第78話 瞳の色

「同族と言うには語弊がありましたね、正しくは同種の存在というべきですかね」

「同種の存在・・・・・・ですか?」


 ミーアさんの言葉に、何を言っているのか全く分からないといった様子でロイドさんは口を開いた。


 疑問に関しては自分も同じ気持ちである。


「ほら、彼の瞳・・・・・・綺麗な金色でしょう?私と対をなすように輝く黄金の瞳をしているのです」


 ミーアさんはそう言って自分の瞳を見るように促した。それに合わせて、目の前に居る調査隊員の人達の視線が一斉にこちらへ向いた。


(瞳の色?)


 詳しい時期は分からないけど、確かに自分の瞳はいつの間にか太郎や向日葵と同じように金色の瞳をしている。


 最初は魔法を使おうとしたら、その度に瞳の色が変わっていたんだけど、今では常に瞳の色が金ピカ状態だ。


 まるで猫になった気分。


 一応、この世界で誕生した頃は肌色こそ違えども、それ以外は他の人達とは変わらない一般的な黒っぽい瞳だったし、変な薬を飲んだ後は鮮血のような赤い瞳になっていた。


 そしていつしか太郎や向日葵と同じように、輝くような黄金色の瞳になっていたんだけど、ミーアさんが言うには、この瞳こそが自分とミーアさんを同種といえる特徴を持つのだという。


 ちなみにミーアさんはシロと同じような金色とは対を成す綺麗な銀色の瞳をしている。


「確かに、彼は珍しい金色の瞳をしておりますが、それだけで龍姫様と同種の存在と言うのは暴論でしょう」

「そこら辺は深い部分の知識が必要となってくるので細かい説明はしませんが、決して嘘ではありませんよ」


 燃えるような緋色の瞳や、深海のような深い青色の瞳、または雄大な自然を彷彿とさせる様な翡翠色の瞳といった様々な瞳の色が存在するんだけど、この世界において瞳の色というのは、特別な意味を持つという。






「ふぅ、やっと一息つける」


 ミーアさんが自分のことを同族もしくは同種の存在と告白した事で、調査基地の人達から見られていた敵意に近い意識が、何処か得体の知れない不気味な人という扱いになった気がする。


 ミーアさんの家がある深部から移動してから、まだ昼を過ぎた時間帯だけども、今日はここ第一調査基地で休むことになっている。自分としてはただ休むだけなんだけど、ミーアさんに関しては色々と話すこともあるだろうし、余裕をもってと言うことだ。


 後は問題が起きないように、移動先にある各調査基地などにも話を通しておくように、調査基地から伝令も出ている。


 貸し出された部屋は思っていた以上に広い、第一調査基地自体が思っていた以上に小さな基地だったので、ひとりで使うには少し広いぐらいの結構いい部屋を貸し出してもらった印象。


 一方でミーアさんやリリィは調査基地の人と親睦を深めている。これに関しては種族の隔たりがあるので仕方がないと思う。


(・・・・・・それにしても、やけに敵意があったな)


 アルメヒ前線基地や出会ったフロウゼルさん達や、アオの大樹海で出会ったリリィやミーアさんは初対面から友好的だったので、調査基地の人達からの敵意のある視線に驚いた。


 射殺さんばかりの目・・・・・・というわけじゃないけど、少なくとも歓迎されてないのは間違いなく、側にリリィとミーアさんが居たから一応客人として部屋を充てがわれたという感じ。


 もし、自分ひとりでこの基地へ来てたらある意味で歓迎されることだったと思う。


「暇だし、本でも読もうかな」


 充てがわれた部屋も、基地と同じく全部が金属で出来ており何処か冷たい印象がある。


 それこそ、家具や窓が無かったら牢屋と言われてもわからないほどで、周囲が薄暗いこともあって何処か肌寒い。


 遠くからは楽しそうな声が聞こえるけど、自分は参加出来ないので暇を潰す為に〈空想図書館〉を使って読書に興じることにした。






「ん?」


 充てがわれた部屋で夕食を取った後、カツカツとこちらへ向かってくる足音が聞こえた。


 誰だろう?と思い、部屋の入口の方を見てみれば居たのはサーバルのような橙色の耳が特徴的な可愛らしい獣人族の女の子であるリリィだった。


「どうしたの?」


 予想ではまだ歓迎会の最中だと思っていたんだけど、一人で勝手に抜け出してきたのだろうか?そう思ったけど、態々基地の外れにあるこの部屋に来るってことは何か言いたいことでもあったのだろうか?


「これは・・・・・・料理?」

「ん!」


 リリィが手に持っていたのは料理が盛り付けられたお皿だった。カルパッチョのようにサーモンみたいな魚が薄切りで広げられるように盛り付けられており、色鮮やかな野菜にソースが掛けられている。


 料理を持ってきてくれたリリィは自分が座っていたベッドの横に座り、料理が盛られたお皿を渡してくれる。


「・・・・・・おいしい」


 持ってきてもらった弁当もそれなりに豪華なものではあったけど、リリィが持ってきてくれた料理ほどではない。


 少し寂しい気持ちはあるけど・・・・・・それ以上に、リリィがこうやって持ってきてくれたのが嬉しかった。


「ありがとう、リリィ」

「んな~」


 お礼の意味も込めて、リリィの頭を軽く撫でる。ゆらゆらと尻尾を揺らし、気持ちよさそうに細めでゴロゴロと喉を鳴らしている様はやはり猫っぽい感じはするけど、何処となくシロにも似ていると感じた。


(まだ子供だからかな?)


 一緒に居るミーアさんも良い人ではあるんだけど、色々と考え事をしている奥が見えない人だし、調査基地の人は人間である自分を疎ましく思っている。


 そんな中で、ただ純粋に気持ちを伝えてくれるリリィは、なんとなくシロや太郎達を姿を彷彿とさせた。






(瞳の色か・・・・・・)


 料理を持ってきてくれたリリィをナデナデしていたら、耳をピクリと動かしたリリィは周囲をキョロキョロと見渡して部屋を出ていった。


 そしてリリィが出ていってからすぐに反対側の廊下から武装した基地の隊員の人が見回りに来る。ジロリとこちらを確認する。


 暇つぶしに読んでいた本は既に〈空想図書館〉へ戻しているし、リリィが持ってきてくれた料理も出ていく際に皿を持っていってしまったので、今自分がいる部屋には何もない状態だった。


(リリィは人が来るって察知していたのかな?だとしたら凄い察知能力だ)


 急に何処かへ行ってしまったのでどうしたんだろう?と疑問を浮かべていたんだけど、見た感じ、こちらへ巡回してくる人を事前に察知していたんだろう。


 それにしても、態々人員を割いて自分の存在を確認してくる。どれだけ人間がこの基地に置いて疎まれているのか、理由を知りたくなってきた。

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