7月27日、徒労。
7月27日、徒労。
十三時三十一分
サラリーマン、私服の高校生、日傘を差している年配の女性。夏の繁華街には老若男女、様々な人間が歩いていた。夏休みの時期というのもあり、その人通りはとても多かった。
「暑いなぁ……」
「ぼやかないでくれ……余計に暑くなる」
警察署近くのバス停から約二十分。春神駅からしばらく歩き繁華街に到着しカラオケ店に向けて歩いていたが、その猛暑に友人が文句を言っていた。
「肇って剣道部だろ。暑さに慣れてるんじゃないの?」
「よく言われるけど、やっぱり暑いモンは暑いんだよ……」
そうしてしばらく歩くとその場所に到着する。
昼間の現在は見えないが、夜になると眩しくなるぐらいの沢山の電球が付けられ、中心に『ドナルド』と書かれた扇の形をした看板が入り口に架けられていた。
「うん? ここって……」
「よーし、到着!」
訝しむ少女を他所に叫んだ友人はカラオケ店の前に置いてある自販機に近づき、スポーツドリンクを三つ買った。
「とりあえず暑いから飲め!」
「ありがとう……」
「キミに施されるのは癪だが今回は感謝する」
そうして三人スポーツドリンクをゴクゴクと飲み、最終的に三人とも飲み切った。
「生き返ったぜ!」
「それで、どうしてここに来たんだい?」
「あぁ、この辺りで聞き込みをやりたいんだ」
少年を殺した犯人は指名手配されている犯罪者だ。故に迂闊に行動ができない状態なのではと考えたのだった。
「とりあえずコンビニの店員とかに手配書の写真を見せて似ている人を見たことがないか聞いて回ろう」
「了解」
「それでは一旦別れて一時間後にここに集まろう!」
そうして少年達は別々に調査を開始した。
さて、少年の聞き込みだが、カラオケ店の近くにあるコンビニの店員では。
「すみません、この写真の人を見ていませんか?」
「うーん? いや見てないです」
「そうですか……、何かこの辺りで気になることとかはありませんでしたか?」
「夏休みになったからか学生が多くなったぐらいですね」
「なるほど、ありがとうございました!」
カラオケ店から少し離れた通りで談笑していた女性の二人組では。
「すみません、この写真の人を見かけたりしていませんか?」
「えー、私は見たことないなー。ハルッちは?」
「ウチも見たことないなー」
「そうですか……、ちなみに最近変わったこととかは……」
「最近は本っ当に暑くなった!」
「マジでそれ!」
「ですよね、ありがとうございました」
道を歩いていたサラリーマンからは。
「すみません。この写真の男を見たことありませんか?」
「えっ? いや見たことないね」
「そうですよね……、最近変わった事とかはあります?」
「変わった事……あ、市長選が近いから選挙カーがうるさいなぁ」
「やっぱりうるさいですよねぇ」
「まあ三十一日が投票日だからそれまでの辛抱だね。それじゃあ僕はこれで失礼するね」
「あ、ありがとうございました!」
公園のベンチに座っていたお爺さんからは。
「すみません。この写真の男性を見かけたりしていませんか?」
「うん? いや見とらんな」
「やっぱりそうですよね……」
「君は夏の怪異を探しとるのか?」
「夏の怪異? 違いますよ」
「違うのか。最近この辺りじゃあ夏の怪異とやらを見つけようと躍起になってる輩がいたからの。君もその類だと思ってたよ」
「そんな人が居るんですね。ありがとうございました!」
――――――――――――――――――――
十四時三十五分
そうして一時間が過ぎ、三人は再びカラオケ店の前に集まっていた。
「二人ともどうだった?」
「ダメだ、知ってる人はいなかった」
「私もだ。手掛かりが手配書だけではやはり苦しいな」
三人は頭を悩ました。このまま続けても成果は得られない可能性が高い。しかし他の良い案を思いつくこともできなかった。
「……とりあえず今日は解散しよう」
少年の提案に友人は意外そうな顔をした。
「いいのか?」
「色々あって疲れてるし、このまま続けても埒が開かない。明日にまた喫茶店に集まって作戦会議しよう」
「わかった」
そうして三人は駅まで向かい、その後解散し各々帰宅した。
――――――――――――――――――――
二十一時十二分
「今日は忙しかったなぁ」
夕食を食べ、お風呂に入った少年はベッドに寝転がりスマホを開いた。そこには友人と少女から三人のグループチャットにメッセージが届いていた。
『今日は掃除とか手伝ってくれてありがとうな!』
『あと、気分は大丈夫か? 自分が死ぬ未来を見るのは色々堪えるからさ……』
友人からは彼の姉の部屋の掃除の礼と少年を心配するメッセージが書いてあった。
そのメッセージを見て少年は微笑んでいた。
(相変わらず良い奴だよなぁ……)
『大丈夫だよ。明日も頑張ろうな!』
『そういえば、ガチャ引いたか?』
『そういえば引いてなかった!』
そのメッセージから二分ぐらい経った後、ゲームの画像が貼り付けられた。そこには大きな時計を持った銀髪の女性が写っていた。
『マジか!』
『一発で引けたぞ!』
『おめでとう!』
『引けて良かったよ!』
そうして友人としばらく会話し、その後に少女から送られたメッセージを見た。
『今日聞き込みをした場所について少し気になることがあるんだ』
このようなメッセージが送られていた。
『気になることって?』
『突拍子もない内容だから説明が難しいんだ』
『明日、喫茶店で話すから少し時間が欲しい』
『わかった。また明日にな』
メッセージを送った少年はスマホの電源を切り、ベッドに横になりぼんやりと思考を巡らした。
(突拍子もないこと……か。未来から来た人間以上に突拍子もない事ってなかなか無いよなぁ)
そんな事を考えながら少年は瞼を閉じ、ゆっくりと眠りについた。
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