第71話 アオの大樹海
村から追い出された直後に比べたら全然平気……
久しく抱いていなかったサバイバル感を否応なしに体験しているソラは、アオの大樹海と思われる場所に飛ばされてから三日間、絶え間なく襲ってくる魔物を討ち倒し、その倒した魔物を解体しては生き残るための食料にしていた。
流石にゴブリンに関しては素材にも食料にもならないが、悲しいことにソラを襲ってくるモンスターの多くがそのゴブリン種たちである。
彼らは汚れた布を腰に巻き、敵を発見次第、蛮族よろしくといった感じで襲ってくる。
どういう訳か、彼らは接敵すると吠えだして己を誇示する習性があるようで、これまでの間ソラは死角から奇襲を受けるということは無かった。
ただ同じ場所にいるだけで嗅ぎ取れる程の悪臭を放ち、天と地ほどの実力差はあるが、嗅覚の鋭い太郎の天敵になりうるかもしれない。
そんなことを思えるほどには今の環境下にソラは順応していた。
「凄いなぁこの森」
巨樹の森はまるでクリスマスツリーを巨大化させたような針葉樹が並ぶように生えていたが、アオの大樹海は乱雑と言えるように様々な形をした木々が所狭しと生えており、太い木の根が地面から隆起して歩きにくい。
湿度が高く、明朝になればほぼほぼ霧に覆われ視界も悪く。ソラがこの森へやって来た二日目には、足元すら見えないほどの深い霧に覆われた。
そんな状態では何処へ向かっているのかすら分からず。下手に南下でもすれば北の大地に存在する神の地、北サンレーア地方から遠のいてしまう恐れもある。
なのでソラはこの特殊な環境になれるため、当初飛ばされた場所からあまり移動していない。
「ある意味一番ファンタジーかも」
鈴蘭のように花弁が垂れ下がって咲いた植物がぼんやりと光を放ち、周囲を朧気ながら照らしてくれている森の中。
その中でも特に立派で巨大な木の幹にポッカリと空いた空間を見つけてソラは生活していた。
その様子はまるで木に巣を作るタイプの鳥になった気分ではあるものの、雨の日でも浸水する恐れもないし、この場所にすみ始めてから三日間は、普段何回も襲ってくるゴブリンも態々木に登って襲ってこないので、早い段階で立地の良い住処を見つけたのは幸いだと言えた。
食事に関しては基本的に肉一択になっている。これも襲ってきたモンスター達を返り討ちにした結果なのだが、このまま放置しておくのも忍びないので出来るだけ食べる様にしていた。
野菜に関しては、野生種の作物を採取して食べてみたけど苦味が強くボソボソとした歯ごたえもあって食べるのを止めた。
(家で作った野菜食べちゃうとなぁ・・・・・・)
特に品種改良したわけじゃないけど、栄養豊かな土地で作った作物と、雑草生い茂る中育った野生種の作物では天と地ほどの差がある。
以前、大量に結実したウリの様な野菜であるポプカの野生種もこのアオの大樹海で見つけることが出来たが、ソラの拠点で採取下よりも数段小さく雑味も多い。
数自体も少なく、ジャングルのようなこの場所で見つけるのも一苦労だ。
なので、探す労力に見合う程美味しいわけではないので、特に率先して食べようとは思わなかった。
そんな形でソラの食事バランスは非常に偏っており、改善したいとは思っているものの、人の気配どころか文明があった痕跡すら無い。
巨樹の森ではソラが生まれた開拓村が周囲にあったため、文明の臭いみたいなものは感じ取れたが今現在ソラが居る周囲にはその様な臭いは存在しない。
「アオの大樹海の奥地には、エルフのルーツとなった古代エルフ人から今は絶滅したとされる希少種の獣人族の生き残りが未だ生活していると言われている・・・・・・か」
日中、深い霧に覆われる日は下手すれば元の住処へ帰れなくなる恐れすらあるので、そんな日は大人しく〈空想図書館〉からアオの大樹海に関する地理を勉強しようと決めていた。
そして、遭難四日目は前日の深夜に雨が降ったこともあって日中から白く深い霧に覆われていた。
【パーム】というホタルの様に光る花が所々咲いており、最低限の視界は確保されているものの、日中の時間帯にしては薄暗く、空は見えないが多分分厚い雲がアオの大樹海を覆っているのだろう。
そんな中でソラはアオの大樹海を調査したとある冒険者の記録を読んでいた。
アルメヒ調査隊が神の地を調査したように、アオの大樹海も大規模な調査隊が派遣された事があるそうだ。
これに関しては、アオの大樹海に面している周辺各国が連名で立てたもので、規模としてはアルメヒ調査隊よりも随分と小さかったようだが、当時としては同盟国でもない国同士が手を取り合って行うようなプロジェクトはまだなく、様々な所からアオの大樹海の調査隊に関する資料が〈空想図書館〉から見つかった。
「ここでもエマネス帝国も入っているんだ」
