第97話 旅のお礼
「流石、アーマレア公爵様ですね・・・・・・今回は一本取られました」
「これは申し訳ない事をしました。幾分、話が盛り上がってしまいましてね」
レイラ姫がカレラへ留学する・・・・・・という話を聞いた所で、公爵との面会は終了し、そのまま公爵とレイラ姫に連れられる形でホールへ戻った。
食事会が開かれていたメインホールにはまだ疎らに人々が居るものの、大半の招待客は既に帰宅したようで随分と人が少ない。
既に会場はアーマレア公爵の給仕や兵士達が片付けを行っている中で、ホールの片隅に集まっていたヘラクさんが自分と公爵を見つけて近寄ってきた。
両者とも、ニコニコと笑みを絶やさず丁寧な物腰で会話をしているものの、そこには多くの意味が込められているのを感じ取った自分は、何故か浮気をした男の様な気分になり、少し居心地が悪い。
「大丈夫ですよ?ソラ様は悪くありませんので」
ヘラクさんと公爵のやり取りを聞いて、そんな気まずい気分になっていると、丁度横に立っていたレイラ姫が顔を覗くように慰めてくれる。
この少しの間で、随分と親しい雰囲気になったなぁと思いつつも、自分としてはまだ距離感を測りかねていた・・・・・・その時だった。
「すみませんレイラ姫、ソラ殿も長い旅路で疲れておりますので・・・・・・」
「そうでしたか・・・・・・それは申し訳ない事を致しました」
随分と距離が近いレイラ姫に困惑していた中で、助けに入るようにギルロさんが話に割り込んで来る。
それはまるでこれ以上は自分と会話をしないように・・・・・・ときっぱりと断りを入れる強い口調ではあったが、レイラ姫はそのまますんなりと離れて距離を取った。
「ヘラク殿、もしよければ今後の予定について擦り合わせをしたいのですが、お時間はありますかな?」
「えぇ、流石に今日この後・・・・・・とは行きませんが、出来るだけ早い内に」
ギルロさんとレイラ姫がちょっとした応酬を行っている間、ヘラクさんと公爵はこの場で一気に話し合いを済ませる気なのか、立ったままで今後の予定について話し合う。
「出立の予定日は?」
「出来れば一週間以内に済ませたいと・・・・・・それ以上の遅れは上層部も気にしますので」
ヘラクさんの言葉に公爵はなるほど、と小さく答え、軽く挨拶を済ませるとレイラ姫を連れてその場を立ち去った。
「・・・・・・流石、帝国貴族界を生き抜く大貴族か、太刀打ち出来ないな」
公爵の後ろ姿を見ながら、ヘラクさんはボソリとそう呟いた。
自分が公爵とレイラ姫と面会していたのは、既にヘラクさんやギルロさんも知っていたので、特にお咎めは無かった。
ただ多忙なヘラクさんに変わって、アスカティア調査隊でも斥候班のリーダーをやっているギルロさんと、その副リーダーであるウィミンさんがずっと側に付いている。
「・・・・・・」
カラカラと馬車の車輪が地面を蹴る音を聞きながら、無言の車内で自分は寝静まったヴィリンバーグの街並みを見ていた。
城へ向かう時と違い、大通りには人はおらず。ただ近くで護衛をしている兵士が居るだけだ。
前世と違い、街灯も無いので一列に並ぶ隊列の外は闇だ。上を見上げれば綺麗な星空が浮かんでいるものの、ギルロさんもウィミンさんも寡黙な獣人の方なので喋りづらい。
「・・・・・・ギルロさんとウィミンさんは、神の地をどう思っていますか?」
それでも目的地である宿へ到着するまで数十分もあるので、時bンは意を決して二人に話題を振ることにした。
無断で公爵とレイラ姫と面会していた埋め合わせ・・・・・・というには中々下衆な考えではあるけど、まだ神の地を知らない二人にある程度の情報提供をしようと思った。
「・・・・・・かなり危険な場所だと、上からは聞いております」
「私も同様です。かの一件は本国にも伝わっていますので」
兎の獣人らしい、黒いウサギ耳をピクリと動かせてそのままジッと待機していたギルロさんは口を開く。
同じように白いウサギの獣人であるウィミンさんもギルロさんの言葉に追従するように答えた。
かの一件、というのはまず間違いなく黒翅蝗の一件の事だろう。
緑の陣営であるフォーラン連邦は比較的被害は少なかったものの、空を埋め尽くす黒の大群の光景は危機感を抱かせるのに充分な出来事だったようだ。
「では何故、そんな危険な場所の調査を?」
「危険を冒してでも、余りある利益があるからです」
利益、と言われて先に思い浮かぶのは、上位の薬草が栽培出来たり、古代遺跡で見つかった聖遺物だったりだろうか?
多大な犠牲を払ってまで、それらを手に入れる必要はあるのか?と思ってしまうけど、二人の表情を見ても被害が出るのは当然、、という感じだった。
(・・・・・・なら渡しても構わないかな?)
アオの大樹海から神の地への長い旅、勿論、ヘラクさん達の方にも様々な思惑があるんだろうけど、直接的なお礼が出来ていないと考えていた。
「・・・・・・こちらは?」
後ろから物を探すように手をごそごそしながら、〈空想図書館〉から一冊の本を取り出して、疑問符を浮かべているギルロさんに差し出した。
「これは神の地にある始まりの森と呼ばれている場所に生息する魔物達の情報が書かれた本です。流石に差し上げることは出来ませんが、前線基地へ到着するまでの間、お貸しします」
ギルロさんは自分から渡された本の内容を聞いて、驚きの余りポロッと馬車の床に落としてしまった。
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