第85話 アスカティア調査隊
マグスさんが訪れて以降、神の地の出発日までの間に面会へやって来る人は誰も居なかった。
その代わりに、計画の責任者でもあるマグスさんが自分の同行を正式に承認してくれたので、ヘラクさんを初めとした第三調査基地所属の人の中で、今回のアスカティア計画へ参加する人と会ったり、ミーティングを行ったりとそれとなく忙しい毎日を過ごしていた。
「え?リアナさんもアルメヒ前線基地へ行くんですか?」
「うん、追加招集で選ばれてね・・・・・・まさか本当に選ばれるとは思わなかったんだけど」
アルメヒ前線基地までの長い道のりでは、連邦の影響力が及ばない外地というのもあるけど、モンスターが出現する場所や険しい地形の場所を通ったりもすることになっている。
そんな中で、ヘラクさんを初めとしたアスカティア計画を主導する人達が話し合った結果、更に人員を募集することが決まった。
もちろん、これは希望者を募るだけであり基本的に優秀だからといって強制的に神の地へ連れて行かれることは無い。
「よかった。見知った人が居てくれて助かりました」
「そう言って貰えると嬉しいね、まぁ、こちらとしてはソラ君が話す古代魔法言語を覚えているから・・・・・・って感じなんだけどさ」
「そうなんですか?」
既に一ヶ月近くも顔を合わせているので、最初は何処となく壁のあったリアナさんとも随分打ち解ける事が出来た。
そして、今回のアスカティア計画に置いてリアナさんは追加募集枠として見事選定されたんだという。
ただその表情は何処か複雑だ。アハハと軽く笑ってはいるけど目には何処となく納得いっていないように感じる。
「今回の部隊では、誰しもが古代魔法言語を覚えているわけじゃないからね、多くが冒険者だったり軍関係者だから」
リアナさん曰く、リアナさんやヘラクさんのようなアオの大樹海を調査する人達は、仕事柄からして古代魔法言語のような、歴史に関する科目を大学で修了している人が多い。
だからこそ、この第三調査基地では不自由なく生活することが出来た。全員が自分の使う古代魔法言語を覚えている訳じゃないけど、基地内で見かけた人を呼び止めれば何人かは喋れるレベルだ。
だけどもそれは、獣人族のルーツを探るという、半ば歴史調査に関する意味合いが強いアオの大樹海の調査隊だからこそ起きうる特殊な環境なので、普通ではそうは行かない。
なのでリアナさんが今回のアスカティア計画に選ばれたのは、古代魔法言語を習得しており、自分とも関係性があるからだ。とリアナさんは言ってくれた。
「それでもいいじゃないですか、行けることには変わりませんし、リアナさんなら大丈夫ですよ」
「・・・・・・うん、そうだね、ソラくんの言うとおりだよ」
リアナさんがアスカティア計画の調査隊に入りたい、という気持ちは明確化された物ではなく、行けたらいいな・・・・・・程度の漠然とした物だという事を以前聞いた事がある。
もしかしたら、帝都の大学生時代に付き合っていた彼氏さんのフライトさんがアルメヒ前線基地に居るからかもしれない。
・・・・・・正直、黒の陣営の調査隊は一度、壊滅的な被害を受けているのでリアナさんの彼氏であるフライトさんが生きているかは不明だ。
「それに倍率だけで言えば、凄く高いんですよね?ただ古代魔法言語を使えるだけなら他の人もいっぱい居たでしょうし、やっぱりリアナさん自身の実力のお陰ですよ!」
最悪な事になっていなければいいけど・・・・・・そう思いながら、少し沈んだ雰囲気を漂わせるリアナさんを元気づけることにした。
神の地に存在する、大陸最北端の調査基地『アルメヒ前線基地』までの間には、広大なフォーラン連邦の土地に加えて、エマネス帝国とサンレーア王国の領土を通過しなければならない。
連邦の領土内であれば、多少の検査だけで済むんだけど、幾ら事前に許可を取っているとは言え、国境沿いや帝国の都市へ入るとなれば、不審な物を持ち込んでいか、と持ち物検査で結構な時間を取られてしまう。
(ここがエマネス帝国の都市かー)
いざ、アスカティア計画が発動し、一ヶ月近く滞在していた第三調査基地を出発してみれば、そこからの行軍速度は思っていたよりも早かった。
流石に、一夜で100キロ以上の距離を休みなしで移動できる太郎と比べるのは酷だけど、車といった移動手段が無かった時代の前世と比べてみたらその行軍速度は驚異的な物だと思う。
「バルファは都市の外で他の隊員が面倒を見るって、私達は中に入って大丈夫だってよ」
一応、来賓として扱われている自分は、知識として知っている馬車を凄く豪華にさせたような造りの竜車に乗っていた。
竜車とは、文字通り竜に荷車を引かせるというものであり、今、持ち物検査が終わった事を伝えに来てくれたリアナさんが言っていたバルファが今回の移動において大量の荷物を運搬する大型従魔だ。
バルファは古代遺跡調査の際に見かけた戦闘用の従魔よりも大人しい、図体こそずんぐりむっくりとした巨大な蜥蜴、といった感じだけども連邦では半分家畜化されているようなので休憩時には呑気にあくびをしていたりする程度には気性が穏やかだ。
「・・・・・・流石に観光、とは行きませんよね」
「ごめんね、他の隊員ならまだしも、ソラくんはアスカティア調査隊の重要人物だから・・・・・・」
シュン、と申し訳無さそうに眉をハの字にして謝るリアナさんに、思わず自分は慌てながら大丈夫ですよと答える。
今回は他の人達と違って、随分と良い待遇で接してもらっているので、ここでワガママを言うのは流石に気が引ける。
少し残念な気持ちを心に抱きつつも、自分は指定された宿へ向かった。
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