第84話 偉大な計画

『きみがソラっていう人間族の子なんだね、私はマグスって言うんだ。こう見えても連邦の評議員をやっているんだよ』


 歓迎会が行われてから数日後、リアナさんが言ったように現在第三調査基地に在中するミーアさんを目的に連邦の上層部のお偉方が続々と訪問しに来た。


 自分も第三調査基地では客人として、まるで高級ホテルに宿泊しているかのように手厚い歓待を受けているんだけど、基本的にミーアさんとは別行動だ。


 ただリリィに関しては、ミーアさんが連れてきた獣人族の子供として扱われているので比較的自由に行動できるらしく、毎日の様に自分が泊まっている部屋に来て遊んだりしている。


 ただリリィはミーアさんの関係者なので、自由は利くとは言え重要人物の一人なので数分も経てば、リリィのお世話係をしている女性隊員の人が探しに来るけど、毎回目を盗んでやってくるのでお世話係の人も最近では真っ先に自分が居る部屋に来るようになっていた。


 現在、第三調査基地は連邦の上層部の方々がひっきりなしに訪問してくるので、かなり忙しい状況になっている。

 まだ基地へ来てから数日だというのに、その数は10人を超える。


 ただ10人?と最初は思っていたけど、この10人は国でもトップに近い人達なので、護衛だったり召使いの人だったりで全員を合わせれば、総勢300人以上の人達が一斉にこの基地へ訪れていた。


 この基地でミーアさんやリリィを除けば、一番基地内の情報に精通しているリアナさん曰く、来週にはもっと増えるだろうと言っていた。


 第さん調査基地へ訪れた人達の殆どが、ミーアさんとの面会が目的であり、自分は特に何もすること無く、神の地へ向かう予定日まで大人しく基地の中で過ごすつもりだったんだけど、そんな中で、壮年の猿人族の男性がヘラクさんを引き連れて訪問しに来た。


「ソラ殿、この人が我ら猿人族の長であり、連邦の評議員の一人でもあるマグス・マダグレイア様です。今回の増員計画の責任者でもあられる」

「そうなんですか」


 後ろで控えるヘラクさんが、自分の前で笑顔を浮かべる壮年の猿人族の男性のマグスさんについて簡単な紹介をしてくれる。


評議員、というだけあって今回基地へ訪れた人達の中でもかなりの大物だと思う。


実際に、マグスさんの後ろには部下と思われる同じ猿人族の人達が何十人と待機ていて、自分が共通語を喋れない為に専属の通訳まで用意されているぐらいだ。


通訳の人を介しながら、軽く自己紹介を済ませた後、後ろで控えていたヘラクさんから今度行われる計画について話が移り変わった。


『うんうん、君がアスカティア計画に参加してくれるのは大変喜ばしい事だね、もちろん君が神の地へ帰れるように協力するつもりだよ、そこら辺は安心しなさい』

「アスカティア計画ですか?」

「アスカティアとは”偉大な”という意味の持つ古い言葉、今度行われる神の地の調査計画の名称だ」


 偉大な計画・・・・・・何故その様な名前にしたか分からないけど、内容はヘラクさんと話して同行することになった神の地で行われる調査計画の一つだ。

 規模は大体100人前後、ヘラクさんを隊長として様々な部族から選りすぐりの人たちが今回の計画で呼ばれているらしい。


「連邦は最初、他国よりも神の地調査に対して懐疑的な意見が多かったのだ。しかし、最近の調査によって神の地の重要度が増した結果、今回は選りすぐりの人員を派遣するアスカティア計画が生まれたのだ」


 ヘラクさん曰く、フォーラン連邦にとってこのアスカティア計画こそが連邦の本気、ということらしい。


『ヘラク君を筆頭に、今度の計画で我が国に所属するS級冒険者を10名派遣するんだよ、他も隊員たちも支部ギルドのエース級であるA級以上のベテラン冒険者達だからね』

「本来であれば国の防衛上、これほどの人員を国外へ派遣することはありえない。しかし、今回はマグス様の人望も相まってこの様な最高レベルの人材が集まったのだ」


 マグスさんがどれほどの人望を持っているか分からないけど、S級冒険者を10名も集めるということは簡単なことではないはずだ。


 それこそフロウゼルさん達、黒の陣営でもS級冒険者は片手で数えられるほどしか居ないし、この前調査隊が壊滅したことによって、更に数を減らした結果、今ではS級冒険者は3名しか居なかったはずだ。


 そんな優秀な人達を集めるということは、決して簡単ではないと自分でも思う。


 ヘラクさんは、このように集まったのはマグスさんの人望だと言うけど、正直、マグスさんの見た目はただ小柄な爺さんといった感じ。


 それこそ、スーツの様な高級そうな服装をしていなければ、そこら辺に居そうな気の良い爺さん、と言った感じで、笑顔に愛嬌こそあれどヘラクさんのように頼りがいがある人物だとは到底思えない。


『私はね、希望に満ち溢れた未来ある若者を見るのが好きなんだ。それは同じ種族だけでなくて、人間族だって変わらないんだよ』


 内心を察してかは分からないけど、優しい口調で語りかけてくるマグスさん。


 その言葉を自分はカタコト程度でしか分からないけど、ヘラクさんの反対側の位置に居る通訳の人が素早く翻訳してくれた。


 急に手を握られて少しびっくりしたけど、その手は人間族の自分よりも硬く分厚い。


 一見、マグスさんは小柄で頼りなさそうな姿をしているけど、よく観察してみれば手や腕には古傷の様な物が黒い体毛から見え隠れしていた。


「マグス様はかつて、猿人族で最も優れた男性に贈られる猿王の称号を持っていたのだ。歴代でも最長の保持記録があり、かつて行われた戦争でも英雄に相応しい働きをしていたのだ」

「猿王・・・・・・」


 見た目は人の良さそうな爺さんだけど、ヘラクさんの言葉の端々からは尊敬の念を感じるところからして、決して嘘では無いんだろう。


 どうやら、人は見た目に寄らないらしい。






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