第56話 異世界料理と謎の装置
調査隊が到着した頃には、既に周囲は暗くなっていたけど、隊員の方たちが迅速な作業のお陰で二時間も経たない内に立派な仮設住宅が建設された。
「ソラ殿、夕食です」
「ありがとうございます」
贅沢にも俺とシロの三匹がのびのびと過ごせる一室を貰い、夕飯を持ってきてくれたフランクさんが部屋に入ってくる。
「凄い技術ですね、二時間程度でこんな立派な家が建てられるなんて」
「迅速な建築技術は古来より培われてきましたので、そう驚くことじゃ無いですよ、先人たちの賜物です」
持ってきてくれた木のお皿には白い湯気が立ち昇っており、と美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。
シチューの様な白濁としたスープにはごろっと大きな鶏肉と細かく刻まれた色鮮やかな野菜が入ってとても豪華な夕食だ。
こういう僻地での調査の食事って質素なイメージがあるんだけど、違うのかな?
「本来であれば遠征時の食事はもっと質素なのですが、幸いにも基地からも近いですし、補給路も確保されています。他に長期の調査でもないのでこうやって良い食事を出せるんですよ」
部屋の隅には丸いテーブルに二つの椅子があって、フランクさんはもう片方の空いた椅子に座る。
「質素っていうとどんな食事なんでしょう?」
「やはり保存食が多いですね、塩気の多い干し肉だったり乾パンが基本となります」
フランクさんはそう懐かしむ様に話すと、続けて厳しい長期遠征の時の話をしてくれる。
高温多湿の場所で保存食が全部駄目になったりだとか、死にものぐるいで現地の動物を狩りに走ったりだとか、フランクさんもこれまでの冒険者人生で様々な経験をしてきたみたい
自分としてはその様な経験が少ないのでちょっと羨ましい
「キツイことの方が多かったですけど、やっぱり冒険は良いものですよ」
大陸で戦争が落ち着き、様々な地域へ行けるようになったこの時代において、今でも様々な新発見があるそうだ。
「アルメヒ調査隊の他にも、カリド遠征隊も発足して冒険者の奪い合いが発生していますね、流石に神の地を調査できるアルメヒ調査隊の方が人気が高いですが」
「カリド遠征隊ですか?」
「はい、アルメヒ調査隊は人類最後の秘境である神の地、北サンレーア地方の調査ですが、カリド遠征隊は大陸の外、つまりは大海原を航海して新大陸を発見することにあります」
「大航海ですか、楽しそうですね」
前世でも航海技術が発達して、当時、覇を競っていた列強達が新天地を求めて大海原に出たと言うのは歴史の授業で聞いたことがあるけど、この世界にも似たような事が起きているんだなと思った。
「ただ難しいですね、外海への航海となるとそれ相応のリスクがありますし、絶対に新大陸を発見できる保証もありませんから」
逆に言えば、アルメヒ調査隊の神の地の調査は、かつてこの地を調査した伝説の冒険者アスラーがS級聖遺物を祖国へ持ち帰った実績もあるので人気が高いそうだ。
一方、カリド遠征隊は主に海に面している海洋国家や大陸周辺に浮かぶ島国が主軸となって結成された組織みたいなんだけど、どうも規模はアルメヒ調査隊に比べたら劣るそうだ。
主要な国は全部アルメヒ調査隊を支援しているみたいだし
それでも異世界の海、ちょっと見てみたい
ずっと森の中で暮らしてきたから、太郎達を引き連れてキャンプしてみたいなぁ
「やぁ、我が国の料理はどうだい?」
「あ、フロウゼルさん」
俺は調査隊の人間ではないので、自由に歩くことが出来ない
なので割り当てられた部屋で待機することしか出来ないんだけど、代わりに言葉が通じるフランクさんが来て直近の情報を教えてくれる。
「これはフロウゼル様、どうなされましたか?」
正面の席に座るフランクさんは、フロウゼルさんの急な訪問は想定外だったようで目を見開いて少し驚いていた。
「他陣営と顔合わせをしてきたところだよ、ここへ来たのはその帰りだ」
フロウゼルさんの後ろには武装しているけど何処か緊張した面持ちの違和感のある冒険者の女性が二人、それぞれ食べ物の入ったお皿と椅子を持っていた。
「彼女たちは私の召使いだよ、実家から連れてきた召使い兼冒険者なんだ」
フロウゼルさんが後ろに控える女性二人の紹介をすると、召使いの女性達はペコリとこちらへ会釈してくれた。
「顔合わせの方はどうでしたか?」
「それなんだがね」
フランクさんが先程行われた顔合わせについて問うと、フロウゼルさんは眉をひそめて話し始める。
「遺跡内部の調査は無理になりそうだ。今日の夕方頃にとある装置を見つけたみたいでね」
「とある装置?」
急に遺跡調査が出来なくなるなんて、一体何があったかと言えば今日行われた遺跡内部の調査にて今後左右するであろう遺物が見つかったそうだ。
「龍脈エネルギーの結晶化装置、いわゆる魔石生成装置の様なものだよ」
魔石?俺は思わず首をかしげるが、一緒に聞いていたフランクさんの顔がこれまでにない程驚いた表情をしていた。
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