第52話 従魔登録

 期日ぎりぎりで何とか太郎から合格を貰い、晴れて遺跡調査に同行出来るようになった。


 その間に倒したモンスターの数は10を超えるかもしれない


 強いモンスターは総じて肉質が硬いのが多いので、食用には向かないんだけど、装備の素材としては優秀なのでこれまで狩ったモンスターの素材はちゃんと倉庫に保管してある。


 もし時間があれば何か装備を作ろうかな?


人の姿をしている時のシロの防具とか作ってみても良いかもしれない


後は牙を加工した武器とかかな?









 日が昇る前のまだ薄暗い早朝に出発して、少し休憩を挟みつつ移動すれば昼前には到着した。


 スピードとスタミナを兼ね備えた太郎だと2時間もあればアルメヒ前線基地へ到着出来るんだけど、一般的なモンスターである夜や月となるとそうもいかない


 夜や月でも狼族として優れた身体能力を持ってはいるけど、相手が悪い


 多分、太郎の身体能力がおかしいだけだと思う


 森を抜け、見えてきたアルメヒ前線基地の北門には、黒の陣営の人達が既に集合しており、その集団に近づけば、隊員と会話をしていたフランクさんがこちらに気がついてやってきた。


「これがソラ殿の従魔ですか」

「はい、シロ、夜、月の三匹です」

「それにしても立派な体をした〈黒狼〉だ。流石ソラ殿と言うべきか」




 フランクさんが言う従魔、というのはテイム済みのモンスターの事を指すらしい


 従魔となるモンスターをテイムした際には、ギルドに届けを出すそうだ。


 冒険者のドッグタグのように、従魔には飼い主となる主人の名前や情報が記載された首輪が支給され、基本的に従魔が起こした問題は飼い主の責任になる。


「これがソラ殿の従魔達に装着する首輪です」


 そうやってフランクさんに手渡されたのは三つの首輪、シンプルな紐にタグが装着されている。


「大丈夫だと思いますが、従魔が起こした問題は主人の責任です。もし人馴れしていない場合は、人混みの激しい場所には連れて行かないようにしてください」

「分かりました」


 初めて俺以外の人を見たシロ、夜、月の三匹はやはりというか周囲を警戒して三匹で俺を囲むようにくっついている。


 意外だったのがこの三匹の中で一番調査隊の人に対して警戒心が高いのがシロだということ


 以前頂いた聖遺物からこの基地に住む人達の記憶もコピーしているから慣れてはいると思っていたんだけど、実際はそうでもないようだ。


 一応フランクさんにはまだ人馴れしていないことも言ってあるのでシロ達に強い興味を持っている人は多いけど、近づいてくることはない


 ただみんな凄くこちらを見ているけど


「ほら、シロ」


 フランクさんから貰った首輪をシロの首元に装着する。


 ただシロに関しては人に変身したりするんだけど、その場合どうなるんだろうか?


 パッと見た感じ、この首輪には魔法的な要素は無いように見える。ただ主人の情報が刻まれた首輪って言った感じ


「立派な個体ですね、黒狼はテイムが難しい部類のモンスターなので、憧れる冒険者は多いのですが、実際に黒狼を従魔にした人物は初めて見ました」


 感心するかのようにシロ、夜、月の三匹を観察するフランクさん


 フランクさん達だと影狼の事を黒狼と呼ぶのかな?ただ特徴的に図鑑では影狼ってあったけど、もしかしたら近縁種と間違えているかも知れない。


(様々な従魔が居るんだな)


 今回遺跡調査に向かう集団の中には従魔を飼っている人が何人か居るみたいだ。


 その多くが運搬能力の高い大柄な従魔なんだけど、中には戦闘向けの従魔を飼っている人もいるそうだ。


「ガッ、ガウッ!」

「ん?どうした?」


 俺とシロ達は集団から少し離れた位置に居る。


 これはまだ出会ったばかりの従魔達が喧嘩しない為の措置なんだけど、一匹の狼系の従魔がこちらを見て威嚇してきた。


「あー、あれはコランの従魔ですね、この隊で唯一の狼系モンスターの従魔です。初めて同族と会ったので警戒しているんだと思います」


 フランクさんが言うコランさんの従魔はまさに灰色の毛並みの狼系モンスターだった。


 ハスキーを更に大きくしたような見た目で、姿勢を低くして俺やシロ達を睨んでくる。


「laoya4;a;!?」


 その従魔の飼い主であるコランさんも驚いているのか、必死に宥めようとしているけど、興奮は収まらない様子


 ヨダレを垂らし、牙をむき出しにしながら警戒する様子は、基本的穏やかな太郎、夜、月では見られない光景無いので何処か新鮮


 ただこのままだといつ襲いかかってくるか分からないので危険な状態だ。


「あ」


 その考えがある意味フラグになっていたのか、一瞬、興奮している従魔から目線を外した瞬間、コランさんの従魔が俺に向かって飛びかかってきた。


 その瞬間、ざわついていた周囲が静寂になり、辺りがスローモーションの様にゆっくりと時が流れるような感覚を覚える。


 俺の顔に向かって口を開くコランさんの従魔は、既に飛びかかってきており、元の距離が短かったこともあって避けることは難しい


 単純に自分が避けると夜が危ないと言うのもある。


 ただ迎撃することは可能だ。腕一本ぐらいなら遅れを取った状態でも繰り出せるし、ただその場合だとコランさんの従魔を傷つけてしまう恐れがあった。


(多分、噛まれても大丈夫かな?)


 なので俺は右腕を前に出し、腕を噛ませる事にした。


 これでも身体は丈夫なので噛まれても大怪我はしないはず。


腕を噛ませれば捕縛は可能だろう、そう思った瞬間


 飛びかかって来たコランさんの従魔の真下、その影から生えるように、背後に待機していたはずの夜の顔が出てきた。


 影世界へ潜む〈影縫い〉を使い、夜は襲ってきた従魔の影から現れて、がら空きの喉元に一気に噛みつく


「ガアッ!?」


 襲ってきた従魔も予想外だったのだろう、いきなり真下から現れて喉元を噛みつかれるとは思いもしなかったようだ。










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