7月27日
九時五十六分
「ふぁーあ」
大きな欠伸を上げながら目を覚ました。カーテンの隙間から差し込む陽射しが少年の目を一瞬だけ当てた。
「うーん……今何時だ?」
眠たい目を擦りながらスマホを見る。そこに表示された時間を見た瞬間、少年の眠気が一気に吹き飛んだ。
「九時五十六分!? やべぇ、遅刻だ!」
慌ててベッドから身を起こし、準備をしようとした時、少年はハッとした。
「あ、そういえば夏休みだったわ……」
夏休み。そのことを思い出し少年は自嘲する様に笑った。
「はあー、一瞬ヒヤッとしたぁ」
安堵のため息を吐きながらベッドを離れ、寝巻きからTシャツとジーンズに着替えた。
着替え終えた直後、少年のお腹からぐーという音が鳴り響いた。
「……朝飯食べるか」
そうして少年は朝食を食べるためにリビングへ向かった。
――――――――――――――――――――――
十一時三十一分
朝食を食べ終えた後、自室に戻った少年は夏休みの課題を取り組んでいた。机の上には課題、筆記具にスマホとイヤホンのケースが置かれていた。
「〜〜♪」
鼻歌を奏でながら一つ一つ課題を進めて行く。そして社会の問題を解いた直後、少年のスマホに通知音が鳴った。
「ん?」
スマホに目を向けると友人からのメッセージだった。
『俺もようやく引けたぜ! ここから強くさせるぞ!』
メッセージと共に大きな時計を持った銀髪の女性が写っているゲームの画像が送られた。それを見た少年は軽く笑みを浮かべながらスマホを手に持った。
『肇も出したか! そいつ育成前提だけど無茶苦茶強そうだぞ』
『マジか! こいつの素材はどこで取れる?』
『森の柱が効率いいぞ』
ありがとう!と書かれたプラカードを持ったキャラクターのスタンプが表示されるのを確認した少年はスマホを机に置き椅子へもたれかかり欠伸を上げた。
「うーん! とりあえず今日はこれでいいかぁ。昼飯買いにコンビニでも行こっかなぁ」
そうして少年は立ち上がりリビングへ向かった。リビングでは母がソファに座りお茶を飲んでいた。
「あら怜、どこかにいくの?」
「コンビニまで行ってくる。何か買ってこようか?」
「特に無いわよ」
「そっか、それじゃあ行ってきます」
いってらっしゃいという母の言葉を聞きながら家の外に出た。
家を出た少年は蝉の鳴き声と爛々と照りつける太陽の暑さに一瞬だけ目を覆った。
「うわ、やっぱり暑いなぁ」
太陽に照らされとても熱くなってるアスファルトを少年は歩いて行く。三人組の小学生や音楽を聴きながら自転車を漕いでいる青年とすれ違いながらコンビニへ向かって行く。
「はー、着いたぁ」
十分ほど歩きコンビニへ到着する。真夏の暑さに身を焦がした少年は涼しさを求めるようにコンビニへ入って行った。
「いらっしゃいませー」
店員の軽い挨拶を聞き流し向かったのはアイス売り場だった。
「新作はあるかなぁと、あった!」
そうして『牧場の香り、スイカ味』赤色に黒い点々の模様の牛のイラストが描かれたアイスを見つけ手に取った。
その後、ドリンクコーナーでメロンソーダ、弁当コーナーでハンバーグ弁当を手に取りながらレジへ向かった。
「合計で九百六十二円です」
「千円でお願いします」
「三十八円のお返しです。ありがとうございました」
「ありがとうございます」
会計を終えコンビニから出て行った。
「やっぱりコンビニのアイスって高いよなぁ」
そう言いながらアイスの袋を開けそれを食べながら歩き始めた。
この炎天下でアイスを食べる少年はとても幸せそうな顔を浮かべていた。
「うめぇ……やっぱり牧場の香りシリーズは美味いなぁ」
そうしてアイスを食べながら歩いていると少年の前から大きな音が聞こえ始めた。
『この街の子供が健やかに成長できるために、星山みつるに清き一票をお願いします!』
機械音を響かせながら選挙カーが横を通り過ぎた。選挙カーにはスーツを着た恰幅の良い中年男性が窓から手を振っていた。
「うん、やっぱりうるさいな」
そんなことをぼやきながら少年は帰路に着いた。
――――――――――――――――――――――
十八時三十八分
『この量で五百円!?』
夕食の時間になり夜ご飯の完成を少年はソファに座りテレビを見ながら待っていた。テレビからは地元の美味しい料理屋の特集がやっており、タレントが料理の値段を聞いて驚いていた。
「こんな沢山の量は食べ切れるのかなぁ?」
ふと玄関から開く音が聞こえた。
「ただいま」
少年が玄関の方を向くとスーツ姿の男性……出張に行っていた少年の父親がそこに立っていた。
「お帰り。今出張から帰って来たの?」
少年の言葉に父親は軽く笑いながら答えた。
「昨日の深夜には帰ってて、今日も仕事だったんだよ。怜は朝寝てたから会えなかったんだな」
「あ、そうだったのか」
父親と会話しているとキッチンから母親がやってきた。
「あなた、おかえりなさい」
「ただいま。それじゃあ三人でメシを食べようか」
「そうね」
母親がテーブルの上に白いご飯と味噌汁、ボウルに入ったサラダ、そして大量の餃子が盛り付けられた大皿を置いた後、三人で椅子に座る。
「いただきます」
そうして家族三人で夕食を食べ始めた。
「そういえば怜は今夏休みか」
少年がご飯を食べている時、父親がふと呟いた。
「うん? そうだよ」
「高校の夏休みは過ぎるのが早いからな、ちゃんと遊んどけよ」
「おう、沢山遊んでやるぜ」
元気に返事をすると母親が呆れたような声を上げる。
「遊ぶのもいいけど課題もちゃんとやりなさいね」
「今日はちゃんとやったよ!」
こうして時田家の夕食の時間は過ぎて行った。
――――――――――――――――――――
二十三時四十一分
夕食を食べ終え、お風呂も済ませた少年は現在、ベッドに寝転がりながらスマホでゲームをやっていた。
「ふぁーあ」
口を大きく開きながら欠伸を上げた。眠気の強い目からは少量の涙が浮かんでいた。
「もう寝るかぁ」
そうしてゲームのホーム画面に移動する。ホーム画面には大きな時計を持った銀髪女性のキャラクターが映っていた。
『夜という時間はとても不思議だね。星が煌びやかで、とても静かなんだ。その景色を見て、マスターは何を考えるんだい?』
キャラクターのセリフを聞いた後、少年はゲームを終了しスマホの電源を切った。
その後消灯しベッドの中へ入り瞼を閉じた。
(夜の景色かぁ……)
そんなことを考えながら少年はゆっくりと眠りに着いた。
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