第91話 意図的に作られた状況?

 アーマレア公爵が開催した食事会は、和やかなムードで行われた。


 主役である公爵やレイラ姫こそ不在なものの、大ホールにはヴィリンバーグやその周辺で力を持つ人達が集まっているということもあり、公爵が居ない中でもそれぞれの思惑に沿って食事会は行われていく。


 一方のアスカティア調査隊はというと・・・・・・以外にも話しかけてくるところは結構多い。


 それもそのはず。アスカティア調査隊はヴィリンバーグを出発した後は神の地へ向けて北上する訳なんだけど、その際にはまだ幾つかの帝国領内の都市を経由することになる。


 今回、アスカティア調査隊の人達に話しかけてきたのは、その経由地となる都市で商いをしている人だったりと、今後何かしらの関係が出来るであろう人達が多かった。


 だがしかし、その会話の中に自分は居ない。


(まぁ話しかけられても困るんだけどさ・・・・・・)


 先ほどと同様に、自分の隣には基本的にヘラクさんが居て、ヘラクさんが側を離れる際には第二班のリーダーであるギルロさんがやって来る。


 だけども、食事会が終盤に差し掛かるとアスカティア調査隊の人達に話しかけてくる人も多くなって、次第には自分ひとり会場の隅っこでポツンと取り残されることも多くなった。


 それはそれで気楽な部分はあるんだけど、この場においておいそれと読書をすることも出来ないので、この時間が結構暇だったりする。


(早く終わらないかなぁ・・・・・・)


 当初の予想と外れたものの、アスカティア調査隊の人達とちゃんと話すことも出来たので、個人的には満足・・・・・・とはいえないけど、目的は充分に果たしたと言えるので内心はそろそろ帰りたいなと思って聞いた頃。


 それまでも充分騒がしかった会場が一際その声が大きくなった。


 どうしたんだろう?そう思いながら、騒ぎの中心を見てみると、大ホールの複数ある出入り口の一角にその注目が寄っているようだった。


『あれはアーマレア公爵のコルシア夫人じゃないか?』

『珍しい、夫人自らこの場に現れるとは』


 ざわざわと、騒ぎが大きくなっていく中、自分の周りに居た人達も視線はそのコルセア夫人とやら女性に向いていく。


(・・・・・・離席しても大丈夫かな?)


 先程まで側に居たヘラクさんもギルロさん、調査隊の他の人達も皆、会場へやって来たコルセア夫人に注目している様子だった。


 だったら少し、外の空気でも吸えるかな?と思い、忍び足で大ホールを出た先だった。


「これはこれはソラ殿、どうされましたかな?」

「あっ、公爵様」

「様付けなど恐れ多い・・・・・・呼び捨てで構いませんよ?」


 大ホールを出た瞬間、バタリと会場の扉が閉まって外へ向かおうとした所、ホールを囲うように伸びる通路の先には、この城の主であるアーマレア公爵とその娘さんであるレイラ姫が立っていた。


「それこそ恐れ多いですよ・・・・・・」

「いえ、とんでもない・・・・・・貴方は私の娘、フロウゼルの命の恩人なのですから」


 周囲は公爵の妻であるコルセア夫人の方へ意識が向いているので、ホールからすぐ近くの通路にいる公爵とレイラ姫に気が付かない。


 気がつけば周囲には城を護る兵士の人達が集まっており、その様子からしてこの状況が公爵の手によって意図的に作られたような気がした。







 大ホールでは公爵夫人が参加者たちの注目を集める中、ホールを出た先で公爵とその娘であるレイラ姫の二人にばったりと出会ってしまった。


 そのまま先導された場所は大ホールからほど近い一室、それも客人を持てなす為の部屋なのだろう。


 既に準備がなされていた一室には、本物の給仕係の女性達が部屋の隅で並んでおり、公爵とレイラ姫が部屋に入った瞬間にそれら給仕係の人達を含めた一同が深々と頭を垂れた。


(・・・・・・これが本当の貴族か)


 貴族という枠組みで言えば、フロウゼルさんも貴族様なんだけど、言い方は悪いかもしれないがフロウゼルさんは貴族というよりも軍人といった雰囲気を纏っている。


 一応、フロウゼルさんもお姫様ではあるんだけど、何処か親しみを持ちやすい。


 勿論、そこにはちゃんとした上司と部下という差はあるんだけど、畏怖というより畏敬の念が強いと感じる。


「こちらへどうぞ、ソラ様」


 ニコリとその微笑みだけで世の男達を虜にしそうな程、その胃で立ちが非常に絵になるレイラ姫は、やはり姉妹ということもあって何処となく姉であるフロウゼルさんと似た雰囲気を持っている。


 ただ違うのは同じネコ科であっても、フロウゼルさんはライオンでレイラ姫はメイクーンの様な感じ、似ているけど何処か雰囲気の差があった。


「ありがとうございます」


 レイラ姫に案内されて、ソファーの様な椅子に座る。


 一人用の椅子ではあるが、まるでマッサージチェアの様に巨大でふかふかだ。


 だけど、ここまで豪華な椅子は逆に面会するときには不向きだと思う。


「いやはや、まさかソラ殿を探そうとしていた瞬間にバッタリと会ってしまったものですから、まだ部屋の準備が済んでおらず。申し訳ない」

「いえ、構いませんよ」


 お互いが腰を下ろしてから開口一番に、公爵が自ら陳謝する。それに合わせて公爵の隣に座ったレイラ姫も同じ様に頭を下げたことから、声に出さずとも部屋に待機していた人達の空気が変わった気がした。


(貴族の人が頭を下げるって、よっぽどの事だよな?)


 貴族社会は分からないが、偉い立場の人間が簡単に頭を下げてはいけないことぐらいは流石に分かる。

 しかも貴族が他国の平民に対してとなれば、それはありえないというレベルだと思う。


 だから公爵とレイラ姫が頭を下げた瞬間に、まるで息を飲むかのように空気が変わったのだと感じた。


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