第89話 食事会
アーマレア家の食事会は、大きく分けて2つの会場が存在する。
一つは、一般隊員向けの食事会でこちらはヴァリンバーグ中心に存在する城の屋外で行われるバーベキューに似た形式になる。
三百人近くも居るアスカティア調査隊の殆どが、この一般隊員向けの食事会に参加するので、自分が泊まっていた宿泊施設にはもう人が殆ど居ないのでとても静かだ。
「ソラ様、準備が出来ました」
「わかりました。じゃあ行きましょう」
宿泊施設のロビーでぼーっとしながら待っていると、アーマレア家の関係者の人が呼びにやって来た。
他の人達は、基本的に徒歩で各々で城へ向かうんだけど、自分やヘラクさんといった一部の人達は場内で行われるもう片方の食事会へと参加するので、それぞれ馬車が用意されている。
「・・・・・・すごいなー」
「そう言って貰えたら、我々も大変嬉しゅうございます」
宿泊施設の出入り口に止まっていたのは、見事な装飾が施された白馬の馬車、馬も白色だし馬車自体も白を基調として金や銀で装飾が施されている。
まさに白の街ヴァリンバーグを体現するかのような馬車に、自分はアーマレア家の人から手を添えられて馬車へ案内される。
まるで御伽噺に出てくるようなお姫様の気分ではあるが、都市の外れとは言え、白馬の馬車に大勢の護衛の兵士が集まっていれば何事だとヴァリンバーグに住む人達が野次馬として集まってきていた。
馬車の外から眺めるヴァリンバーグという都市は、まるでヨーロッパの観光地の様な綺麗な街並みをしていた。
ガラガラと馬車の車輪が地面を蹴る音を聞きながら、白で統一された街並みを見つつも、それ以上に自分が乗っている白馬の馬車がヴァリンバーグの住民からの視線が集まっている。
「視線がご不快でしたら、周囲に居る住民達を退かせましょうか?」
「いえ、大丈夫ですよ」
街をじっくりと見たいな―、なんて考えていたら自分の乗る馬車に横づけるように、馬に乗った護衛の人が外から話しかけてくる。
馬車へ案内してくれた執事の人もそうだけど、自分の周りにいる人達は皆、古代魔法言語を喋れるらしい。
これも、アーマレア家の人達の心遣いというやつなんだろうか?
ただ護衛の人達が言っている事は、かなり過激なんだけどこの国だとこれが一般的な対応なのだろうか?
ヴァリンバーグの中心に存在する。白を基調としたお城の正門から堂々と入場し、多くの人から囲まれながら会場へと案内される。
城内の華美な装飾は、それまで見てきたどの場所よりも洗練されており文明の高さを物語っている。
(やっぱり本場は違うんだな)
自分がこれまで見てきた場所も凄かったが、アルメヒ前線基地も第三調査基地も軍事基地の中にある場所だった。
正確に言えば、ヴァリンバーグ城も軍事施設の一種ではあるんだけど、大戦が終結した今では軍事施設としての役目はもう殆ど無いのだろう。
大勢の人達に誘導され、城内の大ホールへと向かう。行き交う通路には城内で働く人達が歩いており、こちらが通れば通路端に止まってお辞儀をしてくる。
(こうやって見ると改めてファンタジー世界に転生したんだなって実感するな・・・・・・)
それまで神の地という特殊な環境で生活していて、神の地でも色んなファンタジー要素を体験したけど、アオの大樹海に飛ばされてからまた違ったファンタジーな要素を感じるとは思いもしなかった。
「ソラ殿、こちらへ」
「あ、ヘラクさん」
豪華な細工が施されたシャンデリアが、城内の大ホールを照らし、ドレスやスーツといった綺羅びやかな衣装を着た大人達がグラスを片手に談笑をしていた。
その光景はまさに別世界であり、入り口で大ホールを眺めていると入り口からすぐ側に立っていたヘラクさんに呼ばれる。
事前に聞いている情報だと、城内で行われる食事会にはヘラクさんを含めたアスカティア調査隊の7人の幹部の人達が参加しているらしい、ヘラクさん以外とはそれら幹部の人達と直接離したことは無いけど見知った顔がいれば安心する。
「話には聞いていましたけど凄い人数ですね」
「えぇ、どうやらアーマレア公爵は他貴族の方々もお呼びになっている様です。他にも財界の有力者など、この大ホールだけで五百人は居るのではないのでしょうか?」
この大ホールで一番偉いのはアーマレア公爵なんだけど、それ以外にも自派閥の中小貴族も今回の食事会に参加しているそうだ。
今回の目的は、アスカティア調査隊の激励ではあるけど、アルメヒ前線基地までの道のりでは今回参加している貴族の領地を通過する事になる。
なので今後の事も考えても、今回の開催された食事会にはちゃんと意味があるそうだ。円滑に帝国領を抜ける為にも帝国北部を支配する貴族や財界の有権者に顔を知ってもらうと言うのは悪い話ではないだろうし。
「ソラ殿は何か飲まれますか?」
「いえ、お酒は飲めないのでお水を」
今回の食事会ではビュッフェ形式の立食パーティーだ。ホールの一部に料理が置かれており、その大皿から好きな分だけを取って食べるという形だ。
料理が盛られたコーナーには、この城で働いている料理人の人達がショーの様に料理をしており、食事会に参加している人達の一部はこのショーを楽しそうに見学していた。
「ん?なんだろう?」
「これからセレモニーが行われるようです。ほら、あそこの壇上に立たれている方がアーマレア公爵になられます」
大ホールの照明が少し暗くなり、人々の談笑の声も少しずつ小さくなっていった。
どうしたんだろう?と周囲をキョロキョロと見渡してみれば、隣に立っていたヘラクさんが大ホールの一部を指を差して状況を説明してくれる。
「あの人が・・・・・・」
「隣に居るのはレイラ姫ですね、今現在、アルメヒ前線基地に赴任しているフロウゼル様の妹君です」
壇上に立ったのは、がっしりとした体格の壮年の男性だった。髪はフロウゼルさん同様に黄色掛かった金髪をしている。
一方で、そのアーマレア公爵の隣に立っている若い女性は、フロウゼルさんの妹だと言う。
竜胆の様な鮮やかな青色のドレスを着た美しい少女だった。隣に立つアーマレア公爵やフロウゼルさんと同じように金髪ではあるんだけど、レイラさんはその2人よりも色素の薄い、淡い金髪をしている。
顔の作りも、フロウゼルさんのように似通ってはいるけど、何処か幼気さを感じる。カッコイイと形容できるフロウゼルさんと違って、レイラさんは可愛いと言える顔立ちをしていた。ただ、どちらもタイプは違えど美人なのは間違い無いんだけど。
一番最初にアーマレア公爵がセレモニーでちょっとしたスピーチをすると、その後に続くように他の人達が同じようにスピーチをしていた。
一方でレイラさんは、ただアーマレア公爵の付き添いと言うかたちで顔を見せただけで、公爵のスピーチが終わるとそのまま会場から姿を見せずに去っていく。
「レイラ姫は今回が初のお披露目という形だそうです。それまではこの様な大衆の面前では姿を見せたことが無いそうなので、会場の人達は驚いたでしょうね」
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