第81話 ヘラクの問い
第一調査基地と違い、今回やって来た第三調査基地では自分も含めて基地内の人達から歓迎された。
フォーラン連邦第三調査基地は、スケールを小さくしたようなアルメヒ前線基地の様な形をしており、森を突き出すようにそびえ立つ2つの監視塔に加えて、調査基地だけである程度の食料を賄えるように畑や家畜小屋と言った生産施設が点在する。
街と言うには規模が小さいが、ちょっとした村よりは規模が大きく人も多い・・・・・・といった感じだった。
「なーう」
ゴロゴロと喉を鳴らしご機嫌な様子で横になっているリリィの頭を撫でながら、基地のホールで行われる予定の歓迎会の準備を待っていた。
自分は部屋に備え付けられた風呂場で汗を洗い流して身支度を整えつつ、いつの間にか部屋にやって来ていたリリィを撫でつつ待機していた。
「思っていた以上に早く帰れそうだなぁ」
「んぅ?」
撫でながらリリィに語りかけるように話す。彼女が自分の言葉を理解しているかは分からないけど、思っていた以上に事態が好転していることに戸惑いもありつつも少しホッとしている。
まだ確定では無いものの、歓迎会が終わった後にリアナさんに話を通して、今度神の地へ出向する人に同行出来ないか相談するつもりだ。
来月、ということだからまだまだ時間は掛かりそうだけど、個人で行くとなれば連邦を抜けて一旦帝国へ入り、サンレーア王国を横断しなければならない。
どのような移動方法があるかは分からないけど、少なくとも自分個人で行こうとなればかなり時間がかかってしまうのは間違いない。
早く太郎や向日葵、シロやアリアの顔を見たいという気持ちもあるし、フロウゼルさんとの面談もすっぽかした状態なので早く戻って謝罪したい気持ちもある。
最初はフロウゼルさんとの関係もあるので、帝国側の基地へ向かって事情を説明出来たら楽だと思っていたんだけど・・・・・・
今思えば、ミーアさんの提案を受けてよかったかもしれない。
コンコン
リリィを撫でつつ、穏やかな時間を過ごしていたところでノックの音が鳴った。
どうぞーと入室を促したところで入ってきたのはリアナさんでもミーアさんでもなく、猿のような獣人の男性であるヘラクさんだった。
「急な訪問を失礼します。歓迎会の前に少しお話よいでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ」
ヘラクさんは短く挨拶をすると、何処か真剣味のある面持ちで部屋に備え付けられていたシンプルな椅子に座る。
自分もリリィを起こして、ヘラクさんが座る向かい側の椅子に腰を下ろした。
「どうしたんですか?」
「ソラ殿に少しご質問がございまして・・・・・・」
ヘラクさんは手に持っていた書類から一枚の紙を取り出す。
「これは・・・・・・」
「はい、これは神の地を調査している我が国の調査隊からの報告書です。単刀直入に聞きます・・・・・・ソラ殿は神の地の先住民でございますね?」
自分が思っていた以上に、アルメヒ前線基地の人々から広く知られていたらしい。
第二調査隊壊滅事件以降、何度もアルメヒ前線基地へ出入りしてはいるものの、黒の陣営、それもエマネス帝国以外の調査隊員の人と碌に会話をしたことがない。
あるとすれば、サラン公国の人と少しだけ・・・・・・と言った具合であり、黒の陣営でも自分は基本的にエマネス帝国の人達としか接触していない。
そしてフォーラン連邦は緑の陣営の盟主だ。
エマネス帝国とフォーラン連邦は隣国同士であり、アオの大樹海でも互いに調査基地を持つライバル関係ではあるものの、リアナさんの話を聞くに仲は悪くないらしい。
それこそ、互いに交換留学生を派遣するぐらいには仲が良い。
近くにコーヴィス聖王国という、共通の敵が存在するのが大きいんだろうけど。
そして、自分はアルメヒ前線基地において連邦の調査隊はおろか、緑の国陣営と話したこともなければ、その区画へすら行ったこともない。
それこそ、古代遺跡の調査の際に人目見たぐらいだ。
「はい、なので神の地へ帰りたいと思っています」
その為に、ミーアさんと一緒に連邦の調査基地へ向かってここまでやって来たのだ。なので自分はヘラクさんに対して正直の事のあらましを答えた。
「なるほど・・・・・・」
ヘラクさんは、調査書を取るように自分の話を聞いて何やらメモを取っている。
「前線基地で活動する者からの報告によれば、黒の陣営がかなり混乱していると話がありました。まさか、貴方が我が国の基地へやって来ているとは思いもしないでしょう」
神の地へ行くことが決まっているヘラクさんには、アルメヒ前線基地の情報が逐一送られてくるそうだ。
前線基地の力関係や、この前の古代遺跡の一件からシロが使用した溶けない氷の魔法と様々な情報がヘラクさんの下に集まっているという。
「・・・・・・それで、本題は何でしょうか?」
黒の陣営が混乱している。つまりはフロウゼルさん達が自分の異変に気がついてなにか調査を行っているということ。
それは、同じ陣営の国だけではなく、ヘラクさんら連邦の調査隊も情報を掴んでいることから、自分が思っている以上に混乱しているのかもしれない。
(アリアの一件もあるし、早く帰らないとなぁ・・・・・・)
そう思いつつ、自分はヘラクさんに対して本題を聞いた。
「はい、私達の希望は一つです。ソラ殿を我が調査隊にお招きしたい」
「ですが、私はエマネス帝国の方とご懇意にしていますが・・・・・・」
「それは承知しております。私達も友好国である帝国と事を構える気はございません。一緒にアルメヒ前線基地まで同行して頂きたいのです」
ヘラクさんの要請は、自分がお願いしようとしていたことなので、別に構わないどころか、ありがたい話ではあるんだけど・・・・・・
「アルメヒ前線基地へ同行は、こちらからお願いしようと思っていました」
「それは良かった。では、そのようにお願いします」
自分の言葉を聞いて、ヘラクさんは二カッと人の良さそうな笑みを零した。
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