第95話 混乱の最中
「してやられましたな」
「あぁ・・・・・・帝国の貴族達も中々に強かなようだ」
艷やかな短い毛並みをした黒兎の様な獣人の男、アスカティア調査隊の第二班のリーダーであるギルロは隊長であるヘラクに対して短くそう言った。
今回、神の地へ向かうアスカティア調査隊を労うという名目で開催されたアーマレア公爵が主催する食事会はヘラクにとって違和感しか無い催しだった。
「流石に臭いが混ざりすぎていてソラ殿の所在が分からぬ」
「混乱に乗じて連れ去られたか・・・・・・首謀者はまず間違いなくあの公爵だろう」
帝国貴族、というにはガタイが良く、纏っている空気からして只者ではない・・・・・・と、ヘラクは最初見た時に思っていたが、今回の食事会や先の混乱に乗じてソラ殿を連れ去ったことといい、貴族としての手腕もしっかりあるようだ。
ヘラクやギルロのように獣人特有の優れた五感を持ってしても、今回の裏の主役であるソラの所在は分からず。音を頼りに探そうにもホールで行われている演奏によってかき消されてしまっている。
食事会が行われているホールは、先程のレイラ姫の登場を皮切りに、公爵夫人であるコルセア夫人が登場したことに寄って最高潮の盛り上がりを迎えていた。
既に出来上がっている派閥の社交場以外から滅多に顔を出さない夫人とうこともあり、夫人に謁見しようと人の波が生まれ、それによって発生した混乱で護衛対象であるソラを見失ったことに対して、ヘラクは内心焦っていた。
確かに、ヘラク自身、滅多に公へと顔を出さない人物が現れて意識が割かれたのは失態であるものの、一分にも満たない間に護衛対象を見失うことに対して己の情けなさと、この状況を生み出した公爵に対して警戒心を高めていた。
「ホール外は?」
「・・・・・・無理だ。ホールの出入り口周辺は多くの兵士が固めている。警備の関係から出して貰えないだろう」
場もある程度落ち着き、護衛対象であるソラを探そうとしたが、外へ繋がるホールの出入り口は既に公爵家の兵士達が守っており、外部の人間であるヘラクやギルロ達を好き勝手に移動させてくれるとは思えない。
ヘラクの周りには今回の食事会へ参加した調査隊の班長達が既に集まっているが、全員、してやられたという表情をしている。
「お前達もか?」
「はい、私はプレツェ男爵から話しかけられ、ユーミはヴィリンバーグの商人からほぼ同時に話しかけられたようでした」
ギルロ以外のアスカティア調査隊の班長を務める第六班のリーダーのアルキと第五班リーダーのユーミは同タイミングで異なる人物から話しかけられたという。
それを聞き、ヘラクはふむと頷いて考える。
「ソラ殿が居なくなったのは公爵による計画の可能性が高い、外部との連絡は?」
「一応、私の部下が外で開かれている食事会に居ますが、単独で城を調査するのは・・・・・・」
ヘラクの問いに対して、アルキが手を挙げるがその表情に自信は無い。
「パロウでも無理だろうな、食事会によって警備はより一層厳しいのに加え、この規模の城を単独で探すのは不可能だな」
「第一、バレた時のリスクが高すぎる。敵地のど真ん中みたいなものだそ?」
そう言ってヘラクは周囲を見渡す。ホールには華やかな服装をした帝国の人間が多く集うが、その周囲には厳重にアーマレア公爵家の兵士たちが守っている。
やはりというか、ソラが居なくなってから明らかにホール周辺を出入りする兵士の数が多くなっており、ヘラクは間違いなくこれら一件は公爵による計画だろうと考えた。
「・・・・・・仕方あるまい、今、抗議を行ってもデメリットがあるのは我らだけだ。ここは大人しく公爵の計画に乗っかるしかあるまい」
連邦の重要人物が好き勝手されるのは、ヘラクにとっても甚だしく思うが、ここは相手の本拠地でありアスカティア調査隊の人員だけで対抗するのは流石に無謀過ぎた。
ヘラクは情報を整理して、公爵の思惑に乗っかると宣言しつつも、外で食事会を行っている隊員達に連絡を取り、いち早くソラを奪還するべく、調査を始めたのであった。
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