アオの大樹海を調査した国はエマネス帝国、ソバネ連邦、ハイマ王国・・・・・・と合計五カ国が参加しているようだ。
その中でも、エマネス帝国は黒の陣営の盟主、ソバネ連邦は緑の陣営の盟主となるアルメヒ調査隊でも力を持つ五大国の内の2つが参加しており、当時どれだけ影響力が存在したプロジェクトかが分かる。
二国の共通の敵国であるコーヴィス聖王国なんかは、これらプロジェクトに関して非常に警戒、懸念していたようで外交ルートは勿論、裏社会を通じてこれらプロジェクトを妨害しようとした作戦が書かれたレポートがあった。
コーヴィス聖王国は亜人排外主義の国であり、エルフや獣人は聖王国内では人権が皆無であり、強制的に奴隷の階級に落とされるそうだ。
他にも、亜人狩りというのも行われているようで、所属があやふやな国境付近の獣人族の村を襲っていたりしたみたい。
ソラとしては相容れない存在だとは思うものの、一方で国を支える国民達には優しく、孤児や障がいを持つ人を始めとした社会的弱者を支える社会保障は手厚く。
人族であればコーヴィス聖王国は理想的な国なのは間違いないだろう・・・・・・この点に関してはエマネス帝国の上を行く、とそれら資料を軽く読んだソラは率直に思った。
話を戻し、アオの大樹海の調査隊はそれらコーヴィス聖王国らの妨害もあって深部を始めとした調査は頓挫したようだ。
他の理由として、アオの大樹海には神の地のように見返りが少なく活動資金を支える商人達が乗り気ではなかったというのも大きそうだ。
広大な樹海を調査するため、補給路を確保するのが難しく、その補給路に関しても聖王国から妨害があり、主催国であるソバネ連邦からは自然保護の名目から、大規模に木を斬り倒すのは禁止されており、この調査においてはアオの大樹海西側の一部しか調査されていないようだった。
一方、自分たちのルーツとなる古代種族が存在すると言われているアオの大樹海調査に関して熱を上げているのが主催国であったソバネ連邦で、彼らは調査隊が解散して以降は冒険者を雇って細々と調査をしているようだった。
そして、ソバネ連邦の機密情報の中には、これら単独調査によってソバネ連邦は月兎族という未発見の獣人族を発見したそうだ。
見た目は兎人族と大差無いが、その毛並みは月の様な黄色みがかった色合いをしているそうだ。
これに関しては翻訳機能が便宜上〈月〉と訳しているが、この世界において月の様な衛星は3つばかり存在する。
一つ目は前世でよく見た黄色いお月様の様な衛星〈タオフ〉
二つ目は冬の季節に顔を出す青い衛星の〈ソーラ〉
三つ目が夏の季節に顔を出す赤い衛星の〈マティラ〉だ。
タオフは年中、夜になれば見ることが出来てソーラとマティラは季節によって見えたり見えなかったりする。
話が脱線してしまったが、ソバネ連邦は月兎族という種族を新たに見つけてからはその調査の規模を年々拡大しているようだ。
元々、ソバネ連邦はその領土の殆どがアオの大樹海に覆われており、それらを調査するのは不自然ではない。
むしろ、昔は周辺国を呼んで調査していたことも有り、かつて行われたプロジェクトも上手く隠れ蓑になって、他国では知られていない種族が複数いるそうだ。
中には、戦場を左右するような強力な力を持つ種族も存在するみたいだけど・・・・・・この件に関しては資料が少なく、詳しい情報が分からなかった。
ただ雰囲気的に、ごく最近見つかった様な感じがするけど・・・・・・
(可能性としてはソバネ連邦の調査員に見つけて貰うことかな・・・・・・?)
というわけで、このアオの大樹海において最も確率が高いのはこの樹海を調査しているソバネ連邦の調査員の人に見つけてもらう事だった。
時点で原住民の住処を発見することだろうか。
「参ったな、これがエマネス帝国やサラン公国だったら有り難かったんだけど」
一通り、アオの大樹海に関する歴史や情勢を調べ終わって思ったことは、現在ではエマネス帝国やサラン公国はアオの大樹海には居ない事。
一応、かつて結んだ条約によってエマネス帝国もアオの大樹海を調査することは出来るそうなんだけど、アルメヒ調査隊が結成されたこともあってか、今現在は活動していないみたい。
ただこれに関しては悲報だと言わざる得ない、限りなく可能性は低いけどエマネス帝国であれば何かしらフロウゼルさんらアルメヒ調査隊の関係者と接触を図れるかもしれないし、運が良ければそれらを伝って帰れる可能性もある。
限り無く可能性は低いだろうけど、なんの関係も無いソバネ連邦の人たちと接触するよりは全然可能性はあった。
「まぁ、今も調査されているだけマシなんだろうけど」
先は長そうだ・・・・・・とそう思わずには居られなかった。
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