7月27日、結成。
七時三十六分
「ふぁーあ」
大きなあくびを上げながら目を覚ました。カーテンの隙間から差し込む陽射しが少年の目を一瞬だけ当てた。
「今日は……27日か」
前の時はこの時間はまだ寝ていたことを思い出す。しかし今の少年は早い時間に起床した。
「うん、頑張ろうか」
自分の頬を叩き、改めて気合い入れた。そうしてスマホの電源を入れゲームを起動する。
「さすがにデイリーはこなさないとね」
その後、日課を終わらせ、寝巻きからTシャツとジーンズに着替え上着と鞄を手に持って自分の部屋から出ていく。
「おや……怜、おはよう」
リビングに向かうとスーツ姿の男性……少年の父親がコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
「おはよう。父さん、出張に行ってなかったっけ?」
「あぁ、昨日の深夜に帰って来たんだ」
そう言いながらコーヒーを飲み干した。
「そういえば今日から夏休みか。その格好はどこかに出かけるのか?」
「うん、友達と一緒に遊びに行く」
「そうか」
そう言いながら父親はバッグを持って席を立った。
「せっかくの夏休みだ。精一杯楽しみなさい。それじゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃい」
父親はゆっくりした足取りで玄関を出て行った。父親を見送った直後、背後から足音が聞こえた。
「あら、おはよう」
「おはよう」
少年の母親が洗濯物が入ったカゴを両手で持ちながら歩いて来た。
「お父さんはもう行ったのね」
「うん」
「朝ごはんは冷蔵庫にあるから温めて食べてね」
「うん、わかった」
母親は洗濯物を干しに中庭へ向かった。少年は朝食を電子レンジに入れ、テーブルに座わりテレビを見始める。そこには普段は全く見ない十五分のテレビドラマが流れていた。
(はぁ……)
ぼんやりとテレビを見ながら少年は心の中で息を吐く。
どうすれば自分は死なずに済むのだろうか。友人と少女を巻き込んでよかったのだろうか。朝の眠気と共に少年は様々な不安を巡らせていた。
その直後、電子レンジのチーンという音が少年の思考を遮るように鳴り響いた。
――――――――――――――――――
九時七分
「娘が孫を見せに来てくれたのよ〜」「…………おかわり」「そうだぁッ!こうするんだぁッ!」
昨日ほどでは無いが喫茶店『
そして奥の席には昨日と同じ三人組が座っていた。
「なんでお前夏休みなのに学生服なんだ?」
少女は夏休みという時期なのに学生服を着ていたのだ。訝しげに少女を見ている友人の質問に探偵少女は元気な笑みを浮かべながら答えた。
「そんなことかい? そりゃあ私は高校生探偵だからね! 高校生というのを強調しなくては!」
「そうなんだ……」
そして元気よく質問を答えた少女はオレンジジュースを一口飲み話を切り出す。
「ところで、昨日の最新作の生放送、見ていたよ」
「俺も見た、ビックリしたよ……」
アイスティーを飲む友人も驚きの表情を浮かべていた。
「うん、それなら良かった、それで八代……」
不安そうに聞く少年の言葉を少女は顎に人差し指を当てながら応える。
「あぁ、信じるよ。調べてみたがゲームタイトルのリークはされてなかった。開発者以外には知り得ない情報を知っていた。これは充分証拠になる」
少女は淡々と語るといきなり立ち上がり声高々に宣言する。
「という訳で私は君の力になろう! 私が居れば百人力さ!」
腰に手を当て元気よく二人を見下ろした。友人はそれを冷たい眼差しで見ている。
「おい、店の中だぞ。少しは落ち着け」
「おっと失礼」
席座った少女は少年を見据えた。
「それで、具体的に私たちに何を手伝って欲しいんだい?」
「その前に、ちょっと見て欲しいモノがあるんだ」
見据えられた少年はふと、鞄の中から例の紙を取り出しテーブルの上に裏向きで置いた。
