第54話 嫌な気配
エマネス帝国もコーヴィス聖王国も、大陸中央部に位置する大国で、それぞれの陣営に取り巻きのような形で様々な中小国家が存在し、この二国で大陸の3分の1程の勢力を有しているそうだ。
なので、エマネス帝国とコーヴィス聖王国は五大国の中でも突出した存在で、それぞれ黒の陣営と白の陣営と呼ばれる。
他に、大陸南部に存在する赤の陣営〈カサレア王国〉、大陸北東部に存在する緑の国〈フォーラン連邦〉、大陸北部に存在する〈サンレーア王国〉を合わせて主要五大国と呼ぶそうだ。
(こう思うと、フロウゼルさんってすげー大国のお姫様だったんだなぁ)
こうやって森を移動しながらフランクさんの話を聞いていると、最初に対応してくれたフロウゼルがどれだけ凄い貴族なのかが分かる。
大陸でも有数の大国の三つしか無い大貴族の次女で、フロウゼルさんの東アーマレア公爵家の領地は下手な小国よりも大きいそうだ。
つまり、俺はそんなお姫様をあろうことか拘束し、強く締め付けてしまったことになる。
一節には、夫ではない男が貴族女性の肌に触ってしまった場合、最悪死刑もあり得るそうだ。
こわい
「ソラ殿の心配及びません、私はその場に居ませんでしたが、問題になっていれば今こうやって共に歩くことが出来ていないでしょう?」
「確かにそうですね」
フランクさんが言うことはもっともな話だった。
発見された古代遺跡がある場所は、アルメヒ前線基地からそう遠くはないと言われており、徒歩でも昼過ぎには到着できる距離だそうだ。
黒の陣営の調査隊が進む進路には、森で迷わないための印が木に付けられていて、何やら文字が書かれているんだけと見た感じ遺跡までの距離を表しているのかな?
印に書かれている文字は数字の類だと思う
そしてある一定の境目を通った瞬間、急に全身を撫で回すような寒気が襲ってきた。
「?」
「ソラ殿、どうかなさいましたか?」
一瞬、足を止めてしまったので隣で会話をしていたフランクさんがこちらを心配そうに見てくる。
この感じ・・・・・・
「嫌な気配がこの先から感じます・・・・・・この感覚に襲われているのは自分だけじゃないかと」
隊の進行方向の先から感じる嫌な気配、何とも形容しがたい不気味な流れが漂ってくる。
なるほど、だから始まりの森の西側にモンスターたちが住み着かないのか
フランクさんや他の調査隊の隊員の方々は特に気にしていない様子、ただ一緒に連れている従魔達が一斉に騒ぎ出したことで少し戸惑っている様子だった。
「わぅ・・・・・・」
「夜、お前もこの嫌な気配を感じるかい?」
一緒に連れてきた、シロ達もこの嫌な気配を感じて周囲を最大限に警戒している。
シロに関しては狼モードでも「ん」しか喋れないので、人がいる前では喋らないことをお願いしているんだけど、シロの表情を見れば明らかに何か言いたげにこちらを見ていた。
シロ達を落ち着かせるように、俺は三匹の背中を優しく撫でる。
やっぱりシロ達は気持ち良い毛並みをしている。
寧ろ、シロ達を撫でた事によって自分が落ち着いたぐらい
『;laohya!!』
隊の先では何の言葉かは分からないけど、フロウゼルさんの声が響き渡り、それと同時に隊の移動が止まった。
「ソラ殿、一旦ここで休憩だそうです。どうやら従魔達が騒がしいようで」
「それはそうでしょう、この先から嫌な気配が感じますし」
「嫌な空気?・・・・・・いや、詳しく聞いてもいいでしょうか、フロウゼル様にもその嫌な気配とやらを教えて頂きたい」
フランクさんの顔は先程の雑談していた時と違って、至って真剣そのもの、少し思案した様子を見せると隊の中心に居るフロウゼルさんを呼びに行った。
調査隊の人はこの嫌な気配を感じないそうだ。この感覚が俺自身だけ感じていたら、フランクさんもそこまで重要だとは思わなかったかも知れない
