第53話 エマネス帝国とコーヴィス聖王国
「ソラ殿!」
夜が〈影縫い〉を使い、襲ってきた従魔を鎮圧すると周囲は一瞬静かになった後、フランクさんの声が周囲に響いた。
「お怪我は!?」
「この通り大丈夫です。こちらの従魔もウチの夜が抑えてくれているので大きな怪我はしていないかと」
俺とフランクさんの横には夜に首元を噛まれ地面に押さえつけられている状態のコランさんの従魔
見た感じ血とかは出ていないようなので、夜も本気で噛んでいるわけでは無さそう
もう片方の従魔も押さえつけられて少し冷静になったのか、呼吸は荒々しいものの暴れる様子はない
「a;yoraj !!」
フランクさんと話をしていると、それを遮るかのように向かい側から俺を襲ってきた従魔の飼い主であるコランさんがやってきた。
その様子は当たり前だけど、あたふたと混乱している様子が伺える。
「ありがとうな夜」
「ワン!」
コランさんから謝罪を受け、落ち着きを取り戻したコランさんの従魔は予定を変えて基地の厩舎で休まされることになったそうだ。
一連の騒動でコランさんの静止を振り切って襲いかかった事に問題があるそうだ。従魔登録は抹消され、再度訓練をすることになるそうだ。
一方俺と俺を助けてくれた夜に関してはお咎めなし、正当防衛と言うか形で処理されて、問題なく隊の一番後ろについて遺跡に向かっている。
「本当にモンスターが少ないんですね、遺跡には何か特殊な装置でもあるんでしょうか?」
「いえ、先に調査を行っている者達からはその様な報告はございません、ただ遺跡の周囲一帯にはモンスターが寄り付かないとだけ・・・・・・」
隊の最後尾には、俺と会話が出来るフランクさんが居るので移動中暇になることはない、フランクさんは最近基地で起きた出来事や遺跡発見までの経緯について話してくれる。
その会話の中にはアルメヒ前線基地の派閥関係や、結成の成り立ちといった興味深いのもあった。
アルメヒ調査隊は第一から第五までの5つの調査隊があって、それぞれ五大国が主軸となって調査を行っているそうだ。
今のところ、調査隊は神の地の最終地点と呼ばれる〈マガス山脈〉とその麓に存在する〈巨樹の森〉を目指しているそうだ。
その為、その道を阻む始まりの森を調査していた訳なんだけど、何度か調査を重ねた結果、始まりの森西側に住むモンスターが少ないという調査結果が出たらしい
目的地は〈マガス山脈〉が存在する北側なんだけど、現状、モンスターが強く満足に調査が進まない中でモンスターの襲撃が少ない西側は自然と調査範囲を拡大していったそうだ。
始まりの森の最西端、大陸と神の地を隔てる大渓谷を沿うように進めば、戦闘能力の乏しい大型の輸送従魔も連れていけるほど安全になってくる。
なのでモンスターが出現しない遺跡周辺を前線基地とするべきではないか?なんて案もあるそうだ。
ただそこで起きる問題は、遺跡周辺に前線基地を築いた場合、最初に遺跡を発見した陣営が新たな前線基地建設の指揮を取ることになる。
そこで肝心なのが、遺跡を発見した陣営なんだけど遺跡を発見した陣営とフランクさんやフロウゼルさんの陣営とすこぶる仲が悪い
それこそ大陸中でまだ戦争が残っていた時代なんかだと何十年と長い間、その国と戦争をしていたみたいだ。
それがコーヴィス聖王国という国で以前、フロウゼルさんから決して近づかないようにと注意された陣営だ。
フランクさんの話を聞けば、エマネス帝国とコーヴィス聖王国は互いに隣接しており、国の成り立ちから元々仲が悪かったんだそう
元々、一つの国だったらしいんだけど、皇帝派と教皇派が存在しており、それぞれ貴族も二分される形で権力争いをしていたそうだ。
どういう理由でそうなったのかは分からないけど、同じ国に同じ皇の位を持つという、歪な体制は次第に険悪になって内紛を引き起こし、結果として今のエマネス帝国とコーヴィス聖王国に分かれたそうだ。
ただ元々同じ国の一員だった訳だから、当然血縁関係がとても複雑で、そのまま戦争によって国が分割されると同時に、貴族もそれぞれの派閥に分かれたので、親族同士で支配領域を争ったりと、当時それはもう凄かったそうだ。
例を出すなら、フロウゼルさんの家はアーマレア公爵家というエマネス帝国に三つしか存在しない大貴族様だ。
ただこのアーマレア公爵家も、フロウゼルさんの東アーマレア公爵家とコーヴィス聖王国に分かれた西アーマレア公爵家が存在するそうで
対外的には分かりにくいので東西で表しているけど、どちらも自分たちが正当な後継者としてアーマレア本家と名乗っているからこの問題の複雑さが分かる。
他にもエマネス帝国は様々な人種、種族別け隔てなく暮らそうという多民族国家の共生主義で
コーヴィス聖王国は人間至上主義国家、なので獣人やエルフといった亜人排外主義なのだそうだ。
誰かが決めた黒と白の陣営は、エマネス帝国とコーヴィス聖王国のふたつの国の相容れなさを的確に表していると思った。
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