第96話 大都市カレラ
「こうやって楽しいお話をしていると、時間が経つのも早いですね・・・・・・宿の方はどちらに?」
「都市の外れにある宿に泊まっております」
アルメヒ前線基地やそれに纏わる話で少し話が盛り下がった中、レイラ姫は話題を切り替えるように神の地・・・・・・北サンレーア地方に纏わる伝説を語ってくれる。
その話し方に難しい単語は出てこなく、初見であってもすんなりと頭に入り込む様な話し方で、レイラ姫の美声といい、吟遊詩人といった本職よりも喋るという部分では適性がありそうだ。
思わず聞き入ってしまっていたものの、部屋に置いてある時計がポーン、と優しい音色で時を教えてくれると、それまで語り手として徹してくれていたレイラ姫は時間がというと音が鳴った時計を見る。
「予定ではそろそろ食事会の方も終わるでしょう・・・・・・どうですか?今日は城の方で泊まっていく、というのは」
「有り難い提案なのですが・・・・・・」
レイラ姫が語るお話は、物語も佳境に入り、そろそろクライマックスというかなり良い場面であったんだけど、タイミング悪く時間になってしまったようだ。
なのでレイラ姫の隣で同じように話を聞いていた公爵は、今晩は城へ泊まって行ってはどうか?と提案をしてくれる。そうすれば中途半端に終ってしまった物語も聞けるだろうし、レイラ姫もまだまだ話足りないので・・・・・・ということだった。
公爵とレイラ姫の提案はすごく有り難いものの、ここは丁重に断らさせて貰うことにした。自分がきっぱりと断った瞬間、レイラ姫は眉をハの字に下げてすごく残念そうな表情をしていたのが心苦しいものの、現在、自分は既にアスカティア調査隊の世話に鳴っていることもあったのでここは譲れない。
「いえ、ソラ殿が気を揉まれる必要はありません、幸いにもヴィリンバーグは前線基地から比較的近く、会えない距離ではありませんので」
「つまり・・・・・・公爵様の方でもまた人員を派遣されたりするのでしょうか?」
断ったことに対して少し申し訳無さを感じていると、公爵は気にすることはないと言ってくれる。
ただその後の言葉だと、まだこれから会う機会はあるといった意味深な言い方をしていた。
「えぇ、私のもう一人の娘、レイラを前線基地の衛星都市である〈カレラ〉へ留学させようと思っております」
「カレラ、ですか?」
聞いたこともない都市の名前に疑問符を浮かべていると、公爵はそのまま衛星都市カレラについて説明をしてくれる。
「カレラはサンレーア王国北部の大都市になります。元々は自治都市のようでしたが、現在ではアルメヒ前線基地の第二拠点としての役割を担っており、帝国も幾つかの区画を貸して頂いております」
サンレーア王国の北部にあるカレラという都市は、周辺では珍しい自治権を持つ都市だそうだ。
なので都市には多くの勢力が存在し、都市で幅を効かせている有力な商人が議員となってカレラという都市を運営しているそうだ。
現在では神の地調査におけるアルメヒ前線基地に次ぐ第二の拠点として機能しているそうで、前線基地に送られる物資の管理や各国の関係者が集まり、様々な調整を行っていると言う。
言ってしまえば、アルメヒ前線基地は冒険者や軍人が集まり、カレラは各国の外交官が集まっているみたいだ。
「危険は無いのでしょうか?」
「絶対に安全とはいい切れませんが、カレラが神の地から襲撃されるということは、即ち、世界の滅亡を意味するでしょう」
神の地と人々が住む大地を隔てる大渓谷、そこは今まで互いの領域を侵さない線となっていた。
今でこそ、人類は神の地へ進出して調査を行っているが、逆に神の地に住む魔物たちは審判の日以降、人類圏へ進出するといったそれらしき兆候は無い。
・・・・・・ただこの前の黒翅蝗の一件がどうやって解釈されるのかが分かれ目であるらしく、公爵のようにカレラまで神の地の魔物が侵攻してくれば、それは審判の日の再来で人類は滅びる・・・・・・と考えている人もいれば、カレラの都市も危険な場所だ・・・・・・と考えている人もいるそうだ。
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