルクティーを一口飲んだ。


「なんか普通の人っぽいね……」

「それは俺も意外だった。指名手配されてるぐらいだから、もっと素行が悪いのかと思ったよ」

「だけど俺はこの男に一度殺害されている。油断はできない」

「それもそうか……。とりあえず俺からはこんな感じだ。ヤシロはどうだ?」

「無論できてる。最初はこれだ」


 そう言って一枚の紙をテーブルに置いた、二橋亮二の手配書だ。


「手配書にある身体的特徴の欄、『身長180センチほどの痩せ型』、『右手の甲に大きな火傷の痕がある』、それに加えて『顔を隠している男性』。この三つの特徴を目撃した人が居ないかSNSを使って探してみた」

「それで、どうだった?」

「一件だけ、信憑性のありそうな書き込みが見つかった」


 そう言って少女はスマホに表示された書き込みを見せた。つい先日に投稿されたものだ。


『今デッカいお化けを見つけた! 顔と身体が真っ黒で手が真っ赤だった!』

「身体的特徴は抑えているけど…………これだけ?」


 評価が一切ない、ただの書き込み。それが二橋亮二を見つける手がかりになるのだろうか。


「確かにこれだけだと何の手がかりにもならないだろう。だから一つお願いがある」

「何だよ」

「キミのお姉さんだ」

「え?」


 唐突に告げられたその言葉に友人はキョトンとしてしまった。少女はそんな様子を気にも留めず話を続ける。


「この書き込みには『今お化けを見つけた』とある。つまりその場でこの文章を投稿したと予想ができる。なのでキミのお姉さんにその時に投稿された場所を調べて欲しいんだ」


 確かにこの書き込みに書かれているお化けが二橋亮二なら、その書き込みがされた場所の周辺に潜んでいる可能性が高い。


「とりあえず連絡してみようか……」


 そう言って友人が電話をしてみる。すぐに電話は繋がった。


『肇ちぁゃん? 珍しいねぇ、肇ちゃんから連絡してくるのってぇ』

「ちょっと姉ちゃんにお願いしたいことがあってさ……」


 そうして友人は二、三会話をして……。


『書き込みの投稿された時の場所を調べるねぇ。まあ五分あればできるから良いよぉ』

「わかった。その書き込みを送っとくから調べてくれ」

「お安い御用ぅ、それじゃあちょっと待っててねぇ」


 友人は電話を切りスマホを操作して例の書き込みを送信した。


「よし、送っといたぞ」

「感謝する。連絡が来るまでに二橋亮二が漏洩した情報について報告しよう」


 少女はSNSの記事を見せる。そこには『速報! 日歳連合の情報が警察に漏洩!』と書かれていた。


「漏洩された情報は三つ。『連合の隠れ家』、『放火事件の真相』、『鐘村ビル襲撃事件の実行犯』についてだ」


 どれも連合側にとっては致命的とも言えそうな情報ばかりだ。


「残念だが具体的な内容はわからなかった」

「まあ警察もおいそれと情報は公開できないよね」

「ただ連合の隠れ家については判明している。警察が情報を受け取り、すぐに動いたのでね。場所はここだった」


 少女が示した場所は……春神市の住宅街にある既に住んでいるものが存在していない廃屋。


「え……?」

「残念なことに警察がその場所に到着した時には既にもぬけの殻で痕跡などは発見できなかった」


 その場所は昨日、少年たちの通っている高校のすぐ近くだった。


「おいおい……マジか」

「幸か不幸か……私たちは意外と近づいてるのかもしれないね」


 その直後、友人のスマホから着信音が鳴り響いた。


「もしもし」

『書き込みがされた場所がわかったよぉ。場所を送っといたからよろしくねぇ』

「あぁ、ありがとうな、姉ちゃん」

「……みんな、本当に気をつけてね」


 少年はミルクティーを飲み、お水を飲み、一つ息を吐いた。


「ふぅ……、それじゃあまずは書き込みのあった場所に行ってみようか」


 二人はその言葉を受け、自身の飲み物を一気に飲んだ。

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