第58話 運命の分かれ道

 暑い・・・・・・


 全身に確かな重みと触り心地の良いもふもふとした感触に何処か温もりを感じる。


 季節は夏を迎えようとしていて、早朝でも布団を被れば暑苦しい、ましてや電気毛布となれば熱中症になりかねない。


 まるでサウナの中に居るようだ・・・・・・と思い、目を覚ましてみれば自分を覆う様にお腹の上で眠るシロの姿が。


 その姿は小さい頃の太郎を思い出す。


 気持ちよさそうに寝ているのは良いんだけど、流石に暑すぎる。


 ベッドの両脇には夜と月が占領しており、身体を包む形で眠っていた。


 二匹とも自分の腕を枕にしている。


 隣で寝ているのが綺麗な女性だったら、さぞかし世の男性たちは血涙を流す様に羨むんだろうけど、隣で寝ているのは可愛らしい黒い毛並みの狼三匹だ。


 冬だったら大変ありがたいんだけど、夏に近づく季節だと流石にキツイ。


「ほら、シロ・・・・・・起きて」

「んぅ?」


 狼の姿になっても普段は人間の姿で生活しているので、人間らしく前足を使って目を擦る仕草は何処か新鮮、昨日はちゃんと狼に擬態していたシロだけど、流石に寝起きとなると注意力が散漫になるようだ。


「・・・・・・!」

「ハハッ、今は大丈夫だよシロ」


 やべっと言った感じで顔をきょろきょろさせて周囲を確認するシロをみて朝から笑い声が出てしまう。







「うわっ、凄い人の数」


 昨日の夜に初めて会ったフロウゼルさんの召使いの方に連れられて、黒の陣営の隊員達が大勢集まる広場へやってきた。


 遺跡から撤収することは昨日のうちに指示されていたのか、俺とシロ達が泊まっていた建物以外は既に解体されており、解体された建材が大型従魔の背中に乗せられている。


「lapyipo!;l%」

「apoy15lk;u3」


 広場の先頭にはフロウゼルさんが少し簡素な作りの椅子に座り、腕と足を組みながら全員の集合を待っていた。


 ただ普段と違い、何処か乱暴な座り方をしているフロウゼルさんを見て俺は昨日に比べて機嫌が悪いのかな?と思った。


 フロウゼルさんは少しピリつくような雰囲気を発していて、彼女の周辺には誰も近寄らない。


 ただその代わりに事情を知っているフランクさんが未だ納得ていない黒の調査隊の人達から詰問を受けていた。


「pay2ao;kz%」


 フランクさんが喋っている言葉が分からないので、雰囲気でしか予想出来ないけど多分、昨日到着したばかりなのに何故基地へ戻るのか!?といった感じかな?


 納得言ってないのか、情報共有が出来ていないのかは分からない。


 ただ広場で待機している人達を軽く見渡す感じ、全体的には命令だから従うといった感じでフロウゼルさんの指示を待っていてその間、親しい間柄同士で雑談をしているみたいだ。


 一方俺の周囲には誰もいない、シロ達が俺を囲んで警戒しているけど、広場へ案内してくれたフロウゼルさんの使用人の人達は見える範囲でこちらを見ていた。


 シロ達が怖いのかな?


