第69話 家の建築

「凄いわね、この家」


 日中、拠点近くであれば軽く散策出来るようになったアリア。


 念のためシロが側に付き、アリアは小屋の周囲をぐるりと回り見渡す。


「そう?」


 小屋の木の板を撫でながら感嘆、と言った様子でじっくり見るアリアは拠点の西側にあるププ草やカルッサ草よりも小屋の材木が気になるようだ。


 そんなに凄いものなのかな?


 結構な年月が経っているはずなんだけど未だ朽ちる様子もないし、経年劣化で柱が歪んだ形跡もない。


 凄く丈夫な材質で出来ていて、自分が作った向日葵の小屋よりもずっと頑丈だ。


「この小屋を支えている木材、魔法に高い耐性があるわよ・・・・・・調べてみないと分からないけど、木材だから多分軽いでしょうし、盾や防壁に使ったらかなり優秀な物が出来ると思うわ」


 そう言うとアリアはパチンと指を弾いて、その指先に小さな火の玉を出現させ投擲する。


 すると・・・・・・


「本当だ・・・・・・なんか弾いたみたいに消えちゃった」


 ゆらりと燃える火の玉は小屋に直撃した瞬間、分解するように弾けて消えてしまった。


 まるでシャボン玉みたい。


(そんな凄い小屋だったのか・・・・・・)


 やたら丈夫な小屋だなぁとは思っていたけど、魔法にも耐性があるとは思わなかった。


「・・・・・・全然知らなかったって感じね」

「僕が建てた物じゃないしね」


 そう言って横にチラリと視線を移すとそこには今にも倒壊しそうな向日葵の小屋が建っている。


「・・・・・・なんか言ってよ」


 自分とアリアの間にちょっとした間が流れる。


 言ったほうが良いのだろうか?といった様子アリアに、ギクシャクとした空気が漂うのを不思議そうに見るシロ、気にしているんだったらはよ小屋を直せ、と言いたげな様子の向日葵がコチラを見ていた。


「あ、わんちゃん・・・・・・」


 少し気まずい空気が流れている中、厩舎エリアから夜と月の子供達が走ってきた。


「ワン!」


 たどたどしいけど、しっかりと自分の足で歩き全てが興味の対象と言った様子で周囲を散策している。


 春夏秋冬、生まれた男の子二匹に秋と冬、女の子二匹に春と夏と名付けた。


 もこもこと綿毛のような、ぬいぐるみみたいな愛らしさがあり、お花畑で兄弟でじゃれ合っている様は非常に絵になる。


 未だ怖いもの知らずで最近よく俺の足元までやってきて遊びに来たりする。


 そんな子供達をどこか物欲しそうに眺めるアリアと子供たちの間には母親の月が入っている。


 夜はまだしも月の方はアリアの事を凄く警戒している様子で、彼女に対して危害を加えることはないんだけど、子供たちに近づくと吠える。


 そりゃアリアはこの拠点に来たばかりなので警戒するのも仕方ないんだろう。


 ジーッと覗くようにアリアへの視線を外さない辺り、まだまだ打ち解けるには時間がかかりそうだった。









「こうやるんだ・・・・・・」


 小屋裏手のお花畑の片隅には巨大なジェンガのように積まれた木材が置かれている。


 これらはアリアが選定した木々を伐採して丸太を加工して作られた材木だ。


「本来は伐採させた木は乾燥させたりしなきゃ行けないの、水分を含んだまま建てちゃうと板が曲がっちゃうしね」


 一仕事終えて何処か満足げな様子のアリア。


 アリアが用意していたのは建材、小屋が手狭になり家を建てようと思っている旨を彼女に話した所、建てる前に色々と準備が必要だと言うことで彼女の言われる通りに進めている。


