第65話 後日談・前
白の陣営が発見した遺跡調査によって引き起こされた異世界版・蝗害は前世の世界と同様、周囲に凄まじい被害を齎した。
アルメヒ前線基地を支える五陣営の内、白、赤、青の司令官がこの蝗害によって亡くなり、当初300人ほど居た初期メンバーの冒険者の約八割が亡くなったという壊滅的な被害となった。
この事件において最も被害の少なかった黒の陣営でも、それ前から別の件で調査隊が壊滅するという由々しき事態が起こっており、この蝗害を引き起こした昆虫モンスター〈黒翅蝗〉は、これまで人類に壊滅的な被害を与えたモンスターの証である天災級モンスターとして分類されたそうだ。
他にも、〈黒翅蝗〉の残党狩りによってアルメヒ外縁街に多少の被害が及んでおり、それによって一部商人達がアルメヒ前線基地の開発から撤退したなどといった話もある。
「なんというか、人々って逞しいですよね」
「言ってしまえば平等になったわけだからね、これを機に・・・・・・なんて考える国々もあるわけだ」
蝗害事件が収まってから半月、俺は再びアルメヒ前線基地の方へ出向いてきていた。
一緒に基地までやって来ているのは太郎だけで、シロに関しては己の変身元となったアリアを早く復活させたいのか、研究に必要な材料となるププ草とカルッサ草の栽培を頑張っている。
最近、蘇生研究で大量に消費しているので不足気味だし・・・・・・
流石に巨樹の森の拠点でも、ププ草やカルッサ草レベルになると栽培に一週間はかかるので研究に時間がかかる。
アルメヒ前線基地でも特徴的な6つの塔、その中で基地の中心にあり一番巨大な塔でもある〈万色の塔〉はこれまで同様、基地の内政を司る行政機関として使われる予定みたいだけど。
黒の陣営が所有する〈黒の塔〉以外の他4つの塔は蝗害事件によって壊滅的な被害を受けた為、その専用の居住区を破棄して新規参入してきた新たな国々の調査隊にその権利が売り払われたようだ。
ただ白の陣営と仲が悪かった緑の陣営は元々遺跡調査の規模も小さく、他の陣営と比べて被害が軽微だったことも有り、共有と形で残るそうだ。
それと同時に五大国が所有していた権限も解放されたことになる。
「だからといって調査隊の規模は初期に比べれば小さい・・・・・・公表では1000人以上もの調査隊員が存在するが、実際に調査に出れるレベルの冒険者は30人程しか居ないし、それら隊員でもボボスの様な強力なモンスターと対峙すれば為す術がないからね」
蝗害事件と同時に発生したアリア復活の混乱はフロウゼルさんとアリアの声明もあって思っていた以上に収束が早かった。
それ以上に他陣営が壊滅的な被害を受け、大きく混乱しておりそれの対処に追われていたと言ったほうが正しいのだろうか?少なくとも、アリアの祖国であるサラン公国の人達が何も言っていないので騒ぎようが無いと言うのが結論だそうだ。
「何というか、私としては純粋無垢で汚れを知らない子供の様な人物だと思っていたけど・・・・・・この地で生きるだけあって、君も油断ならない人物なんだね」
黒の塔の応接間、先の混乱で忙しい毎日を送り最近になってやっと時間が作れるようになったフロウゼルさんとの久しぶりの会談。
給仕の人に注がれた紅茶を飲みながら、不敵な笑みを浮かべてフロウゼルさんはそう言う。
「そうですか?」
「そうだよ、これでも様々な人間と顔を見てきたけど君ほど油断ならない人物は他に居ないよ」
フフフと意味深な笑みを浮かべるフロウゼルさん。
シロとアリアの一件以降、フロウゼルさんやその他黒の陣営の人達はこの件に関して一切話しを聞いてこようとはしてこなかった。
寧ろ、この件に対して話すことを避けているというか・・・・・・まぁ、自分が基地へ来たのが事件後初めて・・・・・・っていうのもあるだろうけどここまで聞かれないとなると何処か拍子抜けしてしまう。
「アーシェも言っていたよ、君は私達の想像の上を行く人だって」
「アーシェさんが・・・・・・」
ボボス襲撃事件後、フロウゼルさんと一騎打ちを行った際に修練場で一度見かけたきりだったんだけど。
今回の蝗害事件によって調査隊が再編された結果、アーシェさんも隊を指揮する事になったそうで、黒の塔に向かう際にも元気よく部下の人達を引き連れてマラソンをしていた。
その姿は前見たときよりも何処か大人びており、彼女雰囲気が変わりましたねとフロウゼルさんに伝えたら、それは彼女が成長したからだろうと言われた。
「ただ悔しがってたぞ?アーシェは平民の出身だからどうも言語習得に困難しているようだ。勉強は苦手だ!ってつい昨日嘆いていたぐらいだしね」
「ふふっ、想像してみると少し笑っちゃいますね」
アーシェさんが古代魔法言語を勉強するように、自分もこの大陸で使われている大陸共通語なる言語の勉強をしている。
文字自体は能力によって分かるので思っていた以上に学習が進んでいるとは思うんだけど、一つの言語を覚えるとなればそれ相応の時間がかかる。
寧ろ一ヶ月足らずで習得したフロウゼルさんがおかしいのであって、その場に同席していたカエラさんが苦笑いしていたのも納得だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます