第64話 神話に出てくる魔法
彼女の復活は実際やってみないと分からないので、この場で確約は出来ないと正直に伝えた。
そこに関してはアリア自身も承知の上でダメ元でやってみるだけで良い、と言ってくれたのは自分として正直助かった。
出来もしない約束をするのは心苦しいしね。
ただ一方でアリアの復活関連の研究は自分自身、楽しみでもある。
誰かに依頼される形の研究は初めてだからかな?
今回の研究で蘇生薬や再生薬の効果を確認するには良い機会だと思うので今回の話を引き受けた。
ただの生き物に使ったら危ないと思うんだよなぁ、あの薬。
自分で使うならまだしも、効果を調べないで太郎達に使用するには怖すぎるし。
なので彼女と結んだ約束は、アリアがこの騒ぎを収束させる代わりに俺がアリアの復活するための研究を行うといった形だ。
正直言うと、復活はかなり難しいと思う・・・・・・単純にアリアの身体が無いのでそこから研究する必要があるだろうし。
しかし、本当に出来るのかな?神の薬の一つである〈再生薬〉は切り落とされた腕を再生させ、残っている記録の中で特に凄い事例だと上半身だけ残った遺体を復活させたそうだ。
本当に大丈夫なのか?この薬。
といっても、前に〈再生薬〉と〈蘇生薬〉を混ぜた劇薬を飲んだわけなんだけど・・・・・・
その体験からやっぱりこの薬、大丈夫じゃないやつだと思う。
・・・・・・話が脱線した。
『言っておくけど、私が説明することによって全員を納得させるのは不可能よ、今回はフロウゼルさんと私で合同の声明を出すことに意味があるの』
聞けば、黒の陣営のトップはフロウゼルさんで名声、実力、家格全てが揃っているので彼女がこの陣営のトップだということは誰もが認める事だ。
なのでフロウゼルさんが白、と言えば黒の陣営の人達は白としか言えないので、本来はフロウゼルさんの裁量だけでどうにかすることも出来る。
ただここで問題になってくるのが、黒の陣営のナンバー2に位置する陣営だ。
黒の陣営の力の大半は、フロウゼルさんらエマネス帝国で占められているんだけど、残りの諸勢力の人達を納得させるのが今回の狙いだ。
今回の件は今後の関係にヒビが入るかもしれないので、ちゃんと関係修復したいと思っている。
そしてその諸勢力の中で最も発言権があって、今回の件に関してある意味当事者とも言える陣営が、アリアが所属していたサラン公国になる。
『私はサラン公国の元首であるサラン公爵家の直系に当たる人間よ、この基地では公国の冒険者達を纏めるのはガレオという男なんだけど、組織的には私がトップになるわ』
なので、黒の陣営のトップと当事者となる国のトップが口を揃えて収束を図れば騒動は収まるという寸法だそうだ。
『遺跡調査に出ていたのはエマネス帝国とサラン公国の冒険者だけよ、ある意味不幸中の幸いと言った感じかしら?』
シロが放った魔法に関しても、他国の調査隊から詰問されはするだろうが、重要な情報を他国に与える馬鹿はいないので問題ないんだそう。
寧ろ、黒の陣営の切り札としてあの魔法があると思われることは都合がいいそうだ。
本当に大丈夫なのかな?
結構強引に事を進めている気もするけど。
情報操作とか、内部から情報が漏れちゃったりしないのかな?
俺が抱いた疑問にその可能性は少ないだろう、と彼女は言う。
『貴族の言葉は、貴方が思っている以上に重要なの・・・・・・余程のことが無ければ平民は逆らえないし、逆らう場合も国から出る覚悟が必要になってくるわ』
『だから貴族の人間が死ね、と命令すれば命令を受けた平民は皆死ぬの・・・・・・そうしなければ家族がどうなるか分からないから』
まぁ、これは極論だけどね?と言うけど、その言葉には何処か真実味があって、彼女が喋った言葉に思わず背筋がゾクッとする気がした。
貴族の人間が言うことは絶対、自分は大丈夫でも親族一同に何があるか分からない、貴族社会で生きていくという事はこういうことだとアリアは言った。
そして俺の背筋を更に凍らせたのが、その後にフロウゼルさんが黒の陣営の人達に通達した『特殊要項』の内容だった。
「
『えぇ、今回の特殊要項はこの制約魔法を受けない者は捕縛され一定期間監視されると言うものよ、本来は別の用途で使うものなのだけど ・・・・・・』
困り顔で話す内容にしてはかなり物騒な事だった。
アリアさんでも今回、フロウゼルさんが通達した内容は予想外だと言う。
制約魔法とはその名の通り、対象者に制約という縛りを結ばせると言うもの。
ある意味、前の世界で言うところの〈指切りげんまん〉の誓いを魔法にしたもので、約束を破るとそれ相応の報復があるそうだ。
本来は国の中枢で働く役人や軍の特殊部隊の人とか、国家機密のように重要な情報を知る人間に対して使うそうなんだけど、フロウゼルさんからすれば、今回の件はそれに当たるそうだ。
これに関してアリアも驚き、この特殊要項があるなら態々私との約束をしなくてもいいんじゃない?と言うけど、個人的にもアリアの人体錬成や蘇生研究はやりたいと思っている。
この蘇生技術が今後役立つ可能性があるかもしれないし・・・・・・
出来れば役立つ機会が無いことを祈ってはいるんだけど。
話を戻すと、この制約魔法は本来冒険者に対して使うような物ではなく、この魔法はその効果の内容もあって凄く嫌われる。
そりゃ、約束破ったから死ね!みたいな魔法をかけられたら怖いし・・・・・・
実際は約束を破ったことを知らせる魔法が発動したりするみたいだけど。
しかもこの魔法はめちゃくちゃ難しいらしく、消費する魔力も馬鹿にならないので滅多に使われることが無いんだけど、今回はフロウゼルさん直々に行うそうだ。
なので黒の陣営の人達は事が収束したら全員一度監禁されるみたい。
人間関係って凄く複雑だと思った。
『そろそろ貴方の従魔の意識が戻るみたいよ』
何処か眠たげな様子でこちらの目を見てくるアリア。
全てに納得したわけじゃないけど、言葉が通じる人も少ないし、騒動をを起こした側でもあるので、フロウゼルさんらのやり方に文句を言いにくい。
無断で他人の容姿や能力をコピーしちゃった訳だし・・・・・・
この世界に著作権とか肖像権とかあったらヤバそう。
自分が居心地悪そうにしていたのを気にしたのか、元は学者を目指していたという彼女はシロの記憶を元に、巨樹の森にある拠点周りのついて、様々な考察を語ってくれた。
先程まで私を復活させなさいや平民は命令されたら死になさい、と言った人と同一人物とは思えない変わりようだ。
残された少しの間で交わした会話だと、アリアは未知の発見や研究が好きな・・・・・・ある意味、誰よりも冒険者らしい人だと感じた。
出会ったばかりなのに、どうも自分は彼女に対して親しみを覚えている。
見た目がシロと一緒だから?
人には言えない秘密を共有しているから?
言葉が通じるから?
彼女と年齢が近いこともあるかもしれない、基地の人々は殆どが年上だし。
うーん、どうも無意識のうちに彼女に対して警戒が薄れているようだ。
気をつけないと。
フロウゼルさんとアリアの連名で書かれた見事な筆跡で描かれた純白の手紙は、ガレオという巌の様な大柄の男性が大事そうに受け取っていた。
この人がアリアに代わってサラン公国を指揮する人物だそう。
そのガレオさんは古代魔法言語を話せないので、どんなやり取りをしたのかは分からないけど、その表情は何処かスッキリしていたので多分大丈夫なのかな?
全員が納得するわけじゃないだろうけど、ガレオさんの様子を見る限り、多分大丈夫そうな感じはする。
そして、アリアの意識が無くなる直前―――――――
「ちなみに、今回手紙に書いた内容ってどんなやつなの?」
『今私が存在しているのは、適性を持つ女性による降霊術の成果、とだけ言ってあるわ』
「降霊術?そんなのがあるんだ」
ほへー、と〈空想図書館〉で色んな本を読むことが出来る自分でもまだ知らない魔法があるんだなぁって思っていたら。
『無いわよ』
「へっ?」
『降霊術なんて魔法は存在しないわ、大陸西方に降霊術が存在したみたいな記述があったようだけど、実際は悪魔を召喚する儀式魔法だったみたいだし』
物騒よね、と語るアリアは今回の件を有りもしない架空の魔法をでっち上げて今回の件を言い逃れるようだ。
あんぐり、と言った様子で彼女を見ていたら何を今更と言った様子でこう言った。
『今回、神話に出てくるような大魔法が実際に使われた訳なんだし、降霊術ぐらい信用するでしょう?今なら』
確かに・・・・・・と俺はアリアが話した言葉に妙に納得してしまった。
シロが使った魔法は森の西側を凍らせ、その距離は遺跡まで到達しているそうだ。
周囲を軽く調査した結果、シロが放った魔法の範囲内の土地はあらゆるものが芯まで凍りつき、青々としていた草木もパキリと割れる程だという。
空を飛んでいた黒いイナゴ達は地面に衝突した際に粉々に砕け、地を走っていたイナゴ達もその場で凍りつき、未だ溶ける様子も無いそうだ。
まさに一面が銀世界となっており、風が吹いても草木が揺れるざわめきは無く、その場所だけ時が止まったかのように静寂が広がっているそうだ。
当然、これだけ広範囲で強力な魔法は歴史の中でも前例がなく。
まさに神話に出てくる魔法だと、森を調査した人達は皆口を揃えてそう言ったそうだ。
そんな魔法が使われているのなら、眉唾物である降霊術が存在してもおかしくは無い・・・・・・言ってる事はなんとなく分かるけど、どこか腑に落ちない気持ちになった。
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