第98話 銀の瞳をした女性
神の地に関する情報を渡したことで、アスカティア調査隊の人達の対応が変わる・・・・・・と言ったことはなく、ただ日常的にギルロさんやウィミンさんが傍について色々手伝ってくれる。
この色々、というのは本当にただのお手伝いで、来客があった際、古代魔法言語が分からない人向けの通訳だったり、手紙のやり取りの代筆だったりと様々だ。
調査隊という性質上、隊員一人一人が自分のことは自分でするんだけど、洗濯物や食事の用意もウィミンさんなんかにやってもらっている。
これらはヴィリンバーグの都市へ入る前からやっていることは同じなんだけど、やる相手が一般隊員ではなく、幹部であるはずのギルロさんやウィミンさんに変わったという話。
その理由はやはりこの前、お礼として渡した神の地にある始まりの森に生息する魔物達の詳細が書かれた資料を渡したからなんだろうけど、特に気にした様子はない。
「ソラさん、明日には補給も終わりますので都市を出ますが、どなたかに手紙を出されますか?」
「一応公爵様とレイラ姫様に手紙を出そうと思っています・・・・・・代筆いいでしょうか?」
随分と打ち解けた感じのするギルロさんに代筆を頼むと、分かりました。では、用意しますね・・・・・・と、快く引き受けてもらい、頭の中で漠然と考えていた手紙の内容を纏める。
この前のアーマレア公爵が主催した食事会以降、アスカティア調査隊は補給の調達がスムーズに進んでいて、無事明日には出発出来るところまで準備が終わったそうだ。
なのでギルロさんは別れの挨拶・・・・・・という訳では無いだろうけど、これまでやり取りをしてきた相手に手紙を出す人は居ないかと聞いてきたという訳。
自分がこの手紙を出せば、ヴィリンバーグでやるべきことは全て無くなり、前線基地へ向かうことになる。
「やっぱり、前線基地へ向かう前にカレラには立ち寄るんですか?」
「そうですね、やはり神の地へ入る前に色々と手続きをしなければならないので、一週間程度は・・・・・・」
慣れた手付きで代筆をする用意をしているギルロさんに、ヴィリンバーグを出発した後のスケジュールを聞いてみた。
ギルロさんから聞けばやはり、前線基地へ向かう前にカレラへ向かう事は必須になるようで、そこで色々手続きを終えてやっと神の地へ入る事が可能になるらしい。
その際には手続きの関係から一週間程度、カレラで宿泊することになるそうだ。
「ソラ様、またカレラでお会い出来ることを楽しみにしております」
「その際はこちらこそよろしくお願いします」
次の日にはギルロさんが言った通りに、アスカティア調査隊は補給を完了し、ヴィリンバーグの北にあるカレラに向けて出発することになった。
ヴィリンバーグの特徴である白亜の外壁周辺には、調査隊の竜車が縦に並び、多くの人達が集まっている。
「姫様、そろそろ・・・・・・」
「そうですか・・・・・・大変名残惜しいのですが、別れの挨拶もこれぐらいにしておきましょう」
巨大な四足歩行の竜、バルファの足元では城内で会った時よりも少し動きやすい格好をしたレイラ姫が不在のアーマレア公爵の代理として別れの挨拶を行った。
それに対して調査隊の責任者であるヘラクさんが返しの挨拶をして、アスカティア調査隊は無事、ヴィリンバーグの都市を出て、サンレーア王国の北部に存在する大都市・カレラへ向かうことになる。
「ソラ殿、この調査隊は余裕を持って補給を済ませておりますので、カレラまでは他都市へ立ち寄ることはございませんが大丈夫ですか?」
「はい、また長い旅になりますがよろしくお願いします」
ヘラクさんから最後の確認を聞かれ、大丈夫としっかり答える。
自分の後ろには来る前まで色々とお手伝いをして貰っていたレイラさんが待機しており、最後尾に停まっているバルファまで案内をしてくれる。
「足元にお気をつけ下さい」
「ありがとうございます」
乗り慣れているリアナさんに手を引かれる形で、バルファの背中の上にある車両の部分に乗る。
ガチャリと、先んじて乗っていたレイラさんがバルファの竜車の扉を開いて案内をしてくれる。
自分は空いた方の手を使って竜車へ乗り込もうとした瞬間――――――――誰も居ないはずの竜車の中から白い細腕がぬるっと出てきて、自分の手首をがっしりと掴んだ。
「だっ!?―――――――――――」
安心しきっていた所で、いきなりホラー映画の様な出来事に戸惑っていると、掴んできた白い手は、そのまま恐ろしい力で竜車の中へ引っ張ってくる。
「ソラ様!?」
この状況に驚いているのは自分だけでなく、先にドアを開けたリアナさん自身も驚いている状況だった。
では中にいるのは誰?という話だ。
ポフン
「わぷっ!?」
自分はそのまま白い手に車内へ引き込まれると、そのまま凄く柔らかい物体に顔をぶつけた。
最初は竜車に設置されているソファーかとも思ったが、その感触はまるで水餅のようにぷるんと弾力があるもので、これまで体験したことのない感触だ。
それに加えて香りも良く、真っ暗で何も見えないが顔を埋めている部分からは花のような品の良い匂いがした。
「いきなり女性の胸へ飛びつくとは、男の子だね、ソラくん」
「へっ?」
いきなりの出来事で考えが纏まらない中、自分の耳元で囁くように女性の声が聞こえてきた。
そして自分の名前を喋る相手・・・・・・となれば、誰だと思い、埋もれていた顔を起こしてみれば、そこに映っていたのは綺麗な銀色の瞳が特徴的な、非常に顔立ちが整った美女が一人。
「ミーアさん、なんでここに・・・・・・?」
以前、アオの大樹海でお世話になった森の賢者であるミーアさんだった。
自分の記憶が正しければ、ミーアさんとは連邦の第三基地で別れたハズなのだか、何故か彼女は竜車の中には居る。
その理由は不明だ。
久しぶりの再会ではあるのだが、ただ・・・・・・今、目の前でニッコリと微笑んでいる彼女は、自分が知っているミーアさんと声は一緒ではあるものの・・・・・・その喋り方や接し方が似ても似つかない、何処か妖しい雰囲気を纏っていた。
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