第79話 運命?

「リアナっていいます。どうもよろしく」


 次の日の早朝には既に探索基地を出発して、連邦に向けて歩いていた。


 そして基地からは一人の獣人族の女性、リアナさんが案内役として着いてきてくれることになっていて、基地から少し進んだ場所でお互いに自己紹介をすることになった。


「あ、ソラっていいます」


 ミーアさんとリリィは昨日の夜の内に自己紹介を済ませていたようなので、今回は自分が挨拶をする番だった。


「私は大丈夫だよー、人間排他主義じゃないし」


 リアナさんの方から握手をしてきたので、少し驚きを感じつつ挨拶に応じると、自分の内心を知っているのか心配しなくていいと言ってくれる。


 人間排他主義?


 リアナさんの言葉の意味をそのまま受け取れば、聖王国の人間至上主義の様なものだということだろう。しかし、そんな話は聞いたことないし、連邦のお隣の帝国の出身であるフロウゼルさんの話によれば、交易も盛んで特に人間嫌いという訳じゃなさそうだったんだけど。


「これは私も初めて知りました。私が深部で生活していた間、どうも連邦の一部⋯⋯特にアオの大樹海を信仰している獣人族は他種族に対して排他的な思想を持つものが多くなっているとのことです」


 ミーアさんが割り込むように話の補足をすると、人間排他主義はそのままの意味で間違いないらしく、第一調査基地は特にその傾向が強いという。


「人間排他主義、初めて聞きました」

「アオの大樹海は古代獣人族が住んでいますから、古代獣人族は神の血を継承する選ばれし者、ていう考えが昔からあるんですよ」


 そんな古代獣人達が暮らすアオの大樹海は神聖な場所であり、獣人族以外は入れたくない⋯⋯というのが人間排他主義の考えだと言う。


「元々は聖王国との戦争で現れた人間嫌悪の思想が、時間と共に変化した可能性がありますね、私がいた時代にはあまり見られなかった考えです」

「今は国際協調の時代ですからねー、人間嫌悪の思想を公衆の面前で語っていたら思想犯として捕まりますし」

「なるほど」


 戦争が終結し、国際協調が是として新たな時代が始まった今、その結果としてアルメヒ前線基地のように多国籍の調査組織も出来上がった。


 その考えは連邦にも多く伝わっていて、それまで鎖国国家に近かったフォーラン連邦は、隣国を始めとした多くの国と交流、交易を進めているらしい。


 そんな中で聖王国の人間至上主義のような思想は、国の主導部から危険視されているようで、それを隠すために人間排他主義となったそうだ。


「人間排他主義は昔からあった考えが少し変わっただけですからねー、本音は人間が嫌いってことですけど、アオの大樹海を獣人族の聖地として護る為、獣人族以外を森から排除しよう、って建前なだけです」








「リアナさんはその人間排他主義じゃないんですか?」


 リアナさんを案内役としてアオの大樹海を歩いているけど、モンスターの気配が全く無いと言ってもいいほど、道中はとても平和だった。


 天気もいいので、第三者が見ればピクニックか何かをしているんだろうと思うほどで、気になってリアナさんに聞けば、モンスターがあまり出てこない道を選んで歩いているらしい。


 そんな中で調査基地の人達と違い、親切にしてくれるリアナさんに直接聞いてみた。


「私は特にそういうのは無いですねー、着任したのが去年でまだ新人っていうのもあるんですけど、私の場合は帝都の大学にいましたから」

「帝都の大学ですか?」

「はい、連邦の西にあるエマネス帝国という国の首都にある大学です。私は留学生として7年間在籍していました」


 ここに来て、まさかエマネス帝国の話が出てくるとは思わなかった。


「へぇ、連邦も今では他国に出て学ぶのですか、時代が変わりましたね」

「龍姫様が居た時は思いっきり鎖国時代でしたからねー、これも国際協調の一つだと思います」


 昔のフォーラン連邦しか知らないミーアさんにとって、自国の国民が国を出て学ぶことは驚愕に値することだったらしい、前世であれば留学なんてそう珍しくはなかったけど、この国ではハードルが高そうだ。


「留学していたのもあって、人間族に対してどうこう考える事はないですねー、在学中は帝国人の彼氏もいましたし」

「そうなんですか?」

「はい、彼は大学でもとびっきり優秀だったので、半年前に北サンレーア地方へ派遣されました。なんせ神の地を調査するんだとか」

「そ、そうなんですね・・・・・・」


 リアナさんの話を聞いて、ここまでくれば何処か運命を感じざる得ない・・・・・・


「・・・・・・ちなみに、その彼氏さんのお名前は?」

「フライトってい言います。知ってるんですか?」

「いえ、なんとなく」


 フライト、その名前に聞き覚えは無かった。少なくともアルメヒ前線基地で直接会ったことのない人物なのは間違いない、しかし、アルメヒ前線基地はアーシェさんしか唯一の生き残りが居なかった第二調査隊壊滅事件もあり、かなり殉職率の高い職場だ。


 出来れば、リアナさんの彼氏さんであるフライトさんが死んでないことを心のなかで祈るばかりだった。



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