第77話 フォーラン連邦・第一調査基地

「・・・・・・すげー」

「っと、これで準備は完了です」


 手をパンパンと払い、ミーアさんが出発の準備を整えた時には、ファンタジー感あふれる家も綺麗に無くなっていた。


「これが姿消しの魔法ですか、始めてみました」

「龍人族には色んな魔法が口伝で伝わりますから、姿消しのように面白い魔法が沢山伝わっているんですよ?」


 口伝であれば、〈空想図書館〉では分からない類の物なので、見ることが幸運だったという感じだ。


 ミーアさんが言うには、姿消しという魔法は物の他にも人を隠すことも出来るそうだ。対象に対して意識を拡散させる効果があるらしく、それは視覚以外にも聴覚や嗅覚にも作用するらしい。


(うーん、改めて聞くと凄い魔法だ・・・・・・)


 特筆すべきはその効果時間だろう、姿消しを使ったミーアさん曰く、自ら姿消しの魔法を消そうとしなければ50年以上は維持できるそうだ。しかも使いっている間はずっと魔法を消費するわけではなくて、一度使えばずっと効果を発揮するタイプ。


 そんな便利で強力な魔法が口伝で伝わっている場合もあるんだな、と思った。〈空想図書館〉は万能で強力なスキルだけどもこのスキルでも分からないことが色々あるんだと再確認することが出来た。





 鬱蒼と木々が生い茂り、何処か薄暗い雰囲気があった深部と違い、アオの大樹海の外側部分は比較的太陽の光が差し込む明るい場所だった。


 現れるモンスターこそ、ゴブリンを初めとした人型のモンスター達だが強さも深部と比べて段違いに弱く、数も少ない、集団で行動していることが少なく単独で行動していることが多い印象だった。


「深部だとゴブリン程度では単独で行動していると危険ですから、深部に住むゴブリンは徒党を組んで生き延びるんです」

「そこまでして深部に拘る理由ってなんでしょう?」

「魔素の質じゃないですかね?深部に漂う魔素は上質で密度も濃いですから」


 アオの大樹海北部に存在するらしい、フォーラン連邦の調査拠点に向かってミーアさんやリリィと共に歩いていた。


 本来であれば、まだ10歳に満たないであろうリリィを連れて行く事は憚れることなんだけど、親の様な存在であるミーアさん曰く、リリィは深部でも単独で生きていけるほど強いらしい。


 エフィ族という古代獣人族の末裔らしいけど、実際の所詳しい事はミーアさんも知らないそうだ。


 ただ言えることは、小さな子供であっても隔絶した力を持つということ。


「そろそろ着きますよ」


 深部から一番近い基地であるフォーラン連邦第一調査拠点の近くまで到着した段階で、先頭を歩くミーアさんが静止を促した。


 それに合わせて自分とリリィは足を止めて周囲を伺う。辺りはまだ変わったところは無いけど、ミーアさんが言うには調査拠点はすぐ側にあるという。


「・・・・・・まさか、本当に龍姫様がいらっしゃるとは」

「ロイドですか・・・・・・随分と変わりましたね、貴方もこの基地も」


 ミーアさんが魔法で青い小鳥のような物を生み出すと、その鳥は草木の向こうへと飛んでいった。


 そして数分後、フル装備でやって来たのは連邦の調査員と思われる狼みたいな耳を生やした獣人族の男性だった。


 その後ろには部下と思われる比較的若い獣人族の隊員が控えていて、同じように驚きの目でミーアの姿を見ていた。


(ミーアさん綺麗だもんなぁ)


 サランの聖女と呼ばれるアリアも非常に美しい顔立ちをしているんだけど、龍人族の生き残りといわれるミーアさんも負けず劣らずと言った感じに非常に美しい女性だ。


(フロウゼルさんもそうだし、この世界の強い人って顔が良い人が多いのかな?)


 前線基地にいる人達を見る感じ的に、実力がある=顔立ちが良いというのは女性関係なく、男性もその傾向にある気がする。






「なるほど、龍姫様が連邦へ帰還なされることは私共としても喜ばしい事でございます」


 この基地で一番偉い獣人族の男性、ロイドさんに案内される形で、見事に森に溶け込んでいるフォーラン連邦第一調査拠点の中へと入った。


 迷彩色に塗装された外側と違い、調査拠点の中は酷く無機質な・・・・・・冷たい金属の家といった感じの様子だ。


 カンカンと歩くだけで金属の床が鳴り響き、床だけじゃなく壁も天井も硬い鋼鉄に覆われていた。


 そんな感想をいだきつつ、案内された場所が基地の中でも一番広い食堂部分だった。


 何処か閉鎖的な雰囲気のある調査拠点でも食堂は広く、自分やミーアさん、リリィの他にも多くの人達が一同に介する事が出来る広さがあった。


 細長いテーブルの両側にそれぞれのグループ同士で集まって座って相対する。こちらが三人に対して調査基地の人達は五人並んで座っていた。


「――あれが龍姫様か――――――」


 そして食堂の外にある廊下には多くの調査隊員の人達がこちらを―――龍姫様と呼ぶミーアさんの姿を見ていた。


 キッとロイドさんの右隣に座っていた同じ狼族と思われる女性が廊下から覗き見している隊員達を睨んで退けた。


「・・・・・・そして、こちらの人族の男性は誰ですかな?」

「そう急ぐものではありませんよロイド、事を急ぎすぎるのは貴方の悪い癖です」


外野が去ったところで、開始された会話は自分の素性についてだった。


 自分について聞いてきたロイドさんは何処か威圧的なオーラを放っていた。一番ハッキリと威圧しているのはロイドさんだけなんだけど、他の人達の様子を見る感じ、まず間違いなく自分はこの基地から歓迎されていない。


事前に伝えられていたミーアさんが連邦へ帰郷するという話を彼らは喜んでいたんだけど、その隣りにいる自分に対してはまるで居ない存在かのように扱っていた。


一方で同じ獣人族であるリリィに対してはちゃんと対応していたので、自分が人族だからあえて無視をする・・・・・・言葉にはしないけど多分そういうことなんだろう。


 そんな居心地の悪さを感じつつも、横に座っているミーアさんはまるで柳のしなやかさように受け流していた。


「・・・・・・とはいいつつも、勿体ぶっていても話も進みません、率直に言うとなれば、この人は私と同族です」

「えっ?」

「「「同族?」」」


 ミーアさんの言葉に、思わず言葉が漏れてしまい、それと合わせるように正面に座る調査基地の人達が驚きの声をあげた。


 衝撃の言葉を放った彼女は、特に気にした様子もなく更にこう付け加えた。


「えぇ、これは嘘ではありませんよ?」


 ミーアさんの顔にはいたずらが成功したかのように、感じ悪い笑みが浮かべられていた。ただずるいのがそんな意地悪い笑みでも何処か様になっているということだった。


(そんな重要なこと先に言ってくださいよ!!)


 周りの視線があるので、なるべく表情には出さないように努力しているけど、内心では思わず叫びたくなっていた。



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