ただ隊の機能が麻痺するほど従魔達が怯えている。特に酷いのが戦闘能力を持たない輸送従魔達だった。
彼らは戦闘能力がない代わりに、大量の荷物を運搬することが出来て索敵能力も総じて高いので影響を一番受けているようだった。
小休憩を挟み、調査隊のテイマーの方々が興奮状態の従魔達を抑えている中、森の中でも少し開けた場所に陣幕を張り、フロウゼルさんを始めとした隊の偉い人間が集まって緊急会議が開かれた。
「ソラ君、君が言う嫌な気配とはどんなものだい?」
陣の中には、長方形の簡易的な机が置かれ側面に3つずつ、正面に1つずつの計8つの椅子が置かれている。
正面側の席にはフロウゼルさんと自分が座り、自分から見て右奥にフランクさんが着席している。
両側に並ぶ人達はフランクさん以外殆ど面識が無いけど、全員が武装して真剣な眼差しでこちらを見ているので、どこか軍法会議にでもかけられている様な気持ちになる。
「遺跡に段々と近づく事に遺跡の方から嫌な気配を感じるんです。言葉に表しにくいんですが、余り近寄り難いです」
「apayaejl;jl! kfya maklayi ;auikuuco」
フランクさんが俺の言葉を訳し、会議に参加する人達に伝える。フランクさんの言葉を聞いた人達の反応は訝げにこちらを見る人や興味深そうに見る人と様々
そりゃいきなり嫌な感じがすると言われても信じられないのは仕方がないと思う
自分自身、明確な理由が分からないんだし
疑われてもしょうがないと思うけど、俺以外に隊に連れてきている従魔達が怯えていたりしているのは事実
「・・・・・・従魔達が怯えるという話は既に遺跡へ向かっている調査隊から事前に報告があった。ただこれに関しては原因が不明なんだ」
「従魔達が怯えているのは、絶対この嫌な気配でしょうね」
「そう、その嫌な気配というのが私達には知覚出来ないんだ。魔力のオーラでも無く、モンスターが発する警戒臭などでも無い、ただ遺跡の近くには龍脈が流れていることぐらいしか変わった所が無い」
「龍脈ですか?」
龍脈、というフロウゼルさんの言葉に俺は疑問符を浮かべる。
「龍脈は確かに珍しいものだが、滅多に見つからない訳では無いし、龍脈があるからと言って従魔達が怯える物ではないんだ」
フロウゼルさんが言うには、龍脈とは地下に流れる魔力とは異なるエネルギーの事を差すらしい
一節には生命エネルギーとも呼ばれ、龍脈が流れる地域は植物が富み、肥沃な大地が広がるのだそう
逆にその龍脈が存在する場所には強力なモンスターが発生しやすく、危険な場所だともいう
「でも、龍脈が流れているってことはモンスターが集まりやすいということですよね?じゃあ何故、遺跡近くにはモンスターが寄り付かないのでしょう?」
「現在分かっている範囲では、その遺跡は龍脈を制御もしくはエネルギーを貯蔵する施設だったという説が出ているそうだ。」
龍脈エネルギーを使う施設、旧人類が存在した時代は優れた魔法科学が発達した人類最盛の時代とも言われたようで、現代では用途が不明な技術が存在するみたいだけど
土地を豊かにする龍脈エネルギーがある場所が何故、こんな嫌な気配を発するのか、その理由が全然分からなかった。
「・・・・・・ただこのまま隊を留めておくのも無駄な時間だ。従魔達が落ち着き次第、遺跡に向かって出発する。ソラ君すまないね」
フロウゼルさんは立場上、俺に対して謝罪するという事はしないけど、この場においてフランクさん以外に言葉がわかる人が居ないので、言葉だけ謝ってくれる。
これで俺がちゃんとした理由で止められるのなら良いんだけど、この嫌な感じは本能的な感覚なので、理由を喋ることが出来ない
ただこの胸騒ぎが杞憂になることを祈るだけだった。
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