 頭を撫でたら千切れんばかりに尻尾を振る可愛いワンコみたいな狼だけど、初めて見ると怖いかもしれない。







「seo8ga;l.!!」


 騎乗従魔に乗ったフロウゼルさんは号令をかけると調査隊の人達は動き出す。


 俺は何時ものように最後尾、前方の人達が動きだしたのを確認してから歩き始める。


 なんか小学校の頃に行った遠足をふと思い出した。


 綺麗な自然に大きなカバンを背負って歩く感じ、どことなく懐かしい気持ちになる。


 ただやっていることは危険地帯を歩いているわけなんだけど。


 それでも遺跡へ来る時に一度歩いた道をただ戻るだけなので、行きに比べて何処か和やかなムードだ。


 だから遠足だと錯覚したのかもしれない。







「フランクさん、お疲れ様です」

「い、いえ・・・・・・これも仕事ですので」


 出発してから数十分、巨大な遺跡も見えなくなり、話し相手も居ないのでそろそろ暇になり始めた頃・・・・・・


 隊の中央から下がるように近づいてきたのは、何処か疲れた様子のフランクさん、彼の額には大量の汗が付着している。


 ふぅ、とフランクさんが軽く息を吐いていた所で俺は話しかけた。


「やはり納得いっていない人が多いんですか?」

「いえ、ほとんどの隊員は指示に従うだけなのですが・・・・・・一部のが隊員が弱気だ!と言うものでして」


 聞けば広場にてフランクさんに言い寄っていた人達は黒の陣営でもタカ派と呼ばれる人達なんだそう。


 主にエマネス帝国出身の武闘派の人達が騒いでいるみたい、中にはフランクさんよりも階級が高い人物も居たそうで説得にとても苦労したそうだ。


 まさに異世界の中間管理職。


「その人達はどうしたんでしょう?」

「残りましたよ、監視が必要だって事でフロウゼル様に直訴して遺跡に残りました」

「凄いですね」


 広場に居たフロウゼルさんは有無を言わさない威圧感があった。


 それこそ、どこかの銀河帝国の皇帝だって言われても納得するほどの覇気で、昨日の夜、俺とフランクさんに苦労話をしていた人とは思えない変わりようだ。


「それとソラ殿に報告がひとつ」

「?、なんでしょう?」

「後一時間もすれば、遺跡の最深部が調査されるそうです」

「・・・・・・なるほど、そういう事でしたか」


 昨日、俺がフロウゼルさんとフランクさんの二人に伝えた嫌な気配の発生場所。


 遺跡の地下深く、龍脈が流れている遺跡の最下層から嫌な気配を感じ、今日その遺跡の地下部分を調査するという。


「だからこんな朝早くから出発したんですね」

「はい、フロウゼル様がもし、万が一があるなら今日行われる調査で起こるだろうと」


 遺跡に到着する前に、フロウゼルさんら黒の陣営の人たちに遺跡から嫌な気配を感じると伝えたんだけど、結局その後、何か変な事が起きたわけじゃない。


 そりゃ一ヶ月以上も遺跡調査をしていて、従魔達が怯える以外は何も異変が起きていないのだ。


 それでも俺が喋った言葉を聞いてフロウゼルさんはずっと遺跡周辺を警戒していたみたい。


 ただ現地民の話を鵜呑みにして、やっとの思いで出来る遺跡調査を取りやめにする事も難しい、自分自身だけならまだしも調査隊の隊員たちを全員説得することは難しい・・・・・・そうフロウゼルさんは考えていたそうだ。


 そして遺跡へ到着した夜に、俺が遺跡の地下深くから嫌な気配を感じると伝えた所、何かを感じたのかフロウゼルさんは早期撤退を決めたそうだ。


肝心の遺跡調査も、主導権を握る白の陣営が人工龍石生成装置の発見によって調査が出来なくなったことも大きい。


 それでもフロウゼルさんの行動は俺の言葉を信じてくれての事なんだけど、もっと今になって俺がもっと要領よく伝えられたら良かったなと思う。


 そして問題の遺跡地下最深部の調査が本日の午前中から行われることを知り、フロウゼルさんは基地への帰還を急いだみたい。


「本当なら何事も起きなければいいんですけど・・・・・・」


 黒の陣営と一緒に行動して、今回様々な妨害をしてきた白の陣営の人達に少し思う所はあるけど、どこか無事であって欲しいと思ってしまう。


 出来れば全員仲良くして欲しい、と思ってしまうのは甘えなのだろうか?


 ただ・・・・・・


 その願いは叶わないという事を次の瞬間、分かってしまった。



 ドオオオオォォォン!―――――――――――



「apyo4!!?」


 地面を鳴り響かせる轟音と共に森が揺れる。


 何事だ!?といった様子で俺を含めた調査隊全員が轟音の発生場所の方角を見る。


 そこに映し出されていた光景は・・・・・・


「何あれ・・・・・・」


 遺跡がある方角から、まるで間欠泉が吹き出すように謎の黒い物体が次々と溢れ出ている。


 その勢いは凄まじく、周囲に拡散するように飛び散り段々と遺跡を覆っていた。


「フランクさんあれは!?」

「分かりません、ただ非常にマズイのは間違いないでしょう!」

『;ap9y ai!!』


 突然の出来事で戸惑う隊員たちの声を遮るようにフロウゼルさんの大声が周囲に響き渡る。


 遺跡のある方角からは、濁流の様な大きな音が聞こえてくるが、それでも俺を含めたその場に居る全員がフロウゼルさんの方向を見た。


「pag84;ln4k!!」

「走ってください、ソラ殿!そのままご自身の従魔に乗って先へ行っても構いません!!」


 フロウゼルさんが何かを喋った後、止まっていた調査隊が一気に動き始めた。


 隊員の人達は全員持っている荷物をその場に捨てて走り始める。


 一緒に歩いていた大型従魔に乗せられていた建材も全て外され、テイマーの方から鞭を叩かれるように従魔も全速力で走り始める。


「本当に、何が起きているんだ・・・・・・」


 フランクさんに腕を引っ張られる形で走りながら後ろを見ると、遺跡から吹き出してきたのは黒い生命体。


 が空を埋め尽くさんばかりに大量に飛んでいた。







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