「何でこんな事もできるの?」


 今はアリアやシロと一緒に小屋裏手の不思議な木の下で昼食を取っていた。


 今日の昼食はフランスパンのように硬いパン生地に拠点で採れた葉野菜と肉を挟んで甘辛いタレを自作して使っている。


「あっ・・・・・・シロ、口にタレが付いている」

「ん?」


 シロはコピー能力で様々な経験を模倣出来るはずなんだけど、日常生活ではあまりそれらが活用されない。


 シロのコピー元であるアリアは貴族のお嬢様らしく、サンドイッチの様な昼食でも食べ方が様になっているんだけど、一方シロは美味しそうにサンドイッチを口いっぱいに頬張って、口の周りがタレで汚れてしまっている。


 そんなシロの口を事前に用意していた綺麗な布で軽く拭きつつ、先程の慣れた手付きについてアリアに聞いてみた。


「元々は軍所属だったしね、それの関係で一通りのことは出来るわよ」


 そういえばフランクさんも似たような事言っていたなぁ・・・・・・と思いつつ、軍所属の人ってこんな事も出来るんだと感心する。


「フランクさんも似たような事言っていたなぁ」

「フランクが?」


 遺跡事件の前日、フランクさんと似たような話をしたことを思い出した。


 造形魔法を用いて、たった数時間で巨大な拠点を設営した際にフランクさんに色々と話を聞いたことを思い出した。


 あの事件以降、フランクさんと会って無いけど元気にしているかなぁ。


 そんな事を思いながら呟いたんだけど、意外そうな目でアリアが見てきた。


「あぁ、フランクさんってサラン公国の人だっけ?」


 フランクさんも、確かサラン公国の貴族で軍人さんでもあったはずだ。


 そうなれば似たような境遇のアリアと面識があっても不思議ではない。


「貴方がフランクを知っている事に驚いたわ、まさか彼が前線基地に赴任するなんてね」

「そんなに驚くことなの?」


 個人的には貴族様だとしてもそれを鼻にかけない大人の男性、って感じがしたんだけど・・・・・・


「そりゃそうよ、あの人公国の憲兵隊に所属している人よ?間違っても前線基地に来るような人物ではないわ」


 憲兵、って聞くとなんか秘密警察みたいなイメージがある。


 あの柔和なイメージのフランクさんが・・・・・・と思ったけど、アリアが語る感じ的に有名人っぽい。


「フランクさん結構気のいい人だったけど」

「基本的にはいい人よ、ただ・・・・・・」

「ただ?」

「サラン公国で汚職を働いて投獄された軍幹部の3割があの人が摘発して牢屋に送ったの、つけられた二つ名は〈サフィージャの番犬〉」


 サフィージャというのは、フランクさんがそれら罪人を捕まえ送った監獄がある地方の名前の事らしい、サラン公国の北部にある巨大監獄施設の名前にもなっていて、フランクさんはそれら汚職をしている貴族や軍関係者から最も恐れられている人だそうだ。











「数日間は乾燥させないとだし、その間は基礎工事かしらね?」

「基礎ってことは造形魔法でやるの?」


 家を建てる予定地には膝下がうまるぐらいまで地面が掘られており、アリアはそこに幾つかの印となる木の棒を刺している。


「そう、本来なら基礎工事用の土とか欲しいんだけど、帝国で使っている土は特殊だから・・・・・・」


 造形魔法は水と土を使ってコンクリートの様な硬い物質を作る魔法なんだけど、その造形魔法で使う土の種類によって特性が変わるみたい。


「何十年を見越して作るのなら、土は厳選したほうが良いでしょうけど・・・・・・」


 どうするの?と急に問われれば答えるのに困ってしまう。


 今暮らしている場所は過ごしやすいし、お気に入りではあるんだけどこのファンタジーな世界で何が起こるかわからない。


 将来的には引っ越す可能性もあるし、何十年を見越す必要な無いと思う。


「・・・・・・そっか、じゃあ貴方が以前造形魔法に使った場所の土を使うわね」


 アリアはそう言うとその場を離れた。












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