第93話 ヴィリンバーグ会談①

 色んな人達から見られつつ急きょとして始まった会談は、レイラ姫の質問から始まった。


「はい!私もフロウゼル姉さまと同じ様に、風の魔法を得意としているんです」

「そうなのですか?」

「えぇ、フロウゼル姉様であれば風と火の魔法、私は風と雷の魔法が得意です・・・・・・アーマレア家は代々風魔法を得意としてきた家系ですので、ですよね?お父様?」

「あぁ、そうだな・・・・・・」


 部屋の周囲には兵士の人や、給仕係の人達が多くいるものの、この場で喋っているのは自分とレイラ姫、アーマレア公爵の三人だけだ。


 それ以外の人はただこの場を見守るだけで一言も言葉を発さない、その中で会話を上手く回しているのは三人の中で唯一の女性であるレイラ姫だった。


(・・・・・・凄い話術だ。よくここまで会話を回せるなぁ)


 場の空気に飲まれている自分と、元々あまり喋らない気質なのか最低限な言葉しか喋らない公爵が居る中で、レイラ姫はそれとなく喋りやすい話題を選びながら適度に聞いてきたり、自発的に喋れるように立ち回っている。


 これらは他人との意思疎通を図る能力・・・・・・すなわちコミュニケーション能力が高くなければ出来ない芸当だ。それに加えて豊富な語彙力はレイラ姫の知識量の豊富さを証明している。


 一方でアーマレア公爵は自ら話すのではなくて、隣に居るレイラ姫にこの場を任せているようだった。

 最初こそ、寡黙な性格の人かとも思ったけど、大ホールの挨拶からして多分それはないと思う・・・・・・観察してみるに、多分戸惑っているのかな?


(・・・・・・幾らフロウゼルさんの関係で知り合いとはいっても、今は連邦にお世話になっているからなぁ、この場だってバレたら問題が起きるかもしれないし)


 昔も今も、自分は何処かの勢力に対して明確に所属していた訳ではないけど、協力者という立場で前線基地では黒の陣営派閥、今は緑の陣営派閥に属している。


 エマネス帝国とフォーラン連邦同士は決して仲が悪い訳じゃないけど、エマネス帝国とサラン公国のように同じ派閥に属しているわけじゃない。


 寧ろ、お互い各陣営の盟主国ともなれば関係はもっと複雑なのかもしれない、そんななかで帝国でも影響力を持つアーマレア公爵が置いそれた他国派閥に属する人間に対して安易な考えで喋ることは出来ないと思う。


 ただそれは自分の勝手な予想なんだけど。


 だからこそ、この場において趣味や魔法の話をしてくれるレイラ姫の存在は凄く有り難かった。レイラ姫も貴族の女性なので、今の状況を分かっているだろうけど、だからこそあえて話しやすい話題を出している節がある。


 ただ部屋の隅で待機している人達の雰囲気が何処かおかしい、緊張というよりも戸惑い?その視線は多分だけど自分とレイラ姫に向けられていると思う。


 何故戸惑っているのかは分からないけど、この場ですぐ分かるものでもないので、自分は気にすることをやめてレイラ姫との会話を続ける。






「時にソラ殿、アルメヒの基地で働く私の娘・・・・・・フロウゼルはどうでしたか?」


 レイラ姫との会話が一区切りついた段階で、それまで最低限の受け答えしかしてこなかったアーマレア公爵が話を切り出した。


「フロウゼルさんですか?凄くいい人ですよ、前線基地では何度も助けてもらっています」


 まだ家の改装が終わっていないので、前線基地の方の家にはあまり来られていないんだけど、自分が不在の中でも色々と清掃とかしてもらえているようだった。


 今では顔パスで前線基地へ入れるようになったし、衣服や家具類も色々と揃えてもらっていたりする。


 巨樹の森の方の家はまだ掘っ立て小屋なので持ち運べていないけど、新居ができたら前線基地から色々と家具を持ち運びたいと思っている。


「そうですか、あのやんちゃ娘が・・・・・・」

「やんちゃ娘・・・・・・フロウゼルさんがですか?」

「えぇ、貴族の娘が冒険者の真似事、しかも軍部に入る事は珍しいですから」


 フロウゼルさんが冒険者として名を馳せているのは以前も聞いたことがある。それに加えて帝国でも数少ない戦術級魔法使いだということも。


 自分も最初は貴族の女性が軍に所属したり冒険者をやっている事に対して疑問を浮かべていたんだけど、この世界の常識なんて全然知らないからこれが普通なんだと思っていた。


 シロが大事にしている〈疾風之弓〉の持ち主だったオフェリアさんも確か下級貴族家の出身だったと思う、だからこそ貴族の女性が冒険者をやっていたりするのはそう珍しいことじゃないと思っていたけど、アーマレア公爵の話からすれば、フロウゼルさんもオフェリアさんも稀な存在らしい。


「貴族の娘が軍部に所属することはありますが、冒険者になるのはほぼありません、それこそ英雄爵と呼ばれたアレス殿のように元は冒険者から貴族入りしたような人間で無ければ、ほぼありえないでしょう」

「英雄爵・・・・・・」

「アレス殿は爵位こそ子爵位でしたが、その力は絶大な物でした。彼の場合は冒険者から軍部へ入り、そこで得た功績を持って自ら貴族として家を起こす程に大きく迎え入れられましたが、これも稀な事情です」


 アレスさん程ではないにしろ、多大な功績によって騎士家や貴族家に婿入り、もしくは嫁入りする人はそれなりに居るらしい。


 いわゆる成り上がった人達は貴族でありながら、軍部に所属していたり冒険者としての実績を持ち合わせていたりするそうだ。


「だからこそ、フロウゼルはやんちゃ娘なのです。何を考えたのか、神の地に赴任するというのは、親からすれば常日頃からハラハラしております」


 ふぅ、とアーマレア公爵が軽く息を吐いて、自分の娘であるフロウゼルさんについて語ってくれる。その姿は正しく娘を心配する親であった。




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