第94話 ヴィリンバーグ会談②
自分、レイア姫、アーマレア公爵の共通の話題となれば、やはり大陸北部に存在する北サンレーア地方、つまり神の地に関する話だ。
帝国貴族の一員であるアーマレア公爵家も、アルメヒ前線基地及び調査隊への支援を行っており、フロウゼルさん以外にもアーマレア家の関係者が複数人存在するらしい。
「丁度、半月前に出発したばかりでしてね・・・・・・アスカティア調査隊のような大規模ではありませんが、帝国でも優秀な若者達をアルメヒ前線基地へ送ったのです」
「でも大丈夫でしょうか?神の地は危険ですし・・・・・・」
思い出すのは、あの古代遺跡の一件だ。空を埋め尽くさんばかりの巨大な黒い蝗達は、あっという間に森を覆い前線基地までやって来た。
その場にシロが居たから良かったものの、万が一シロがあの場に居なかったらどうなっていたか・・・・・・想像するだけでも恐ろしかった。
それ以前に、黒の陣営は始まりの森を調査した際に甚大な被害を受けているからこそ、もっと慎重になるものだと思っていた。
「それは充分承知しております。しかし、聖王国を初めとした各国が我が帝国以上に人員を送っていることを考えれば、帝国も遅れを取るわけには行かないのです・・・・・・実際、連邦のアスカティア調査隊が結成するという情報がありましたので、帝国も追加派遣することを決定したという背景があります」
その情報は何処から?とは決して聞かないけど、アーマレア家及び、帝国では自分が世話になっているアスカティア調査隊が神の地へ派遣されるという情報を入手して追加派遣を決定したんだという。
今、そのアスカティア調査隊がヴィリンバーグの都市に居ることを考えてみれば、その判断はかなり早い。
「実際には既に人員は決められており、世論の後押しもあって前線基地への追加派遣は時間の問題だったのです」
「世論、ですか?」
帝国世論が後押しをした・・・・・・ということは、エマネス帝国の人々は神の地調査に対して前向きな姿勢だということだ。
その費用は莫大な物になるだろう、アルメヒ前線基地は連邦の第三調査基地よりも何倍もの規模が大きい巨大な基地だ。
下手すればアルメヒ前線基地はヴィリンバーグの都市よりも巨大で、今や三重の外壁が建設され、中央には万色の塔と呼ばれる6つの巨大な塔が建設されている。
そしてエマネス帝国は主要五大国とも呼ばれ、黒の陣営の盟主であることからその負担金は計り知れない物になるはずだ・・・・・・少なくとも国家事業クラスのお金が動いているのは間違いだろう。
・・・・・・そして、この莫大な費用を投じて行われる神の地調査が、必ずしも帝国の人々に還元されるかといえば、かなり怪しい部分がある。
「・・・・・・まぁ、国民としては先の大戦で多額の戦費に使われるよりはマシなのでしょう。元々、神の地を舞台とした逸話も多いですからね」
戦争なんかに使われるぐらいなら、昔から御伽噺の舞台として多く登場する神の地が存在する北サンレーア地方を調査してくれる方がまだマシ、ということらしい。
それ以外にも、ただ単純にこれら逸話は様々な場所で広まっているそうで、その憧れは差はあれど多くの人が持っているという。
そしてアルメヒ前線基地は内情はどうであれ、長い歴史の中で初となる国際的な組織であり、世界平和の象徴としても見られているという。
ただ少なからず内情を知っている自分を始め、公爵もレイラ姫も少し複雑そうな表情を浮かべた。
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