第99話 森の賢人?ミーア
自分が宛てがわれている竜車はアスカティア調査隊の中で一番グレードの高い物ではあるのだが、複数人が同時に乗ると少々手狭になるほどには狭い。
そんな中で、絶世の美女とも言えるべき女性とお互いの肩が接触する程に密着していれば、異男として緊張してしまうのは仕方のない事だった。
「み、ミーアさん・・・・・・随分と印象が変わられましたね」
「そうでしょうか?」
向かい側に席があるのに、態々自分と隣り合わせに座るミーアさんに対して、居ても立っても居られなず話しかけた。
下手に沈黙していると、要らぬ考えが浮かび出てきそうなので強引に会話を切り出す。
(・・・・・・とても良い匂い)
互いの肩が接触する程、密着して座るミーアさんからは何処かミルクのような優しさのある甘い匂いが漂ってくる。そのままボーっと肩に自分の頭を乗せて目を閉じたい・・・・・・そんな誘惑が頭の中に過るほど、とても良い匂いだ。
「うーん、本来の目的を思い出したと言うべきか、元々がこちらだったと言うべきでしょうか?」
自分の問いに対して、ミーアさんはとても曖昧に答える。
その答える仕草すら、何処か色香を感じるあざとさっぽさを感じる。
それまで清廉潔白の森の賢者、もう片方の隣で眠っている獣人の少女リリィの保護者というイメージから、異性を手玉に取る魔性の女性。
例えが悪いかもしれないけど、熟練の娼婦のような妖しさを感じた。
今のミーアさんは以前感じた雰囲気とは正反対の性質なので、驚くのも無理はないと思う・・・・・・ただ、自分よりも長い間を一緒に過ごしたリリィは特に気にした様子が無いことから、本来のミーアさんはこちらなのだろうか?
多重人格?とも思ったけど、元々が、と言っている当たり自覚はあるんだと思う。
「ソラ君は嫌い?」
「嫌いじゃないですけど・・・・・・」
嫌いではないが、異性にピッタリと密着されて意識してしまうのは当然だ。
それも相手が好意のような気持ちをぶつけてくれば余計に意識してしまうと思う。
今のミーアさんは、下手すれば勘違いする人間が出てきそうなほど、ペタペタと密着してくる、それに対して不快感は無いけど、元々知っていたミーアさんのギャップでどうしても戸惑いが生まれてしまう。
なので嫌いじゃない・・・・・・という曖昧な答えをしてしまい、本来聞きたかった質問がはぐらかされてしまった。
「・・・・・・まぁ、本当はあの基地に居座る犬っころの索敵範囲に入る前にマーキングでも付けておこうって思ったんだけどね」
「なんか言いましたか?」
「ううん、何でも無い!!」
ミーアさんは自分の腕を、自身が備えている大きな2つの果実で挟み込むように抱きつきながら、ボソリと聞こえない程度で何かを呟いていた。
「・・・・・・すみません、少々よろしいでしょうか?」
ミーアさんからの熱烈な歓迎を受けている中、自分以上に驚いていたのが竜車の外で待っていたリアナさんだ。
それまで考えが纏まらなかったのか、それとも口出しが出来なかったのかは分からないが、頃合いを見てリアナさんはドアを開けて自分とミーアさんに話しかけてきた。
・・・・・・一方、リリィは自分の太腿を枕にして眠っている。
「どうしたの、リアナ?」
「い、いえ・・・・・・龍姫様がこの様な場所に来られることを我々は把握していませんでしたので」
龍姫・・・・・・つまり、ミーアさんは連邦でも現人神のような扱いを受ける人物であり、その行動一つを起こすだけで多くの人が影響を受ける。そのレベルの人物だ。
「それは誰にも言ってないもの、やるべきことがあったから連邦から飛んで来たわ」
「やるべき事、ですか?」
自分に対してフレンドリーに接してくれるリアナさんは、ミーアさんに対して粛々とした態度で話を聞いていく。
「そう、やるべき事・・・・・・これは私にとって最重要の案件なの」
「それは・・・・・・連邦の上層部に言って頂ければよろしいのではないでしょうか?態々、龍姫様が帝国に足を運ばれなくても」
リアナさんが言うのは至極真っ当な事だと思った。
龍姫様と呼ばれるぐらいなので、ミーアさんは連邦にとって重要人物なのは間違いない。
それこそ、多少のワガママすら聞いてもらえると思うし、実際に、リアナさんも態々自ら出向かなくても、連邦の上層部に言ってくれれば代わりにその最重要な案件を代わりにやってくれると言っていた。
それでもミーアさんは、違うの、と短く言って小さく首を横に振る。
「これは貴方達じゃ出来ない、人が手伝うとか言う次元じゃないの」
「人が手伝う?」
何を言っているんだ?とミーアさんの話を聞いて素直に思った。
その言葉の意味をそのまま受け取るなら、まるでミーアさんは人じゃないみたいな言い方だ。
「・・・・・・取り敢えず、私はこのままアスカティア調査隊に同行します。手続きに関しては私の方からやっておくので気にしないでください」
気にしないで下さい、そう言われてもリアナさんたちは気にするだろう。
ただこの場において自分に発言権は無く、ただ静観するしか無かった。
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