第86話 悲劇の都市、ヴィリンバーグ

 自分は帝国の都市へ出歩く事は出来なかったけど、その分、リアナさんから今回訪れた都市について詳しく聞く事ができた。


 エマネス帝国の北部に存在する都市〈ヴィリンバーグ〉は、人間や獣人が共に暮らす都市らしい。


 人口は約2万人程、帝国北部では三指に入るほどの人口が多い都市であり、かつては人間至上主義国家であるコーヴィス聖王国とエマネス帝国、フォーラン連邦の三つ巴で戦争を繰り広げていた場所だという。


 その理由は、この帝国北部をかつて支配していた帝国側の貴族、キャペル公爵が齢30にしてこの世を去ったところから端を発している。


 元々、コーヴィス聖王国程ではないにしても、何処か獣人族を下に見るという風潮はエマネス帝国にもあったそうで、今ではリアナさんのような獣人族の留学生もいるけど、その当時は連邦とも仲が悪かったらしい。


 そんな中で、キャペル公爵は帝国北部に広大な領地を保有しており、帝国内でも革新的な人物だとして知られていたそうだ。


 その一つに、今の帝国内で広がる獣人族との共生があり、当時では珍しい人間と獣人が共に暮らす場所があったそうだ。


 他にもキャペル公爵は統治にも優れており、税率も低く、良質な木材に豊富な天然鉱物が多く産出されて大陸でも有数の豊かな土地だと言われ、その噂を聞き付けた北にあるサンレーア王国や、フォーラン連邦といった場所から楽園を求めて、多くの人々がやって来たそうだ。その結果、様々な文化が入り混じり果、帝国北部を発信とする新たな文化が花開いたという。


 その一つが帝国北部の大都市ヴィリンバーグだ。今日宿泊する宿からでもヴィリンバーグの真っ白な街並みを一望できる。


 優しい色合いの白で統一されたヴィリンバーグは、それまで訪れた連邦の都市で見たような形をした家が建ち並んでいる。


 大通りには等間隔に街灯が設置され、白一色ではあるものの、街灯の灯りや都市を彩る自然、そして巨大な水路によってその光景は圧巻の一言だ。


 この世界では比較対象が少ないので自分では評価は出来ないけど、様々な都市を訪れた事のあるリアナさんからしても、このヴィリンバーグという都市は大変美しい街並みをしているらしい。


「・・・・・・ですが、そんな栄華を極めたキャペル公爵ですが早くして病を患いこの世を去ってしまいます。そこからはキャペル公爵が残した豊かな領地を巡って三国の間で凄惨な戦争が引き起こりました」


 美しい白色の都市のヴィリンバーグではあるけど、キャペル公爵が亡くなって引き起こった戦争では、この美しい白の街並みが赤く染まる程、凄惨な戦争が繰り広げられたらしい。


 人間と獣人が共に暮らす都市、聞こえはいいけど当時の人間至上主義者や人間排他主義者の両方から裏切り者扱いをされ、帝国からの支援はあれど、ヴィリンバーグを初めとしたキャペル公爵が治めていた都市たちは、聖王国と連邦という2つの大国からすり潰されるように凄惨な末路を辿ったという。


「それでもキャペル公爵の親族関係に当る東アーマレア公爵家が破壊され尽くしたキャペル公爵が治めていた都市たちを援助をして、今の美しい街並みが戻りました。現在では東アーマレア公爵家がこのヴァリンバーグを治めていると聞きます」

「フロウゼルさんの実家が・・・・・・」


 指定された宿から出ることが出来ない自分の為に、長時間の間をリアナさんはヴァリンバーグの歴史について話してくれた。


 もともとリアナさんは、大学でも歴史関係の授業を取っていたこともあって、その知識は豊富で無学の自分でもすんなりと頭に入るほどの教え上手でもある。


(・・・・・・まさか、こんなところでフロウゼルさんの実家が出てくるなんて)


 フロウゼルさんの家は、エマネス帝国でも指折りの大貴族であるアーマレア公爵家だという事を以前アルメヒ前線基地に居た時に聞いたことがある。


 確か、元は聖王国側の貴族家で戦争の際に分裂した結果、聖王国から東側にあるエマネス帝国側に付いて、今では東アーマレア公爵家となっていたはずだ、


 まさか、こんなところでフロウゼルさんの実家の人達が治める都市へ訪れることになるとは思いもしなかった。


 運命とはままならないものだと思った。


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