「昨日も言ってたけど、この写真に俺の銃殺されてる光景が写っているんだ。昨日はショックが強いと思って見せられなかったけど、もしかしたら何か手がかりが見つかるかもしれない、二人とも見てくれないか?」
少年の言葉を聞いた二人はこの紙に"少年が死んでいる姿"が写っている。
そして思う、それを見て大丈夫なのかと。写真越しとはいえ凄惨たる光景を目にして果たして正気を保っていられるのかと。
最初に動いたのは少女だった。
「見よう。探偵は手がかりになる物を手放さない」
少女はそう言いながら紙を手に取り写っているモノを見た。それを見た瞬間、目を見開きながらテーブルに置いてあるオレンジジュースを一気に飲んだ。
「大丈夫、八代」
「いやぁ、すごいリアルだね……思わず吐きそうになったよ……」
苦笑いを浮かべとても疲れた様子で紙を裏向きにしてテーブルに置いた。
「さぁ、私は見たんだ。キミも覚悟を決めて見てみてはどうかな?」
少女は友人を笑いながら見据える。
「はぁ、わかった」
友人は仕方ないとばかりに紙を手に取ってそれを見た。
「うおっ……」
小さな拒絶の反応を上げながら。紙をまじまじと見だ後テーブルに戻した。
「どんなのが写っているかを知っているとはいえ、実際に見るとキツいなぁ」
油汗を流しながら表向きに置いてある写真を睨んだ。
「それで、この写真を見て何かわかった?」
少年の質問に友人は首を横に振った。
「悪い、俺はわからなかった……」
一方少女は嬉しそうな顔を浮かべる。
「私は一つだけ気づいたことがある」
「え、何に気づいたんだ?」
「ここさ!」
少女が指差したのは紙の右端、そこはピントがぼやけてよく見えない背景のみだ。
「うん? よく見えないぞ」
「目を凝らして、よーく見てくれ!」
その場所を凝視してみると、茶色い小さな手のような形の物が写っていた。
「あ……」
「見えたかい? もしかしたらこれは犯人の手がかりではないかね!」
「でも……」
手がかりを見つけ喜ぶ少女に友人が口を挟んだ。
「流石にこれだけじゃ犯人の特定はできないだろ。ピントがすごいズレてるし」
「ウッ……確かにそうだ」
友人の意見に少女は息を詰まらせた。
「でも手がかりなのは確かだろ。どうにかしてコイツを詳しく調べられないかな?」
少年の提案に少女が指摘する。
「写真を解析するということか? それには専門の技術が必要だぞ」
「専門の技術かぁ……」
専門の知識、残念ながら少年はその技術は持っておらず、知り合いに解析をやれそうな人物に心当たりは無かった。
そうしてどうしようかと悩んでいると友人がおずおずと手を挙げた。
「俺……やれそうな人に心当たりがある」
「本当か!?」
「あぁ……」
写真の解析をやれる人物がいる。普通なら喜んでも良い状況だが友人は浮かない表情をしている。少女が疑問を持ちながら質問をする。
「どうした? その人に何かあるのか?」
「いや……まあ、大丈夫だよ」
質問に答える友人の表情は何処か覚束ない。
「うん? まあそれなら別に問題無いか」
友人の態度に疑問に首を傾げながらも写真の情報を手に入れれる伝手を見つけた。
「その人とは今から会えるの?」
「まあ……あいつとはいつでも会えるし、お願いすればその写真の解析もやってくれると思う。━━━━そろそろ行かないとうるさそうだしなぁ」
「うん?」
友人の言葉の最後の方がよく聞き取れず少年と少女は首を傾げた。
「それじゃあその人の所へ行こうか」
少年のその言葉と共に三人は立ち上がり、会計を終わらせて店を後にする。
「レイ、ごちそうさまな!」
「ここのフルーツ系の飲み物は美味しいねぇ! 気に入ったよ!」
「改めて思ったけど、この店結構するんだな……」
少年は小計九百三四十円と書かれたレシートをポケットに突っ込みながら前を歩いている二人の元へ早足に駆け寄った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます