第76話 最深部の謎

「いいんですか!?」

「なーぅ?」


テーブルの向かい側に座るミーアさんが、共に同行すると言ってきたので、思わずガタンと腰を上げそうになってしまった。


そしたら自分の太腿を枕にして気持ちよさそうに眠っていたリリィが驚いてどうしたの?といった寝ぼけ眼の様子でこちらを見ていた。


「あ、ごめんね・・・・・・でも、大丈夫なんですか?」

「はい、時間も大分経ちましたし、ここで調べたいことも殆ど終わったので」


あっけからん、といった様子で答えるミーアさんは特に気にしていない様子・・・・・・


ちょうど良かった・・・・・・そうであればこちらとしては幸いなんだけど、もし無理強いをしているのなら心苦しい。


自分が驚いてしまった衝撃で目を覚ましてしまったリリィの頭を軽く撫でながら、ミーアさんの言葉の続きを促す。


「あの一件も、もう60年も前の事です・・・・・・私と違い竜人族は老いが早く、彼も既に90歳を超えているはずですので」


竜人族の寿命は人間よりも少し長く、大体80際前後だという・・・・・・しかし。


「・・・・・・ミーアさんってお幾つなんですか?」

「幾つに見えますか?」


ニコニコと薄っすらと笑みを浮かべるミーアさんは、若々しく美しい顔立ちもあって非常に絵になるんだけど、何処か謎の威圧感がある気がした。


「い、いえ・・・・・・最初は20歳後半ぐらいかなぁって思っていたので」

「そうなんですか?ふふ、そう言って貰えると嬉しいですね、私はこれでも300歳を超えるおばあちゃんなんですよ」


初見で感じた年齢を伝えた所、ミーアさんから発せられていた謎の威圧感はまるで煙のように霧散して、更に嬉しそうな様子で実年齢を教えてくれた。


「さ、300歳ですか」

「えぇ、龍人族と竜人族は確かに近縁種ですが、大きな違いの一つとして寿命がありますね、私はエルフよりも長寿なんですよ?」


エルフの寿命が確か600年ぐらいだから・・・・・・それよりも長いとなれば、人間で換算すればまだまだ若いのかな?


「はい、人間で換算すればまだ20代を過ぎた辺りですね、なのでソラさんの直感は間違っていないです」


(俺はなんも喋ってないよー!)


まるで自分の心を読んでいるかのように答えるミーアさんに内心で悲鳴をあげる。そんな考えすら見破っているかのように、フフフと上品にミーアさんは笑っていた。






前に住んでいた家から持ち運んだのか、建物の二階には壁一面に大きな本棚が幾つも設置されており、その棚の中にはぎっしりと大量の本が敷き詰められた書斎があった。書斎の他にも、森に関する研究をしているようで、先程見せて貰ったアオの大樹海付近が描かれた巨大な地図も貼られており、幾つかの付箋も付けられている。


「ミーアさんは何を調べていたんですか?」


自分をアオの大樹海へ飛ばした謎の蝶を調べながら、ミーアさんが何故この森を調べているのか聞いてみた。


理由の一つに、望んでいない婚約等があったのは確かなんだけど、家の内装からただ生活していたとは考えにくい。


「【審判の日】について、調べています」

「審判の日・・・・・・ですか?」

「はい、栄華を極めた旧人類は神の領域へ侵入し、怒りに触れて滅亡したといいます。しかし、アオの大樹海はこの審判を逃れ、生き延びた旧人類が生き延びていると言われていました」


この世界では、旧人類と新人類の二種類が存在して、基本的に魔法技術も科学技術も旧人類の方が上であると言われている。


以前、大事件が起こった神の地にある謎の遺跡も元は旧人類が建てたものだと言われているので、少なくとも旧人類の人達は神の地へ進出できるほどの実力があったと思われる。


「今回、連邦へ戻るってことはその調査が終了したッてことですか?」

「はい、非常に残念ですはありますが、旧人類の痕跡は見つかりませんでした。この森は数千年前から非常に活発的であり、過去の遺物も地殻変動によって飲み込まれてしまった可能性があります」

「森が活発ですか?」


ミーアさんの言い方からして、まるでアオの大樹海が一つの生き物として生きているかのような言い方だった。


「えぇ、アオの大樹海は実際に生きていますよ、一種の巨大なダンジョンといいますか、深部の更に奥・・・・・・私でも手が出せないほどの強力なモンスタ―達が住み着く最深部の洞窟の奥にはコアと思われる強大なエネルギー波を感じますので」


謎はあるし、気になるんだけど手が出せない、ならば気持ちを切り替えて設備の整っている連邦で腰を据えて調査しよう・・・・・・ミーアさんはそう考えているようだった。


(・・・・・・最深部か、気になるな)


ミーアさん曰く、最深部に現れるモンスターは深部に生息するモンスター達とは比較にならないほど強力だと言う。


しかし、彼らはまるで最深部に眠る宝物を護るかのように、外へは出て来ない。だから生態系は狂わないし、深部のモンスターたちも最深部へと続く洞窟へは近づかないんだという。


・・・・・・正直言えば、非常に気になる。多分だけど自分をアオの大樹海へ飛ばした不思議な蝶とは全く関係が無いのは間違いないけど、ある意味この世界でも最大級の謎が眠っているのは間違いなかった。


ここを離れれば、アオの大樹海へ再度訪れることは難しい、そう思うと余計に気になって調べ物にも手がつかなくなっていた。


「・・・・・・気になりますか?」

「は、はい」


気にはなるけど、それ以上に帰らないといけないと思っている。太郎や向日葵、シロは自分以上に強いので危険は無いだろうけど心配はしているかもしれない。


アオの大樹海はエマネス帝国と接しているのでフロウゼルさんに頼めばまたこれるかな?

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