第75話 神の地へ向かう方法

「赤紫に輝く蝶、ですか?」

「はい、僕がここへやって来た理由がその赤紫に輝く蝶に触れた事によるんです。本当であれば神の地と呼ばれる場所に居たのですが・・・・・・」


 何故ここに来てしまったのか、ミーアさんに相談することにした。


 小屋の裏手でのんびりしていた所に現れた不思議な蝶、ワン!太郎が驚いた様子で注意してきた瞬間にいつの間にかアオの大樹海まで飛ばされていた。


 赤紫色に輝く不思議な蝶に関しては、リリィと出会う前にも何度か〈空想図書館〉を用いて調べてみたんだけど、その蝶についてどころか転移に関する事象すら満足に出てこなかった。


〈空想図書館〉はこの世界のあらゆる本を集めたスキルなんだけど、逆に言えば本に書かれていないような事象については分からないし、単純に物を知らなければ調べようが無いのだ。


 蝶を調べようにもその数は膨大だし、ファンタジーな世界だから蝶だと思っていても全く違う種族の可能性だってある。


 インターネットのように便利な検索機能があればなぁ、と思わなくもないけど、出来ないことを嘆いても仕方がないのでミーアさんに相談することにした。


「転移させる不思議な蝶・・・・・・大変興味深い話ですが、私は存じません」

「そうですか・・・・・・」

「ですが、転移魔法については心当たりがあるので後で調べてみましょう」


 この世界で学者をやっているミーアさんでも、流石に赤紫色に輝く蝶だけでは判別がつかないそうだった。けれども、転移魔法については少し心当たりがあるそうなので、後で調べてもらう事になった。











「では始めましょうか」


 そう言ってミーアさんがテーブルの上に広げたのは、巨大な地図だった。


「今、あなたがいる場所はアオの大樹海の深部と呼ばれるココです」


 指を差した場所は、大陸中央から少し東にある巨大な森の中心部。地図にはアオの大樹海と深部に明確に分けられており、ミーアさんとリリィが住む家は深部でも比較的浅い部分の場所だった。


「北にはフォーラン連邦、西にはエマネス帝国とサラン公国があります。ソラさんが神の地へ行くのであれば、帝国か連邦どちらかの領地へ入らなければなりません」


 アオの大樹海は、北にフォーラン連邦が西にエマネス帝国が囲うように位置してある。大陸の最北端に存在する神の地へ行くにはこの2つの国のどちらかに入らなければならない。


「だったらエマネス帝国ですかね、一応知っている場所なので」


 連邦か帝国、どちらを選ぶかと言われれば、やはり関係のある帝国側になると想う。距離的に言えば連邦からのルートの方が短いんだけど誤差レベルだ。


 自分の言葉に、ミーアさんはふむと頷くと碁石の様な滑らかな表面の石を地図の上に置いた。


「私が知る中で、帝国の調査基地は三つになります。一つはここから北西へ向かった所、2つ目がそのまま西へ向かったところですね・・・・・・3つ目は神の地とは逆の南側に存在するので今回は無視でいいでしょう」

「こう見ると結構深い場所まで調査しているんですね」


 ミーアさんは黒い石を三つ、緑色の石を6つ置いた。その内の黒い石の場所がエマネス帝国の調査基地で、緑色の石がフォーレン連邦の調査基地だという。


 やはりというか、帝国の調査基地も連邦の調査基地も自国側から伸びるように展開されている。調査基地の数に関しては連邦のほうがアオの大樹海の調査に力を入れているから多いのだろう。


「しかし彼らは深部までは決して手を出しては来ません」

「何故でしょうか?」

「単純に深部に生息するモンスターが強いからです。私やリリィ、ソラさんであれば問題無いでしょうが、一般的な調査隊員であれば魔境の様な場所です」


 ミーアさんがそう言ったところで、チラリと自分の太腿を枕にしてすやすや眠っているリリィを見た。


 猫に近い種族だからなのか、リリィの寝姿もとても可愛らしいんだけど、ミーアさん曰く、そこら辺の一般的な調査隊員よりも強いみたいだ。


 そりゃ、一人で深部を歩き回れるぐらいだし・・・・・・見た目の割に強いんだなぁ。


「ですから、帝国の調査拠点へ出向くには深部を出なければならないのですが・・・・・・少々問題もありまして」

「問題ですか?」

「えぇ、深部の境界線部分にはムゥというモンスターが居るのですがこのモンスターが厄介なのです」


 ミーアさんが取り出したのは一枚の挿絵が書かれた本だった。


 その本には獏のような、鼻の長い二足歩行のモンスターが描かれていた。白黒の獏と違い、ムゥと呼ばれるモンスターは桃色の派手な色合いをしている。


「このムゥというモンスターは相手に幻覚を見せて惑わして来ます。特に多いのが人に化ける幻術ですね・・・・・・このせいで調査基地の人達と接触しても攻撃される恐れがあるのです」

「それは・・・・・・」

「深部から一番近い、第一調査拠点の人間はまず間違いなく攻撃してきます。これは帝国や連邦両方とも変わらないでしょう」


 なんとも面倒な、幻覚を見せるモンスターが周囲に生息しているとなれば、いきなり人が現れたら怪しまれるのも当然だ。


 それでは手立てが無いじゃないか、そう思ったところでミーアさんは一つの解決策を投じてくれた。


「私と共に連邦の調査拠点へ行きましょう。私の顔は広く知られているので問題ないかと思います」


 ミーアさんは全く予想していない事を口にした。





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