第80話 フォーラン連邦・第三調査基地

 第一調査基地から出発して数日経過した。


 第一調査基地から一番近いのは、北東方面にある第二調査基地なんだけど、最終目的地である連邦の国境からは少し遠くなってしまう。


 なので、第二調査基地へは寄り道せずに、そのまま連邦の国境付近にあるフォーラン連邦第三調査基地へ行くことになった。


 道中は問題なくとても平和だった。むしろ、先に情報が通達されていたので、移動の二日目の昼には休憩するための寄った中継地点には既に第三調査基地の方から隊員の方達がやって来ていた。


「・・・・・・龍姫さまのお顔を、直接ご拝見出来ることを嬉しく思います」


 相変わらずと言うか、第三調査基地からやって来た隊員の人達からも、ミーアさんは尊敬の目で見られていた。


 ミーアさん自身は何処かこそばゆい感覚があるのか、少し居心地が悪そうだったけど、悪い気分ではなさそうだ。


「貴方が報告にあったソラさんですか、よろしくお願いします」


 赤みのあるオレンジの体毛をした猿のような獣人族の男性が軽く会釈をしてくれた。


 自分もそれに合わせて返し、ちょっとした自己紹介を済ませればちょっと豪華な昼食会が始まった。


「ヘラクさんは第三調査基地の人なので問題ないですよ、第一調査基地が例外ですので」


 第三調査基地から持ってきたと思われる食材を取り出し、猿のような獣人族の男性、ヘラクさんが部下の人達の指揮を取りつつ調理が始まった。


 森に漂う美味しそうな匂いを堪能しつつ、横に座ったリアナさんが小声でそう言ってくれる。


「そうなんですか?」

「えぇ、第三調査基地は国境から近いということもあり、多くの人員が交換されます。中には獣人族と人族のハーフもいますし、基地長も国際派の人物なので、特定の思想が蔓延していないんですよ」


 リアナさんの言葉には、第一調査基地の人達に対して少し棘があるような含みがあった。


「加えてヘラクさんは、第三調査基地でも積極的に他国と交流を図ろうとする国際派の最先方です。来月には神の地へ出向するんだとか」


 以前、フロウゼルさんから聞いた話では、白の陣営―――――コーヴィス聖王国を初めとした調査隊が壊滅的な被害を受けたという話があった。


 それこそ、コーヴィス聖王国と仲が悪かったエマネス帝国とフォーラン連邦は得るものが少なかったので、早期に離脱したお陰でギリギリ難を逃れたわけなんだけど、そのせいもあって神の地に存在する国際基地のアルメヒ前線基地は多くの人員が補充されているそうだ。


 壊滅的な被害を受けたコーヴィス聖王国なんかは、遅れを取り戻すべく、かなりの人員を割いているようで、アオの大樹海に存在した少数の調査基地も破棄して神の地調査にあてるんだとか。


「聖王国がアオの大樹海から撤退したこともあって、連邦も規模を縮小することに決定しました。そして余った人員を神の地へ送るってわけですね」

「リアナさんも行くんですか?」


 もし、リアナさんも神の地へ赴くのであれば個人的には嬉しい・・・・・・と思う。幾ら連邦へ入ったと行っても神の地への道のりはまだまだ遠い。


「どうでしょう?可能性はありますがまだ決定はされていませんので」


 神の地への補充要員は先に希望者を募り、適性を見つつ招集が掛けられるそうだ。


 リアナさん自身にも可能性があるそうだが、まだその話は来ていないという。






「でっかい!」


 中継地点からは道も整備されており、移動は格段に楽になっていた。


 国の要人であるミーアさんとは少し離れた場所で、半ば役目を終えたリアナさんと一緒に隊の中腹付近に陣取って移動していた。


 まるでトンネルのように空を覆う森の中を歩いていたところで、森から突き出すように巨大な建物が現れた。


「第三調査基地は、アオの大樹海に存在する調査基地の中でも最大規模の基地になります。ここから人員や物資が各基地へ運ばれたりするんですよ」


 呆然と見ていた中で、横を一緒に歩いていたリアナさんが第三調査基地について解説してくれる。森の中に隠れていた第一調査基地と違い、第三調査基地はまるで城のような形をしている。


 アルメヒ前線基地と同じように基地周辺には空堀が掘られ、カラカラと鎖の擦れる音を出しながら連絡橋が降ろされる。


「龍姫さまーーーー!!」

「お待ちしていました!!」


 連絡橋が降り、再び隊が動きだしたところで、基地の門前に居た人達がミーアさんの姿を見て一斉に歓声をあげる。


 その光景はまるで凱旋パレードのようで、多種多様の獣人族の人達がミーアさんの帰還を祝福していた。


「凄い人気ですね、ミーアさんって」

「そりゃあ、今では唯一の龍人族ですからね、それに加えてあの美貌に数々の逸話もありますから」

「逸話ですか」


 ミーアさんは、癖の無い灰色の長い髪に二対の赤黒い角が突き出している。


 女性にしては高身長で、色白の肌に少し華奢な体格もあってか弱そうに見えるんだけど、ミーアさん曰く、種族的な特性もあって力には自信があるそうだ。


 顔立ちは、クールなカッコいい系の見た目でありながら神秘的な輝く銀色の瞳を持っているので、何処か神秘的な雰囲気を漂わせている。


 前世の記憶も相まって、ミーアさんは着物とか着たら非常に映えそうだなーなんて思いつつ、隊の中腹に位置取り歓声を聞きながら第三調査基地の中へと入った。





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